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 ひみつごと

家の近所にある居酒屋。
お兄ちゃんの友達が経営してるトコで、昔から親が仕事で遅い時とか、何かあった時とかよくここに来ていた。
けど、ここ最近は毎日の様に通っている。
もちろん、お兄ちゃんには内緒だ。

「いらっしゃい!ってなんだ、ハチ公か」
「なんだってなによ。一番貢献してる常連様に向かって」

いつものようにいつもの席へ。
カウンターの一番奥の席、そこが私の特等席。
当たり前のようにそこに座り、当たり前のように出てくる付き出しとビール。

「へい、お待ちどーさん」
「ありがとー!」

ドンッ!と出されたビールを一気に飲み干す。

「あーっ!美味しい!」
「毎日良い飲みっぷりだなァ。そういやマルコは知ってんのか?ここに来てんの」
「そんな訳ないじゃん。言ったら止められるし。あ、軟骨唐揚げ」

俺怒られんじゃん!なんて叫びつつ注文の唐揚げに取り掛かる。
マルコお兄ちゃんになんか言うわけないじゃん。
ちょうど高校卒業前に大学受験の事で悩んでた時にお兄ちゃんに連れられ久々にここにきた。
その時、なんて事ない言葉だったけど、頑張ろうって言ってもらえて私は無事に大学に合格した。
二十歳になってお酒を嗜むようになってから大好きなサッチの側に少しでも居たくて毎日ここに通うようになった。
それをお兄ちゃんに言ったら全力で止められたっけ。

「あんのパイナップル…」

思い出してしまって軽く舌打ちをした。
可愛い妹の恋くらい応援してくれたっていいじゃん。
そりゃ、一回告白したら振られたけどさ。
ずっと好きだったんだよ?簡単に諦めれるわけないじゃん。

「へい、お待ちどー。あとビールも」
「ありがとー!分かってんね!」
「お前の事ならなんでもお見通しだっての!」

二カッと笑う笑顔がキラキラしてて眩しい。
くそっ。不覚にもときめいてしまう。
サッチのくせに。

「じゃあ私が今なに考えてるか当ててみて」
「そうだなー…彼氏欲しい、とか?」
「おしい!」

そりゃ彼氏は欲しいよ。
私もオトシゴロなわけだし。

「サッチが彼氏になんないかなーって」

にーっこり、と笑顔を作ってやれば、ポカンとしているサッチ。

「そんなことしたら俺、マルコに殺されんじゃん」
「ヘタレか!」

ケタケタと二人して笑う。
こんなノリのサッチとの会話がたまらなく好きだ。
バカっぽいけど、なんか落ち着く。

「っと、時間だ。ハチ公は…」
「まだ飲むー!」

閉店しても飲むのはもうお決まりのこと。
のれんを下げ、表の電気を消して、片付けが終わるとビール片手に私の隣の席へ座る。
これももうお決まりになっていた。

「はい、お疲れー!」
「お疲れさん!あ、つまみは枝豆な。もうサッちゃん疲れた」

そう言って大量の枝豆を目の前に出す。
これ絶対余り物じゃん。
軽く10人前ほどある枝豆をひとつ取って口に放り込む。
塩加減が絶妙。うまい。

昨日のつまみは確か唐揚げだったけ。
確か唐揚げも大量に作ってあって、食べれるのか?って思ったけど帰る頃にはなくなってたっけ。

「てかさ、なんでいつもこんなにつまみがあるわけ?」
「そりゃオメーあれよ」
「どれよ」
「ハチ公と飲むためよ」

なにそれ期待しちゃうじゃん。
楽しそうな顔をしてさらりと言ってのけるサッチに動揺がばれない様に平然を装う。

「いろんな人に言ってんじゃないのー?」
「俺はいつでも大真面目よ!」

なんだそれ。
自信満々に言うから思わず笑ってしまった。

「あははっ!サッチのそういうとこ好きだなー。やっぱ彼氏はサッチがいい」
「おい。マルコの怖さ知ってんだろ」

あのシスコン野郎。と付け加え何を思い出したのか少し顔が青ざめた。
可哀想に。我が兄ながら怖さは般若を超えるからな。

「じゃあお兄ちゃんが他人だったらいいの?」

クスクスと笑いながら問えば、それならいい。と普通の返事が返ってきて思わず噎せた。
この時ほどお兄ちゃんを恨んだことはない。
もうなんて言ったらいいのかわかんなくなって黙々と枝豆とビールを飲み食いする。

「でもまぁ…」

少しショックを受けているのを感じ取ったのか、体ごと此方に向けて座り直し、カウンターに肘をつく。

「当分ナイショならいいか。事後報告なら許してくれっかな?」
「…?それってどういう…」

全て言い終わる前にサッチの顔が近付いてきて、熱を帯びた柔らかな唇が私の唇に触れる。
なにがどうなったかわからなくなった私の耳元で囁くように、ナイショ、な。と言った。
きっと今、私の顔は真っ赤だろう。
すっごく、熱い。なにこれこんなの知らない。

「ナイショ、できるか?」

人差し指を口元に当てシーとしながら小さな子どもに聞かせるように言うサッチに何度も首を縦に振る。

「よし、イイコだ」

ぽんぽん と頭を撫でられ、超が付くほどご機嫌なサッチは鼻歌なんかを歌い始めた。

「サッチのくせに…」
「俺だってずっと我慢してたんだぞ。それに本気を出した俺は凄いんだ」

何が凄いのかさっぱりわからないけど、結果オーライだしいいや。
秘密って凄いドキドキするし。
なんだか楽しい事になりそうな予感がする。

「因みにマルコの秘密をひとつ知ってる!」
「え、うそ。なにそれ」

きっと明日も私はここに来ていつものように居座っていつものように閉店後も飲み続けるんだろう。
ひとつ違うのは私たちの関係。
他の誰も知らない二人だけの


ひみつごと
「マルコの彼女、ありゃイゾウの妹だ」
「え、なに。お兄ちゃん死にたいの?」





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