▼ 彼女の本音
「あー…疲れた…」
ここ数日の間、机の上に山積みにされた書類と戦っていた。
くっと背筋を伸ばせばパキパキと骨がなる。
ずっと座っていたせいか腰もケツも痛い。
俺は久しぶりとも言えるくらいに部屋のドアを開けると、宴が行われていて家族達の賑やかな声が聞こえてきた。
近くに寄れば隊員達が、お疲れ様です、と次々に声を掛けてきて酒を継いでくれた。
「ありがとな」
「いえ!もう10日ほど部屋に篭りきりでしたでしょ?!今日はパーッと呑んでください!」
俺10日も篭ってたのか。
まぁあれだけの書類だ、仕方ねェか。
継がれた酒を一気に飲み干すと、それに気付いた奴が次から次へと継いでくれた。
「隊長が部屋から出てこないからハチ公さんが心配してましたよ?」
そういえば久しく見てねェな、ハチ公の顔。
呼んできましょうか?と声を掛けられ、ハチ公を探すとエースやハルタ達と盛り上がってたから、そう言った奴に断りをいれた。
楽しそうにしてるんだ、今はそのままで後で声をかければいいだろう。
俺は新しい酒瓶を一本貰い、少し離れた場所へ移動した。
さすがの俺でも仕事の疲れがまだ抜けなくて、家族が楽しんでる様子を傍観しながらチマチマと嗜む。
久しぶりの酒は極上の味がした。
皆がいい具合に出来上がってきた頃、俺の手元にある酒瓶も一本から二本、三本と増えていき、珍しく少しのアルコールが体に回った。
「イゾウさーん!呑んれますかぁ?」
いつ気が付いたのか、千鳥足になりながら、酒瓶を抱えたハチ公が近づいてきた。
こいつ相当酔ってるな。
「呑んでますよ」
「そうれすか。へへーっ、なんか久しぶりれすねー」
にこにこしながら俺の隣に腰を下ろし、持っていた酒を一気に流し込んだ。
「お仕事終わりまひたか?」
「あぁ、もう片付いた」
「お疲れさまれす!これ、呑みましょ!」
そう言って渡してきたそれは、俺の好きなワノ国の酒だった。
確保してたんれすよ、と言って盃に継いでくれた。
「悪いな」
「イゾウさんコレ好きーって言ってたから皆に取られそうになったけろ頑張ったのれす!」
いかにも、褒めてくれと言わんばかりにそう言うから、俺はハチ公の頭をくしゃくしゃと撫でてやり、その酒を味わった。
やっぱり美味い。少し甘い感じが疲れを取ってくれる。
「そーいえば!この前ね、」
ハチ公は俺が篭りっきりだった10日ほどの間に起きた出来事を話し出した。
エースが食糧盗み食いしてマルコとサッチに怒られたとか、エースと釣り勝負して勝ったとか、敵船が現れた時は誰が一番多く敵を倒すか勝負したとか、それは楽しそうに話していた。
俺が参加してないだけで、いつもの日常と然程変わりはねェが、楽しそうに話すハチ公を見てると酒が進む。
「俺がいないほうが勝てるんじゃねェか?」
「イゾウさんいるとドキドキして集中れきませんもん」
可愛いこと言ってくれるじゃねェか。
いい加減慣れてほしいとも思うが、俺のせいで慌てふためくハチ公を見れなくなるのは考えものだな。
そうこうしているうちに酒瓶を全て飲み干し、新しいものを取りに行こうとすると、ハチ公に服の裾を掴まれ、それを阻止された。
「ハチ公?」
「……った、れす」
俯いて小さく聞こえる声は、今ひとつ聞き取れなくて、ハチ公の前にしゃがみ込んで、どうした?と尋ねると消えそうな声で呟いた。
「寂しかった、れす…」
酒のせいか、少し潤んだ瞳で俺を捉え、さっきまでの楽しそうや表情とは打って変わって悲しい表情を浮かべていた。
「イゾウさん、部屋かられてこないし、邪魔しちゃらめらと思って、会えなくて、寂しかったれす」
「ハチ公…ごめんな?」
少し泣きそうになったハチ公を抱き締めてやると、ハチ公もそれに応えてくれて、ぎゅっと力を込めてきた。
きっと、それだけ寂しい思いをさせてたんだろうな。
「わらしにはイゾウさんしかいないんれすよ?」
酔っているせいか、普段は照れて言わない事をすらすらと言ってのけるハチ公に俺は少しドキッとした。
それと同時に、言わない事を言わせたい衝動にかられてしまう。
「俺だけ?」
「イゾウさんらけれす」
「でもハチ公はエースとかと仲いいだろ?」
う、と言葉に詰まるハチ公を見て、すかさず仕掛けにいく。
「俺がいなくてもエースやハルタ、それにマルコもサッチも、みんないるじゃねェか」
「でも!そこにイゾウさんがいないと意味ないれすー!」
本当れす!と必死に言ってくるのが面白くて、俺の悪戯心にスイッチが入る。
「嘘ばっかり」
「う、嘘じゃないれす!本当れす!」
「証拠は?」
俺はガキか。そう思ったが、それは全て酔っているから、という事にしてハチ公の返事を待つ。
ハチ公は少し怒ったような顔をして、周りもそれに驚いてこちらを凝視するほどに勢い良く言葉を発した。
「ホントらもん!イゾウさんが好きなんらもん!!わらしの横はイゾウさんらけらもん。イゾウさんじゃなきゃ意味ないもん…わらしは、いつもイゾウさんでいっぱいなんらもん…!」
「ハチ公、」
「なによ!わらしばっかり!これれも我慢しるんらもん!!ホントは毎日いっぱいぎゅーってしてちゅーして!それから、それから、えっ「だー!!わかった!俺が悪かったから!落ち着けって!」
聞いてるこっちが恥ずかしくなってきて、ハチ公の口を手で塞ぐ。
ちょっとやりすぎたか、周りの視線が色んな意味で痛い。
「ちょっと待ってろ」
そう言ってキッチンの方へ足を進める。
途中サッチとかから「いちゃつくなばか!」だとか野次が四方八方から飛んできたが、完全無視で水を取ると、ハチ公を連れて部屋に帰った。
「お開きれすか?」
「俺たちはな。してほしいんだろ?」
両手を広げると、小さな子供のように飛び付いてきた。
腕に力を込めるとハチ公もそれに応えて力を入れる。
目と目が合えば、自然に唇を何度も交わし、首筋に舌を這わす。
「ひゃぁっ、ん…イゾ、さんっ」
「んー?」
きつく吸ってやると、赤い印がハチ公の首筋にくっきりとついた。
「俺のものって印」
「へへ、嬉しいれす」
「ハチ公も付けろよ」
ほら、と催促すると、遠慮がちに俺の首に吸い付いてきた。
チクっと走る痛みがなくなると、二人で鏡の前に立ちそれを確認する。
「お揃いれすね」
「そうだな」
そう言って笑い合い、ハグをしてキスをする。
ハチ公を抱えてベッドまで運び、少し乱暴にキスをする。
舌を入れ、口内を掻き回し、息もままならないハチ公から甘い声が漏れる。
「ハチ公、好きだ」
「わ、わらしも…好きれす」
したい?と尋ねると、恥ずかしそうに、したい、と答えてくれた。
まぁ、ここまでしておいてやめるなんて事は出来ねェけどな。
それに大勢の人の前であれだけの事を言ったハチ公も同じだと思う。
その日、ハチ公の意識が無くなるまで肌を重ね合わせた。
朝、ハチ公の物凄い悲鳴で目が覚める。
「うるせェ…」
「イ!イゾウ、さん…!ご、ごめんなさい!あの、」
酔いすぎて記憶が無いんだろうな、状況が飲み込めていないのが寝起きの俺でもすぐに分かった。
重い体を起こし、おはようのキスをする。
「なっ?!」
「なに驚いてんだよ。ハチ公が言ったんだぜ?毎日いっぱいぎゅーってして、ちゅーしてえっちしたいって」
わざと不思議そうに言うと、やっぱり全然思い出せなくて、放心状態のハチ公を押し倒す。
「安心しな、俺はお前のものだ」
昨日お互いに付けた印を見せ、口角を上げて笑えば、真っ赤になった顔を両手で覆い隠した。
酔ってるハチ公も良いが、こうして俺の言葉行動ひとつひとつに反応をくれるハチ公もやっぱり良いよなぁ。
やべ、また勃ってきた。
「自分で言ったんだからな」
「え?やっ!ちょ、イゾウさん!待っ、あぁっ」
やっちまったなぁ!「え…まじでそんな事言ってたんですか…?」
「すっげぇデカイ声で言ってたよなぁ?エース」
「だな。みんな聞いてたぞ。なぁ?マルコ」
「あのイゾウですらも照れるくらいによい」
「………?!」