dream | ナノ

 白妙菊

あいつはそんなに柔じゃない。
そう思っていた、あいつの涙を見るまでは。

「また泣いてんのか」

壁に体を預けて、俺の部屋の隅でうずくまって泣いているハチ公に問いかける。
あいつとまた何かあったんだろう。
何かあれば決まって俺の部屋に来て涙を流すようになった。
ハチ公曰く、何も言わないから楽、だそうだ。
でもこうも毎日部屋で泣いていたら誰だってそう問いかけるはずだ。

「別に話さなくてもいいさ」

話したくなれば話せばいい。無理には聞かない。
聞いてもハチ公は大丈夫、と言って無理に笑おうとするから。
正直、そういう顔は見たくない。
仮にも惚れてる女の辛そうな顔なんざ、誰も見たいとは思わないだろう。

「イゾウ…お願い…」

ハチ公がそう言う時は決まって傍に居てやる。
特に何か喋るでもなく、ハチ公は俺の服の裾を掴んで必死に涙を止めようとする。

「ごめ…っ、イゾウ…ありが、と」

涙を拭う手を掴むと、目元は赤く腫れていて、次から次へと溢れる涙が頬を伝う。
後頭部に手をやり、グッと引き寄せる。

「俺の女になれよ。そんな顔、絶対にさせねェから」

俺が守る。ハチ公の心も笑顔も全部。
ハチ公に涙は似合わねェよ。
ずっと、俺のそばで笑っていてほしい。
ただそれだけなんだ。

「いっ、イゾウ…っ、イゾウ!」

ハチ公のそばで支えてやれるのはいつだって俺だけだ。

「俺はどこにも行かねェよ」

両腕でしっかりハチ公を抱き締めると、ハチ公も同じように背中に手を回し俺にしがみついた。

「あり、がとっ、ありが、と…」

ひたすらに礼を言うのを黙って受け止める。
後日、俺が部屋に帰るとハチ公がいた。
今度はベッドの上に足を三角にして座っていた。
何も言わずに隣へ腰をかけると、視線は前を向けたままハチ公が口を開いた。

「お別れ、してきたよ」
「…」
「意外と未練、残んなかったの」

嘘つけ、と内心思ってハチ公へ視線をやれば、スッキリしていて、でもどこか憂いているような表情だった。

「イゾウがいて良かった。ありがと」

俺に向かって笑いかけたハチ公はやっぱりどこか無理して笑っている感じがした。

「無理してんじゃねェよ」

拳で頭を軽く叩けば、へらっと気のない笑顔を作る。
でもようやく笑うようになったんだ。
それだけでもよしとすっか。

君の笑顔が、俺の全て
「…好きだ、」
「あ…っ、あたしも…」





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -