dream | ナノ

 Valentine 2013

「フンフンフーン〜♪」

昨日の内に作ったチョコを片手に鼻歌を歌いながら恋人であるイゾウさんを探す。
この時間甲板に居てると思ったんだけど、行ってみたらいなかったから広い船内を歩き回っている。

「ハチ公?なにしてんだ?」
「エース!イゾウさん見なかった?」

報告書をマルコさんの所へ持っていく途中のエースが声を掛けてくれた。
ずっと探してるのに見つからないんだもの。
こういうときは人に聞くのが一番早い。

「医務室あたりで見かけたぜ」
「ありがとう!」

医務室かぁ、怪我でもしたのかな?
呑気にそんな事を考えながら医務室の方へ向かうと、イゾウさんの後ろ姿が視界に入った。
丁度曲がり角の所に居てるから、脅かそうと思ってゆっくり近付いて行けば、耳を疑うような会話が聞こえてきた。

「イゾウ隊長。これ、受け取って下さい」

声の主はナースのジェリーさんで、告白するにはもってこいの今日、チョコレートを渡していた。
ジェリーさんもイゾウさんが好きだったの?

「ハチ公と付き合っているのは知ってます。でもやっぱり好きなんです」

ズキンと胸の奥が痛む。
ジェリーさんは背も高くてスタイルも良くて美人で、あたしなんかとは正反対で。
急に自分が惨めに思えてきて泣きそうになる。
でもイゾウさんにはあたしが居てるから、大丈夫だよね。
と思っていたのも束の間。

「ありがとな」

綻んでいるような声でそう言った。
まだ何か話しているような気がしたけど、動揺しまくっているあたしは踵を返してその場を離れた。
ごめん、なら未だしもありがとう、って言うのはその好意を受け入れたってことで、ならあたしは?
イゾウさんの傍には居られないの?
マイナスな考えがどんどん膨らんできて涙が溢れ出す。

「ハチ公?何泣いてんだよい?!」
「マルコさぁん」

甲板に行けばマルコさんとサッチさんがいて、あたしに気づいたマルコさんが駆け寄って声をかけてくれた。
あたしは先程の一部始終を泣きながら二人に話した。

「イゾウがそんな事をねェ」
「や、やっぱり…そう言う事なんでしょうか?」

泣きながらのあたしの言葉をしっかり聞いてくれた。
思い出したらやっぱり悲しくなって涙が止まらなくなる。

「そんなことねェよい」

安心しろい、とマルコさんが頭を撫でて慰めてくれる。
でも好意を受け入れたのは事実で、イゾウさんの綻んだような声が頭から離れない。
安心しろと言われてそう出来たら苦労はしないし、本人に直接聞く勇気のない自分が一番めんどくさいと思う。

「イゾウの彼女はハチ公だろい?自信持てよい。イゾウの性格はハチ公が一番わかってんだろい?」
「そーだぜ?じゃないと俺がそのチョコ貰っちゃうぜ」

イゾウさんの性格、手先は器用なのに人付き合いは不器用で、優しくて自分の事より人の心配ばっかりで、頼りになる大切な人。
マルコさんに言われて涙が止まる。

「そのチョコは俺ンだ、サッチ」

ズシリと背中に圧が掛かる。
イゾウさんが後ろから抱き締めてきて、サッチさんを睨む。

「ご本人の登場だよい」
「邪魔者は退散すっか、じゃーな、ハチ公頑張れよ」

サッチさんに頭をくしゃっとされ隊長さんたちは何処かへ行ってしまった。
やけに緊張するこの空気が今のあたしには耐えれない。
マルコさんはああ言ったけど、今ひとつ勇気が振り出せない。

「何サッチの野郎にあげようとしてんだよ、お前さんは」
「…っ!だって!」

だって、ジェリーさんのチョコ、受け取ったんじゃないの?
そう言いかけた言葉はイゾウさんの耳に届けられなかった。

「だって、なんだよ?」

イラつきが混じった言葉はあたしを余計に不安にさせる。

「だって…さっきジェリーさんと…ありがとうって…」

再び涙がこみ上げてくる。
ポツリポツリと出た単語でイゾウさんは理解したらしく、見られたか、とボソッと呟いた。
罰の悪そうに人差し指で額を掻くと、勢いよくあたしをイゾウさんの顔が見えるように振り向かせる。

「ジェリーとは何にもない。告白されたが俺にはハチ公がいてるし、あいつは船員以外の何者でもねェ」
「でも、ありがとうって…」

確かにそう言っていたのを聞いた。
どういう意味のありがとうだったの?

「ハチ公もエースに好きだって言われてんだろ?」

確かにエースは凝りもせず好きだといってくれる。
それはそれで嬉しいからあたしもありがとうって…

「あ、」
「そういうこった。あの後ちゃんと断ったし、チョコはハチ公からしか貰う気ねェよ」

あたしの、勘違いだったの?
あたしがエースに言ってる感覚と同じだったんだ。
それを聞いて安堵したあたしは腰が抜けたのか床に座り込んだ。

「よ、良かったぁ…あたし、もうイゾウさんの傍に居れなくなるかと、」
「んなわけねェだろ」

あたしの頬を伝って流れている涙をイゾウさんが舌で舐めとると、しょっぺと言いながらぎゅっと抱き締めてくれた。

「俺の隣はハチ公だけだ」

その一言が嬉しくて、あたしもイゾウさんの背中に腕をまわし強く抱き締めて子供のように泣いてしまった。
あたし、イゾウさんの隣にいても良いんだ。

「イゾウさぁん、好きぃー!」
「子供かよ!」

イゾウさんはあたしが泣き止むまでずっと抱き締めていてくれた。
だんだん落ち着きを取り戻してきたあたしは
、あんな風に泣いたのは初めてで、少し照れ臭くなった。

「ごめんなさい、もう大丈夫です」

手を繋いで、隣同士に座って、空いている手で真っ赤になった目元に風を送る。

「ハチ公があそこまで泣くのはレアだからな」
「もー!言わないでよぉ!」

からかいながら豪快に笑うから、恥ずかしさでそっぽを向いてしまう。
イゾウさんはすぐに人をからかうんだから。
でも、ネタにはしないでその場だけでからかうのをあたしは知ってる。
そう思うとなんだか笑けてくる。

「イゾウさん、コレ」

すっかり忘れていたチョコレートを差し出す。
和菓子が好きなイゾウさんのためにチョコ団子、気に入ってくれるかな。

「飯食ったら俺の部屋でこいつを食おう。美味い茶、だしてやるから」

今はこの手を、離したくねェ。

そう付け加えてあたしの肩に頭を預ける。
もしかして、イゾウさんも不安になったりするのかな。
不謹慎かもしれないけど、もしそうなら嬉しいなぁ。
ふふっと笑いを零せば、閉じていた片方の目を開いてこちらを見る。

「なに笑ってんだよ」
「なんか、あたし幸せだなぁって」
「なんだよそれ」

笑ったイゾウさんはまるで、俺もだ、と言っているようだった。
もうなにも不安になるような事はないよね。
お互い繋いだ手を離されないようにきゅっと力を込めて瞳を閉じた。


Hppy Valentine
「俺も、幸せだ」







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