dream | ナノ

 Valentine 2013

今日バレンタイン。
好きな人にチョコをあげて告白するという素敵なイベント。
だからあたしも愛しのマルコ隊長にチョコを渡すためにチョコを作っているわけですが。


「だー!ハチ公ストップ!それは砂糖じゃねェ!塩だ!」
「えー!これ塩?!」

サッチ隊長にキッチンを借り奮闘していると、あまりの出来の悪さに見てられなかったらしく手伝ってくれている。

「紛らわしいよ!なんで並んで存在してるんだこいつ等!」
「わけわかんねェ言葉使うんじゃねェよ!わかんだろそれぐらい!!」

わかったら間違えないよ、と心の中で思ったが教えて貰ってるから口に出してはいえない。
チョコなんて溶かして固めるだけって思ってたけど、それなら板チョコと変わりないもんね。
もう板チョコでもいいかな。なんて諦めかけている。

「ハチ公、少しずつ生クリーム入れて混ぜる。メレンゲは俺がやってやるから」
「はーい」

カシャカシャと少しずつ生クリームを加えかきまぜる。
マルコ隊長受け取ってくれるかなぁ。
ありがとよい、俺もハチ公のこと好きだよい。なーんて言われたらあたしどーしよー!!!
妄想が妄想を呼び一人で舞い上がっていると、サッチ隊長の怒声で呼び戻される。

「ハチ公!ちゃんとやりやがれ!」
「ひゃあい!!」

なんとか生クリームを全て加えて混ぜ終わり、サッチ隊長に作ってもらったメレンゲを加え型に流す。
後はオーブンに入れて焼くだけ。

「なんとか出来そうだな」
「疲れたぁ」

カウンターに座り伸びをする。
サッチ隊長は紅茶の入ったカップを目の前に置いてくれる。
絶妙な甘さでミルクとの割合も最高に良いから本当に好きだ。

「おいしーい。サッチ隊長の紅茶は世界一だよ」
「当たり前だろ!このサッチ様が作ったんだからな」
「俺もその世界一美味い紅茶とやらを貰おうかね」

そう言って隣に腰を掛けたのはマルコ隊長。

「ほれ、仕事終わったのか?」
「終わるわけねェだろい。エース待ちだ」

マルコ隊長は差し出された紅茶を飲みながら頭を抱えていた。
エース隊長報告書出してなかったんだ。
いつもの事だけど、大変だよね、隊長お仕事。っていうより一番隊隊長お仕事って。
マルコ隊長は出来る人だから。そこもかっこいいけど。
最終、自分の中でほっこりとした思考に落ち着き、紅茶を飲む。

「甘い」
「ハチ公専用の紅茶だからな」

マルコ隊長は予想外の甘さだったのか、眉間に皺を寄せてあたしを見る。
そんな見つめられては困る!!

「どうしたんですか?」
「良くこんな甘い物飲めるよい」
「もしかして…甘いの嫌いですか?」

焦る。とてつもなく焦る。
だって今微かに香る甘い匂いはマルコ隊長の事を想って作ったチョコレート。
ここで嫌いと言われれば受け取ってもらえなくなる。
それ以前に、俺、甘いモンも嫌いだしハチ公の事もそういう風には見れねェよい。なんて言われたら生きていけない。
ドキドキしながら返事を待っていると、マルコ隊長が口を開く

「好きでもねェし嫌いでもねェよい。ただ、これは甘すぎだよい」

んー…それはどう受け取ればいいのだろう。
あたしとは味覚が合わないから無理だって事なのか?
それとも、ハチ公もこんな甘いのか味見してやるよい。て事なのか、どっちー?!
ていうか、完全前者でしょうよ!後者は無理がありすぎるでしょ、あたし!

「ハチ公?」
「あー、マルコ、ほっときゃ直る。ショートすっから」
「は?」

ショートした頭は煙が出て、あたしはカウンターに頭を打ち付けた。

「…戻りました」
「な?」
「…よい」

また飛んでいたらしく、マルコ隊長はそんなあたしを不思議そうな顔で凝視する。
そこに、ピーっという音が鳴りあたしはオーブンに駆け寄った。

「出来たぞー」

ふっくらと焼きあがったガトーショコラ。
(サッチ隊長に手伝ってもらったとはいえ)こんなにも美味しそうに出来るなんてなかなかのものだ。
一時はどうなるかと思ったけど、見た目は完璧!
後は味を確かめるのみ。

「なんだよい、それ?」
「ガトーショコラで、あ…」

しまったー!呑気に渡す相手に見せてどうすんのあたし!!
興味無さ気に流すマルコ隊長だったけどあたしはテンパりまくりでいつにも増して奇妙な行動をとる。

「あ、いや、これは別にバレンタインだから、とかマルコ隊長に食べて欲しくて作ったとかじゃ、!」
「ハチ公!ばかっ!」

サッチ隊長に言われて気が付く。
本人にバラしてしまってどうするんだと。
言っちゃったー!とサッチ隊長と慌てていると、マルコ隊長が立ち上がる。

「頑張って渡せよい」

そう言った去って行ったマルコ隊長の口元が少し上がっていたような気がした。

「…ばれてない?」
「いや、バレバレだろ」

この時あたしはバレてようがいまいが渡す事には変わりないし、バレていたら緊張せず渡せるじゃん!なんて甘い考えをしていた。

「ラッピングぐれェ出来んだろ?」
「はい!こういうのは得意です」

不器用だけどこういうラッピングだとか飾り付けだとかは得意なあたし。
可愛い箱にガトーショコラを入れて、予め用意しておいた手紙をいれ蓋をする。
箱より大きめの袋に入れて入り口を可愛い二色のリボンで結べば完璧!

「じゃーん!」
「へぇ、器用に出来んだな」

まあね!と鼻の下を人差し指で摩れば、調子に乗るなと一喝されたけど、なんの取り柄のないあたしにはこれは天狗になっても良いくらいの特技だ。
チョコは用意出来たし後は渡すだけ。
寝る前までは忙しいと思うから、タイミングを見計らってマルコ隊長の部屋に行こう。






夜、騒がしかった船内が静かになったのでチョコを片手にマルコ隊長の部屋に向かった。
昼間はバレたし平気だなんだと思っていたがいざ渡すとなれば胸の鼓動は早くなり緊張で手が震える。
マルコ隊長部屋の前まで来たは良いが、ノックがなかなかできずにドアの前で立ち竦んでいる。
パッと渡してパッと帰ろう。
そう思ってノックしようとドアに手を宛がうがそこから動かない。
き、緊張する。たかがチョコ、されどチョコ。
友チョコを渡すのとは訳が違う、これは所謂本命。
今更ながら不安と緊張で頭がショートしそうだ。
悶々としているといきなりドアが開いた。

「さっきからどうしたんだよい」

ダル着に眼鏡を掛けているマルコ隊長。
それでも格好良いにも程がある、じゃなくて!どうしてわかったんだろう。
唖然としていると手を引かれ部屋の中入れられた。

「で、俺に用があったんだろい?」

ニヤニヤと笑いながら質問してくる。
分かってる癖にそうやって聞いてくるのでたちが悪い。
不覚にもキュンとしてしまう自分もどうかと思うが。

「あ、あの…コレ…」

持っていたチョコをマルコ隊長に差し出すと何も言わないでソレを受け取った。
手早く中からチョコを取り出して一口食べるのをドキドキしながら、後の言葉を待つ。

「…甘い、けど美味いよい」

ありがとよい、と付け加えあたしの頭を撫でてくれた。
マルコ隊長の笑顔に安堵してあたしの頬も緩む。

「…俺も、」
「はい?」

上を見上げると優しく微笑んでいるマルコ隊長と目があった、と思ったらだんだんマルコ隊長顔が近くなって来た。

「俺も、好きだよい」

頬に触れるだけのキスをされ、入れておいた手紙を目の前で見れられる。

好きです

とたった四文字だけ書かれた手紙。
自分で入れておいたのだが、改めて見せられると急激に恥ずかしさに襲われる。

「ハチ公の言葉で聞きてェよい」
「な、何を…ですか?」

目の前で悪戯っ子のように満面の笑みを浮かべるマルコ隊長に苦笑いしか出来なかった。
分かってる、いくらあたしでもこの流れは読める。
でも、改まって言うのも照れ以外のなにものでもない。
早く早くと急かすように見えるマルコ隊長の笑顔にはやっぱり勝てるはずもなくて。

「…っ、す、好き…です」
「聞こえねェよい」

俯いて言ったけど、この距離で聞こえない訳がない。
この人絶対ワザとだ。そう確信していても目が合えばマルコ隊長に魅了されて頭がクラクラする。

「マルコ、隊長の事が、好き…大好き、です」

顔に熱が集中するのがわかる。
きっと真っ赤に染まっているんだろう。
マルコ隊長は満足そうに笑っていた。
ぎゅっと抱き締められ、耳元で「そんな風に言われたら帰したくなくなるよい」なんて囁かれる。

「そんなの、反則ですよぉ」

マルコ隊長の肩に顔を伏せてきゅっと服を掴んだら、顔は見えないけど、隊長が子供のように笑った気がした。

「隊長、やっぱ反則です」
「…?なにがだよい」

格好良さも、その笑顔も。その言葉も。


Happy Valentine
本当に甘いのはどっち?






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -