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浮気男と狡い人

「ん、待って…あ、ぁ」

今日も聞こえてくる、甘ったるい女の声。
島に着くなり毎日のように女を取っ替え引っ替えしているのは本当に私の恋人なのだろうかと錯覚してしまいそうになる。
私の部屋の隣は完全に彼の部屋で、この島だけじゃなく前の島も、その前の島でも聞こえてくるのはいろんな女の喘ぎ声。

反吐が出る。

そう思うのに島へ降りないのは、まだ好きという感情があるからなのか。
もしかしたら私の部屋のドアをノックしていつもの笑顔で私を呼びにきてくれるんじゃないかと未だにそんな期待をしているからなのか。
そんなどうでもいい事を自室に篭り、聞きたくもない行為の音を聞きながら考える自分に反吐が出そうだ。

気を紛らわすために飲んでいたお酒ももう殆ど空になってしまっていた。
舌打ちをしながら重い腰を持ち上げ部屋を後にする。
甲板に出ればひやりとした夜風が私の頬を撫でた。
自室にいるより心が落ち着く気がして、ポケットから煙草を取り出し火を付ける。

「はぁー…」
「随分と大きい溜め息だなァ」

驚いた、もう殆どの人が島に降りていて船に残っているのは不寝番の人だけだと思ってたから。
まさか16番隊隊長のイゾウ隊長が残っていたなんて。

「どうされたんですか?船に残っているなんて…」
「ちょっと忘れ物をな、」

そう言って私の隣にきて煙管に火を付けた。
イゾウ隊長は物を大事にする人だと思う。
その証拠に手にしている煙管は新品のように綺麗で、銃も着ている着物、イゾウ隊長の持ち物全てが真新しく感じる。
隊長のような人だったら、女も大事に扱ってくれるのだろうか。

「島には降りねェのか?」
「は、はい…私は、不寝番なので…」

私も白ひげ海賊団といえど隊長と話す機会なんてそうそうない。
あったとしても伝言や書類を渡す時のみだから、こうして隊も違うイゾウ隊長と肩を並べて話をするなんて緊張しない訳がない。

「一人でか?」
「ッ……」

イゾウ隊長の質問にピクリと反応してしまった。
一人なわけないじゃない。片割れは女とお楽しみ中だ。
そんな事言えるわけもなく私は黙りこけてしまった。

「…あぁ、成る程な」
「な…にが、ですか」

その言葉の意味は、嫌でもわかる。
耳を澄ませば波の音と共に聞こえてくる嫌な声。
灰と化した煙草を投げ捨てて耳を塞ぐ。
それでもその音だけがはっきりと聞こえてきて私の胸は苦しいくらいに締め付けられる。

「別れねェのか?」

恋人なんだろう、と尋ねてくる隊長を見て目を見開いた。
隠していたわけではないけど知られていた事に正直吃驚した。

「別れ…たいんですけど、ね」

別れを切り出した事は何度もあった。
その度に彼は私に言うんだ、俺にはお前だけだ。お前以外に興味はない。お前だけを愛してる。と。
私も私でバカなんだと思う。
そんな薄っぺらい愛の言葉なんかに翻弄されていたのだから。
今となればあの時別れとけば良かった。
それならこんな惨めな気持ちになる事はなかったしダラダラと意味のない関係が続く事も無かったかもしれない。

「口実が欲しいなら俺が作ってやろうか?それとも…無理矢理にでも奪われたいなら俺が奪ってやる」

ニヤリと笑い、どうする?なんて聞いてくるイゾウ隊長に全身が熱くなる。
そんな言い方、狡いよ。
手を伸ばしたくなる、無理矢理でもなんでもいいから奪ってほしくなる。
隊長はもしかしてわかって言ってるのかもしれない。
私が言えば、つまりそれはそういう事。

「……って…い…」
「はっきり言ってみな」

分かり切っている答えを急かすように、けれど優しく聞いてくる。
思ってる以上に隊長は狡いのかもしれない。
私より…彼よりもずっと。

「奪って…ください…無理矢理にでも」

その瞬間、悪い笑みを浮かべた隊長の顔が月明かりに照らされた。

「よく言った。ちょっと待ってな」

イゾウ隊長は踵を返し、お楽しみ真っ只中の部屋へと足を進めて行った。
高鳴る心臓を抑えながら呆然と立ち尽くしているとガタンと静かな夜の海には似合わない音が鳴り響いた。
それはあの部屋からのもので、目を向ければしれっとした隊長がこちらに向かって歩いてきた。

「さ、行くか」
「え…ど、どこに…?」

手を引かれるまま隊長の後に続く。
さっきの物音は何なのか、どこに向かって歩いているのか、口に出そうにもそうさせない隊長の背中を見つめる事しか出来ない。

急にイゾウ隊長が足を止めると自然と私の足も止まる。
どうしたものかと声を掛けようとすればこちらに向き直りぎゅっと抱き締められてイゾウ隊長の香りが鼻を擽る。

「奪って、ってお前さんが言ったんだ。覚悟は出来てるだろう?」

耳元で囁くように言われて忘れていた羞恥心が蘇る。

「あ、の…隊長は私で、んんっ?!」

良いんですか?そう聞こうとしたら隊長に口を塞がれた。
腰に手を回され、顎はしっかり固定される。
逃げようにも逃げられないし男の人の力に叶うはずもない。
酸素を求めて少し口を開けば、その隙を狙ってイゾウ隊長の舌が口内に潜入した。

「んっ、ふ、ぁ…」

舌を絡め取られ何度も角度を変えて攻め立てられる。
立ってられない程気持ち良くて頭がとろけそうになってしまう。

「そんなに知りたきゃ身体で教えてやるよ」

漸く唇が離され呼吸を整える事さえ許してくれないまま隊長に抱えられて向かった先は隊長の自室。
そっとベッドに下ろされそのまま押し倒された。

「俺の事しか考えれねェようにしてやるよ、なまえ」

名前、知ってたんだ。
この状況下でそんな事を頭の冷静な部分で考えた。
その気の緩みを見逃さなかった隊長は私の首筋に紅い花弁を咲かせた。

「ん、」

甘くとろけるようなキスにねっとりしつこいくらいの愛撫、良いところを何度も何度も容赦無く攻め立てられて私はあっけなく果ててしまう。

ふわふわとした意識の中で日の光とあったい温もりを感じて目が覚める。

「なまえ?」
「イゾ…たいちょ、ッ!」

名前を呼ばれて顔を少し上にやると優しい目をしたイゾウ隊長と目があった。

そうか、私、イゾウ隊長と…

昨夜の行為を思い出しボッという効果音が付きそうなくらい体が熱を帯びる。
恥ずかしくなって隊長に背を向け、布団を頭まで被るとクツクツと笑い声が聞こえてきた。

「今更どうした」
「や、だって…」

あのイゾウ隊長とこんなことしておいてまともに顔を見る事なんて出来るはずない。
そんな私の心境もお構い無しにべったりと背中にくっついて腕をまわすイゾウ隊長。

「こっち向きな。晴れて恋人になったやつの顔くらい見せてくれてもいいんじゃねェか?」

恋人になった。そのフレーズに驚いて振り向くと、イゾウ隊長はにっこりと笑って、やっと向いたか。と安堵の息を漏らした。

「あの、隊長…恋人、」
「言っただろう?奪ってって。ならお前さんは俺のモンだろうが」

コツンと軽く頭を叩かれた。

「ま、まだあいつを忘れられないってならそれでもいいさ。だが、きっちり心まで奪わせてもらうから」

覚悟しとけよ。なんてそんなクサい台詞、きっとイゾウ隊長だから様になるんだと思う。
他の人から聞けばそれこそ反吐が出そうだ。
小さく頷けばわしゃわしゃと頭を撫でられる。
いつも遠くから眺めていた隊長がこんなに近くにいるなんて、この時少しだけあいつに感謝した。


浮気男と狡い人
「イゾウー朝飯…ってキャーー!お前らなにやってんの?!」
「黙りな、サッチ」




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