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すき、すき、すき

「なにそんなに剥れてんだよい」

マルコ隊長の部屋で書類整理を手伝っていた時に言われた。
表には出さないようにしていたけど、空気を読むのが上手いマルコ隊長には隠せなかったようだ。

「ハァ…イゾウか」

何があった?と走らせるペンを止める事なく聞いてきた。
私も作業する手を止めずにポツリポツリと話す。

「別に…大した事じゃないんですけど…」
「まァ言ってみろよい」
「イゾウ隊長ってドエスじゃないですか」
「は?ま、まァ…」

思ってもみない私の発言でマルコ隊長の手がピクリと反応する。
その様子を気にする事なく私は言葉を続ける

「鬼畜で何考えてるかわかんないし、くだらない悪戯とかしちゃうし」
「…サッチ限定だけどな」
「それにしれっとなんでもこなしちゃって嫌味でしかないし」
「何だそれ、愚痴かよい」

カタリとペンを置き此方を呆れたような表情で見るマルコ隊長。
私も作業していた手を止めてマルコ隊長を見てゆっくり首を振る。

「それに肝心な事は一切言ってくれない」

そう、好きだという言葉も告白されたあの時が最初で最後。
いつも飄々としていて分かっているのかいないのか、オブラートに包んだような言い方をしてくる。
そんなとこ包まなくてもいいのに。
だから不安になったりするんだ。
私でいいのか、私がいいのか。
海賊と言えど私も一応女だ、言葉一つで安心出来るものもあったりする。

「私は…隊長達のように強いわけでもズバ抜けて何か身についているわけでもないし、ナースさん達みたいにスタイルが良いわけでもないし胸が大きいわけでもないです」
「なまえ、」
「だから、わからなくなるんです。本当にイゾウ隊長の側にいるのが私でいいのか」

自分で言っていて目頭がじわりと熱くなる。
私は、本当に並の人間だから、イゾウ隊長が私のどこを好きでいてくれてるのかとかどうして側に置いてくれているのかとかわからない。
だから、イゾウ隊長を繋ぎ止める術を知らないし、不安ばかりが募っていく。

「それ、イゾウにちゃんと言ったのか?」

マルコ隊長の言葉に小さく頷く。
さァ、どうだろうねェ…とはぐらかされてしまった。と言えばマルコ隊長は大きく息を吐いた。

「…どーせ私の事なんかなんとも思ってないんだ」
「なまえ?」

だから、はぐらかすような言い方しかしないんだ。
私がどんなにイゾウ隊長を想っていてもこの先もしかしたら交わる事はないのかもしれない。

「きっと…イ、イゾッ隊長は…グズッ、わ、私のことなんか、っ」

堪えていた涙はスイッチが入ったようにどんどん溢れて頬を伝う。

「ちょ、なまえ、泣くなよい!」

泣いている私を見て慌てて側に来てくれたマルコ隊長。
縋り付くように腕を掴めば優しく頭を撫でてくれた。
その優しさに私は更に涙した。
私が落ち着くまでマルコ隊長は何も言わずに背中を摩ってくれた。

「落ち着いたかよい」
「はい…すいません…」

泣きまくったお陰で少しだけスッキリした気がする。

「…まァ、そんなに不安にならなくても大丈夫だよい」
「え?」
「イゾウはちゃんとなまえの事想ってるから、安心しろい」

そう言いながらドアに向かって歩いて行き、なァ、イゾウ。と言ってドアを開ける。
視線を向けるとそこにはイゾウ隊長がバツの悪そうな顔をして立っていた。

「イゾ、隊長…」
「大事な妹あんまり苛めるなよい」

あとは二人で話し合えよい、と背中越しにひらひらと手を振りマルコ隊長は私とイゾウ隊長を残してドアを閉めた。
二人になったこの部屋には私の鼻を啜る音と秒針の音だけが響いて、少し気まずい感じがする。

「まだ怒ってんのか」
「…ほっといてください」

イゾウ隊長は小さく息を吐き、私の隣に腰を下ろして私の頭を撫でた。

「いい加減機嫌直しな」
「ほっといてくださいってば。何とも想ってないんでしょ、私の事なんて」

可愛くない言い方。
本当は私に触れる手も私を見る眼差しも私を呼ぶ声も全部優しくて愛情が伝わってくるのがわかるんだ。
それでも私は人間で、女で、安心出来る確かな言葉が欲しい。

「何とも想ってないわけないだろ」
「そんなの言ってくれないとわからないじゃないですか」
「あのなァ…」
「イゾウ隊長はいっつもそう。肝心な事は一切言ってくれない。私ばっかり好きみたいで私ばっかり不安になる」

さっき散々泣いたばかりなのにまた涙が溢れてくる。
顔を見せないように俯いて拳を握り、落ちそうになる涙をグッと堪える。
それに気づいたのか、イゾウ隊長は私を抱き寄せて腕に力を込めた。

「ーーーー」

耳元で、小さな声で確かに聞こえた、愛してるの言葉。
ふわりと体の力が抜けてイゾウ隊長の肩に顔を埋める。

「…本当ですか」
「こんな嘘は言わねェよ。ちゃんと好きだから」
「私も…好き、」

ポロポロと静かに涙を流しながらそう言うと、不安にさせて悪かったな。と笑いながらに言われた。

「ホントですよ。ばか、イゾウ隊長のばか」
「からかいたくなるんだよ、お前さん見てると」
「なにそれ。嬉しくない」

わだかまりが無くなった事で自然と口が弧を描く。
隊長の背中に腕を回しぎゅっと力を入れると隊長も更に力を加えてきた。

「…イゾウ隊長」
「ん?」
「また…たまにでいいんで言ってくれますか?好きって」

また私が不安になってしまった時、側に居ていいんだって思えるように。

「あぁ、いつでも言ってやるよ」


すき、すき、すき
「マルコ隊長、無事仲直りしました。ありがとうございます」
「そーかよい。じゃあイゾウと二人で残りの書類片付けとけよい」
「……」





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