hit plan | ナノ


たまには。

「うぅ…恥ずかしい…」

丁度今朝、タイミングよく島に上陸した私達白ひげ海賊団。
前々から約束していたイゾウ隊長との久しぶりのデート。
デートと言ってもただの買い出しなのだが、その事を昨晩ナースさん達に話したのがそもそもの間違いだった。
朝目が覚めると一緒に島に降りるはずのイゾウ隊長の姿は無く、探しているとナースさん達に呼ばれナースさん達が使用している部屋へと連れ込まれ、あれよあれよという間に化粧やらなにやら着飾されてしまった。
普段はほぼノーメイクの私の顔に色々塗りたくられ、下ろしている髪はふわりと巻かれ、履いた事の無い短いスカートを穿かされ極め付けに足元は少しヒールのあるサンダル。
柄じゃないし、なにより似合わない。
そう言っても可愛い可愛いとナースさん達は言ってくれて、その気持ちを無駄には出来ず島に降りた。
イゾウ隊長はもうすでに島に降りていて、ナースさん達曰く大きな噴水があるらしいのでそこで待たせている、と。

「スースーする。それに歩きにくいよぉ」

ショートパンツしか履かない私はスカートに違和感を感じ、戦闘員だからこんなヒール履かないし、動きにくくて仕方ない。
フラフラとよろけながらも噴水を目指し歩くと身なりのせいか一際目立つイゾウ隊長の姿を発見。

やっぱりオーラが凄くて、違和感なんか感じさせないくらい格好良い。
島の人だって見惚れちゃうほどで、イゾウ隊長の近くに行くの躊躇っちゃうよ。

「なまえ?」

モダモダとしているとイゾウ隊長が此方に気付き近付いてきた。

「あ、すいません。遅くなりまして…」

そう言って頭を下げるが反応がない。
怒ってるんじゃないかと恐る恐る隊長を見るがそんな様子は垣間見えず、ただジッと此方を見ているだけだった。
はっ!もしかしてこの格好がまずかったのかも。
やっぱ似合わないし、男勝りな私がこんな女のコらしい格好していて不快感を与えてしまったのかもしれない。

「えと、イゾウ隊長?」
「あぁ、悪い。行くか」

あ、あれ?なんか普通…ぽい?
さっきのは勘違いだったのかな?
前を歩く隊長に遅れをとらない様に上手く歩けないながらも必死に後を追う。
ヒールだからかな、追いかけても追いかけても全然追いつけてないような気がするのは。

「たいちょ、待って…っ」

私の言葉に気付いたのかイゾウ隊長がやっと後ろを振り返った。

「すいません。ヒール履き慣れてなくて…」
「いや、俺こそ悪いな。気付いてやれなくて」

ほら、と手を差し出され遠慮がちに重ねると強引に、けれど優しく手を引っ張りギュッと離れないように握ってくれた。
さっきまでとは違って私のペースに合わせた歩幅で歩いてくれて、ちらりと顔を覗けば此方に気付いて綺麗で整った顔がふわりと優しく微笑んだ。
どこまで格好良いんだこの人は。
私はそんな人の隣をこうして手を繋いで歩けることに凄く幸せを感じる。

「腹減らないか?」
「そうですね。朝から何も食べてないですし」

寝起きのままナースさん達に拉致監禁されたから朝ご飯食べ損ねたんだよね。
そんな事を考えていたらタイミング良く鳴る私のお腹。
恥ずかしすぎる。なんで空気を読んでくれないの私のお腹!

「ククッ、どっかで腹拵えするか」
「そ、そう、ですね…」

恥ずかしくて顔を上げれない私は引かれるままイゾウ隊長の後に続く。
程なくしてチャリンという音が聞こえてきた。
顔を上げるとどうぞ、と扉を開け待っていてくれてる隊長。
すいません、と中に入るとアンティークな家具が並べられた雰囲気のあるカフェ。

「わぁ、お洒落なとこですね!」
「ちょっと気になったんでな。良かったか?」
「はい!もちろんです!」

アンティークで落ち着いた場所は好きだけど、イゾウ隊長とならどんな場所でも構わない。
席に案内されメニューを開くとどれも美味しそうなものばかり。

「どれにしようかなー。隊長はどれにします?」
「そうだなァ」

メニューを差し出すと私に見やすい様に此方に向けて広げてくれた。
イゾウ隊長は鬼畜ドエス隊長に見えて結構紳士で優しかったりする。
その事をサッチ隊長に言ったらしこたま驚いてそれを聞いていたイゾウ隊長に追いかけ回されてたっけ。

「どれも美味しそうで迷います。ね、隊長?」

オムライスやパスタと種類はそんなに無いにしろ食べたくなる様な写真が載せられていて迷ってしまう。
返事がないイゾウ隊長はもう決めたのかな。
メニューから視線を隊長に向けるとまたもやジッと此方を見ている。

「あ、あの…隊長?」
「ん?」

どこか上の空というかぼーっとしているような気がする。
私がこんな格好だから?
もしかして私といてもつまらないのかもしれない。
悪い思考というのはひとつ考えてしまえば無限に広がってしまうもので、私の頭の中はグルグルとマイナスな事ばかりがループしていた。
とりあえず謝らないといけないような気がしてすぐさま頭を下げる。

「あの、イゾウ隊長!すいません!」
「は?なんだ急に」
「イゾウ隊長が、その、凄く上の空なのは私がこんな格好だから…もしくは私のようなのといてもつまらないと思いまして、」

勢いで捲し立て隊長も唖然としている。
想いが通じ合っているとはいえ、私みたいな下の人間がイゾウ隊長のお側にいるのでさえ恐れ多いのにさらにはつまらない思いまでさせてしまっては不甲斐なさすぎる!

「えっと、だからっその…!」
「ちょ、なまえ、落ち着きな」

イゾウ隊長の言葉にハッとし、冷静さを取り戻す。
我に返ると恥ずかしさが込み上げてきて少し居た堪れなくなった。

何やってんだろう私。
こんなんじゃダメなのに。

落ち込んで下を向いていると頭に隊長の温もりを感じた。

「悪いな。不安にさせて」
「私こそ、すいませんでした」

隊長の優しさに触れて目頭がじわりと熱くなる。
それから隊長はゆっくりと口を開く。

「お前さんが…いつもと違うから、気になったっていうか」
「やっぱり!!」
「いや、そうじゃなくて」

少しばかりショックを受けたが、がしがしと頭を掻きながらそっぽを向いたイゾウさんの耳が気のせいかほんのり赤く染まっているのを見て私も恥ずかしくなった。

「可愛過ぎなんだよ。反則だろ」
「え、ええ?!」

予想外の言葉に私はえ、とかう、とか何ひとつ言葉にならなくて、口をパクパクさせながらイゾウ隊長を見ていると隊長の手が私の視界を遮った。

「わわっ!」
「こっち見んな」

イゾウ隊長、真っ赤だった。
そんな隊長も凄く格好良く見えてさらに恥ずかしくなる。
綺麗な白い肌が赤く染まっているのももう少し見たくて隊長の手を無理矢理剥がす。

「た、隊長も、今日凄く格好良くて…見惚れちゃいます…!」

私が意を決してそう言うと、隊長は少し目を見開いたがすぐにハァァァと大きなため息をついた。
あれ、私何か変な事でも言ったかな?

「敵わねェな、お前さんにゃァ」
「え、あの…?」

キョトンとしている私に優しく微笑み、その顔が凄く綺麗で思わず見惚れてしまう。

「俺ァお前さんといてつまらねェなんて思ったことはねェさ。むしろ楽しい。それに今日のその格好だってよく似合ってる。誰にも見せたくねェくらいにな」

真っ直ぐな瞳で見つめられてそんな事を言われ心臓がギュウッと握り潰されるような感覚になった。

「好きだ」
「…わ、私も…好き、ですよ」

急な告白で一気に熱が顔に集中する。
イゾウ隊長はいつもそうやって私の喜ぶ事をさらりと言ってのけるんだ。
私の心臓はいくつあっても足りないよ。
本当に、大好きです。隊長。

「なまえ」
「はい」
「お前さんは何も不安がる事はねェ。俺だけ見てな」

いつもの調子が戻ったのか、意地悪そうに笑う隊長。
私はいつまでたっても慣れない言葉に恥ずかしくなって俯いて小さく頷いた。
もう隊長を好きになってから私は隊長の事しか見えてませんよ。
なんて、恥ずかしくて言えないけど。

「…ばか」

言葉の意図を察したのか嬉しそうに笑う隊長に私も自然と笑みが零れた。


たまには。
「飯食ってデート、続きしようか」
「はい!」




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