Sang Conte | ナノ


01

 人は光を好み、闇を嫌うがレンは一般的感性とは逸れているようで、どちらかといえば光より闇を好んでいた。理由を訊かれても困るが光の許にいるよりは闇の中にいる方が落ち着くことができて、おそらくそれは幼い頃から光ではなく闇で過ごしてきたことが要因だろう。
 故にレンの部屋は太陽が落ちて暗くなっても明かりをつけることは滅多になく、目は暗闇に慣れているからか電気をつけなくても生活には支障がなかった。数ヶ月前にレンと共に暮らし始めた少女も光より闇を好んでいるようで、レンの生活スタイルに文句や不満の色を見せない。その少女は今床に座って人形遊びに没頭しており、レンの視線が注がれていることを気にした様子もなく一人空想の世界を繰り広げている。
 彼女の綺麗な蒼い瞳を見たくなって、綺麗な髪を一房手に取って弄るとようやく彼女の瞳がこちらに向けられる。
「れん?」
「リン、お腹空いた?」
 彼女の髪を優しく梳きながら問いかけると、まだあまりしゃべることのできない彼女は小さく頷くことで肯定をする。身体年齢はレンと同じくらいか上だが精神年齢は記憶がないせいか幼児同然で話す言葉はすべて片言で、自分の気持ちを表現することも下手だったが、レンが具体的な質問をすることでリンの意思を聞いている。
「おいで」
 リンに手を差し出すと彼女は躊躇うことなく人形を手放し、その手を取り向かい合う形でレンの膝の上に座る。小さく開いた口からは人間には生えていないはずの牙が生えており、それは既にとあるものを欲している。そっと頭に手を添えてリンの顔を自分の首へと誘うとリンの呼吸が少しずつ乱れていくのがわかった。
人とは違う生き物であったとしても根本的なところは何も変わらない。こんなに可愛い子でも欲に忠実でそれを満たすためならばどんな手段も問わない汚い面を持っているのだ。
「――ほしい?」
「ほしい。レンの、ほしい」
 目の前にご馳走があるのにリンが我慢しているのはまだ許しの言葉を得ていないからで、何度も唾を嚥下することで自分の中にある欲望に必死に耐えている。早く首に牙を立てて皮膚を破りその下で流れている血を飲みたくて仕方ないだろう。
「ちょうだい」
 余裕のない声音はリンの心情を表していて、これ以上我慢をさせれば彼女はどうなってしまうだろうか、と考えたところで出てくる答えは決まっている。血に狂った彼女に殺されるだけ――その結末を迎えたあと彼女が一人でどう生きていくのか少しだけ気になるが――まだ死ぬつもりもないので意地悪はやめにすることにする。
「いいよ。好きなだけ飲んで」
 吸血の許可が下りたリンは衝動のまま口を大きく開いた。




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