こいつの話を聞いてみよう






食事をするときに使う広間へ向かうと、既に食事の準備ができていた。確かフウロが作ったと言っていたが、なかなかの出来であった。少し盛り付けは雑であったが、サーモンのムニエルは非常においしそうだ。
「いただきまあす」
 リドが行儀悪くかぶりつく。その後満面の笑みでがっついていたところをみると味も良かったようだ。カナスも早速食べてみると、味付けは子ども向きになっていたが確かにおいしかった。このメイド、仕事自体はできるらしい。
「フウロ、とってもおいしい!」
「おいしいよお」
 ニーナもスフォリアも喜んでいる。それにこの二人フウロに懐いているようだ。近くにいたフウロと談笑を楽しんでいる。少し離れた所に座るカナスは、全く違う世界のことのように呆然と見つめていた。カナスは今のところこのフウロに対して好印象など抱いていないし、「楽しくお喋り」というものとは縁遠い性格をしている。だから、そんな光景を遠くで眺めてしまうのだ。
「カナス様」
 後ろで使用人の一人であるアビが声をかけてきた。フウロが入る前の一番の新米の使用人である、十六歳の少年だ。掃除等の要領があまり良くなくリドたちにもバカにされてしまっているが、彼は使用人というよりは電気工としての側面が強く、その方面の知識は多くこの家では重要な存在である。そんなアビは、フウロに目を向けながら
「あの、フウロさん……すごいです」
 少しおどおどしながら話し始めた。
「なにがすごいって?」
「はい。台所の電球がいくつか切れていたので変えていたんですが、お食事の準備をする為にやってきたフウロさんが、その品番を全部一発で当てたんです。しかも電気配線にも知識があるようで、どこでどういう電気が使われているか一つも逃さず記憶しているみたいなんです」
「そんなことって……」
 ややこしい知識のいる電気を既に理解しきっているとなると、彼女はかなりの秀才だ。銃器にも精通している面があったし、一体彼女は何者なのだろう。
「それほど優秀なのに、なんで使用人として働くんでしょうね。僕みたいなひよっこならまだ分かるけど、あの人は……」
 シルヴィアとは違った意味で、優秀。それほどまでの知識があるのなら、彼女はかなりの頭脳明晰。使用人という枠に収まるべき人間じゃない。それなのに何故、わざわざ仲介施設に使用人として登録して、この家に来たのだろう。
「お話を伺おうとしても、いろいろあるって、かわされちゃって……」
「俺も同じように詳しく話は聞けなかったよ。でもそれを話そうと思わないなら、詳しく聞き出そうとは思わない」
「……ですよね。言いたくない過去なのかもしれないし」
 アビは素直で謙虚な性格だった。だから人の言葉はすんなり受け入れるし、相手の考えを尊重する。少し怖がりでもあるが、その態度を崩すことはない。
 やや懐疑の念を抱くカナス達を尻目に、ニーナとスフォリアは食事そっちのけでフウロとひたすら喋っていた。カナスはしばらくしてそれに気付き注意したが、女の子の話というのは留まることを知らなかった。
「フウロは、好きな人とか、いないの?」
「うーん。生憎幼少の頃は女学校に通っていましたからねえ。お金なくなってすぐやめちゃいましたけど、その後はずっとプラプラとしていましたから、あまり……」
「へぇ〜女の子の学校に行ってたんだあ。なにしたの?」
「いろいろですよお。と言っても、女学校というのは基本的にお嫁さんに行くために必要なお勉強がほとんどですから、料理とか、お裁縫とかばかりでしたね」
 少し遠くでその様子を見ながら、アビと
「……さりげなく、自分の過去ちらって語りましたね」
「核心には至らないけどな……」
 男への扱いの差を感じた。
「だからフウロは料理が上手なんだね。ほかにほかに? どうして女の子の学校に通っていたの?」
「いやあ、幼少のころからえらく雑でしてねえ。父がこれじゃ嫁にいけないって女学校に。いや当時私は五、六歳ですから心配し過ぎなんですけど、まあ雑だったことは認めますよ」
「フウロってやっぱり昔から、フウロなの?」
「そうですね、テキトーです」
 やはりそれを遠巻きから見ていたカナスとアビは、
「テキトーって、自分で認めるものなんですね」
「だったら直せよ……」
 当然の感想を言い合うのだった。
「フウロのお父さんって、どんな人だった?」
「うーん、厳格な人でしたかねえ。母はかなりフランクな人だったんですけど、それでかなりバランス取れてたって言うか、夫婦仲は全然悪くなかったですね」
「お兄ちゃんとか、お姉ちゃんとかいた?」
「居ましたよ、年の離れた兄が。まあ、もうみーんな死んじゃってるんですけどね。私母に似てフランクな方ですから、とっくに立ち直ってはいますけど」
 確かに自分の言う通り、彼女の性格は明るい。だがその話が本当なら、天涯孤独の身という事になる。だったら、生活に切羽詰まることも頷けなくはない。だからってここに居る必要はどこにあるのだろうか。
「フウロ、大変だったんだね」
「でももう結構前のことですし、いつまでも家族の未練引きずって入られませんよ。なかなか職業見つからなくて大変ではありましたけど。何分テキトーですから」
「へぇ〜」
 困ったことに、二人はそれ以上フウロの過去を聞こうとしなかった。女って気紛れだなとぼんやり思いながら、カナスは思い切り散らかして食べている上に嫌いな物を近くのメイドに食べさせようとしているリドを思い切り叱った。

 食事を終え、仕事を再開し、夜遅くまでそれに励んだ。本人はそれを当然だと思っていたが、父に苦言を呈されるほど徹夜続きになることもある。カナスには心臓に先天的な持病を抱えており、定期的に薬を飲まなくてはいけない。だが仕事に夢中になりすぎてそれを忘れてしまうことも少なくなく、父はそれをよく心配しているのだ。しかも戦争が始まり、薬事に秀でた隣国が敵国となったことで、昔よりも良質の薬を手に入れることが困難になった。それにより、昔より頻繁に薬を飲む必要があるし、無茶ができない。発作の回数自体は昔より減ってはいるが、それでも父の心配の種だ。
 夜遅く、ようやく今日のノルマを終わらせ一息つくと、丁度その瞬間に電話がかかってくる。カナスは一瞬苛立ったのと同時に、時間の感覚が狂っていた事に気付いた。カナスの時間の感覚は一時間ほど遅かったのである。しかしそれに気付いたすぐに、こんな時間に電話をかけるなど、と、静かに怒りが湧いてくる。電話が嫌いなのだからなおさらだ。
「はい?」
 だからと言って出ないわけにもいかないため、少し声質に苛立ちを浮かべながら電話を取る。すると、電話の相手はあのアーベンジ家の人間だった。それにも少し苛立ちを覚える。
「何の用だこんな時間に。例の件は、もうすでに断りを入れたはずだが?」
「いえ、ビサンスン様がそれを了承しませんで。ですからせめて面会だけでもして頂けないかと、お願いを」
「そういうのは明日の朝にしてもらえないか。常識で考えろ、もう寝る時間だ。大体電話に出る方が普通じゃないんだぞ?」
 と言っても、カナスは頻繁に徹夜する為電話なら出られた。嫌いだからあまり出たくはないのだが。
「いえ、仕事熱心なあなた様のことですから、きっと出て頂けるだろうと」
「はぁ……」
 気付かれていたらしい。評価しているのだろうが、はやり電話が迷惑なのでこういうのは有難迷惑というのが正しいだろう。
「ビサンスン様は決議の件はもう構わないと仰っておりました。しかし、あなたと面会をしたいのだという事です。会って話をしてみたいのだと。それはせめてご了承願えないでしょうか」
「…………」
 正直なところ、断っておきたかった。ビサンスン・アーベンジは強引な人物だと聞く。最近は少し悪い噂も耳にする。そう言った人物との面会は、本来ならばやめておくべきなのだろう。しかし
「……何故私にこだわる?」
 それがどうしても気になった。面会は自分にとって危険になるかもしれないが、相手の思惑を探る機会でもある。ちゃんと断ったのに再び電話をかけてきたことに対して、それだけ自分への執着を感じた。
「それは……存じ上げておりません」
 どう考えても怪しい。だからこそ、相手の思惑を知っておくべきかもしれない。もしかすると、父不在の間にこの地方を乗っ取る可能性もある。できればそのような可能性は潰しておきたい。
「……時間を短くしてくれるのなら構わないと言ってくれ。あと、そちらからこの屋敷まで出向いてもらえないか。あまり外出ができない身でな」
 といいつつ、実際は面会という戦いをアウェーに持ち込もうという魂胆だった。周りを知っている者で固め、知っている場所でなら武器を忍ばせることも可能だ。面会がもしもカナス、あるいは父の首を狙うことならば、返り討ちにできる。そんな事態はできる限り避けたいが、死んでしまうと父不在の際の家督が自動的にリドになり、わがまま三拍子のリドに任せてしまうとロクな事が起きないのだ。だからいざという時の自分の身は自分で守るように……と、父に難く言いつけられているのだ。
「かしこまりました。ありがとうございます」
「……もういいか。夜も遅い」
 苛立ちがそろそろ抑えきれなくなったため、カナスは話を終わりに持っていった。電話の相手は素直に電話を切ってくれた。それを確認して、溜め息をつきながら受話器を下ろした。
「はぁ……」
 頭をかきむしり、苛立ちを必死に拡散する。電話は嫌いなのに一日に二度、しかも同じ相手と話さなければならないことに腹が立った。今日はいろいろありすぎた。二回も電話を取らなければならないわ、あのへんてこりんなメイドに調子は狂わされるは、もううんざりだ。
「……銃の手入れでもするか」
 射撃が趣味なら手入れも趣味。それをやってストレスを発散しよう。苛立ったまま寝たくはない。狂った調子は自分で戻すものだ。
 席を立ち、部屋から出ようとすると、そのタイミングでノック音が響く。
「失礼します、旦那様」
 あのメイド、フウロだった。カナスはまた苛立ちが湧きあがりながら「入れ」と一言言うと、フウロは笑顔を見せながら部屋にのしのしと入ってくる。
「何の用だ」
「いやまだご就寝なさっていらっしゃらないなと思って」
「それは俺のセリフだろ、制服からも着替えもしないで」
 といいつつ、フウロが来ているメイド服は基本的に服装違反なのだが。
「いやあただのポリシーですよ。主人より先に寝ないって」
「またポリシーか。お前なりに何か決めているのはいいことかもしれないけど、でも俺は普通に徹夜するから、先に寝ていてくれ。お前が起きているって思ったら仕事がしづらい」
 へらへらするフウロに苦言を漏らすと、肝心のフウロは大きく膨らんでいる帽子をかきながら
「気にしないでくださいよお。基本的には使用人って言うのは主人より先に寝るものじゃないんですよ? このお屋敷での方針は旦那様のお気遣いなんでしょうけど、私は基本的な面に従います」
 案外真っ当な事を言うのだった。
「まあそれは貴族って基本都市部に住みますから外部からの暗殺の危険回避のためでもあるんですよね。このお屋敷は田舎……というか山奥にありますから、危険性は限りなく低いでしょうけど……」
「山奥に屋敷を作ったのはその暗殺騒動があったからなんだ。大分前の話だけどな」
「ふうん……」
 ちなみにホルスタイン家は都心部に別荘を持っている。元々その別荘が本邸で、カナスが生まれる前は頻繁に使われほぼ本邸として扱われていたが、カナス誕生後すぐに心臓病があることが分かり、本邸の役割を現在の屋敷に戻した経緯がある。利便性に欠けるものの、空気も綺麗で落ち着いている為、屋敷の人間はこの屋敷の事を気に入っている。
「いろいろあるんですねえ貴族って」
 まるで別世界のように話すフウロに、溜め息一つ付く。まったく、このメイドは人の調子を狂わすのが得意らしい。
 しかもこいつが起きていると思うと、おちおち銃の手入れもできはしない。それが気になってしまう。
「これからどうするつもりだったんですか? 何かする気満々って顔してますよ?」
「……銃の手入れでもしようと思ったんだ。趣味でな、仕事が終わった後によくやっている」
「へぇ〜成程。そういうのきちんとやるだなんてすごいですねえ。面倒臭くないですか?」
「銃の構造を見たり知ったりするのが好きなんだ。別にいいだろ」
「ふうん……」
 フウロはにやにやしながらカナスを見つめる。何か期待していそうな目だ。
「なんだよ」
「いやあ、私も久しぶりに銃でも見つめちゃおっかなあって」
「…………」

 銃が保管されている武器庫へフウロを案内する。射撃場と隣接している武器庫は厳重に鍵が掛けられているが、その鍵の管理は相変わらずカナスの仕事であり、カナスの出入りは自由である。
 そこへフウロを案内したのは、少し彼女の内面に踏み込んでみようと思ったからだ。ちょっとした仕返しのつもりである。もちろん鍵の開け閉めのところは一切見せなかった。何せ何重にもかけられた鍵のなかにはナンバーキーもあり、どうも優秀な人物らしいフウロにそれを見せたら暗記されそうで少し恐ろしかったのである。
「結構な種類がありますねえ〜」
 興味津々に見つめるフウロの横に立つ。この中にある武器にはほとんど火薬は詰まれていないが、一部は火薬が入っている為触らないように促すと、フウロはにこやかにそれに応じた。
「やっぱりお父上が軍人であると、これだけ武器を持つものなんでしょうか」
「いや……収集家だったんだ、母がな」
 フウロは笑顔を消し、カナスを見つめる。カナスの表情はどこか少し重いものだった。
「お母上、ですか」
「厳密には義理の母だな、俺だけ違う母親から生まれたから」
「腹違いですか。ややこしいですねえ。だからリド様たちはあなたのことをひどく嫌っているような発言があったのですね。スフォリア様からは聞きませんでしたけど」
「それも関係あるな。スフォリアは、ほら、末っ子で母親のことよく知らないからな」
 むしろスフォリアは父親と一緒にいた時間もあまり多くないため、彼女にとってカナスは兄であり父のような存在だった。カナスが堅物であるからか「つまんない」という発言こそあるも、よく慕っている。リドたちからはその件に関してあまりよく思われていないが、それでもスフォリアはカナスを慕っている。
「それにしても義理のお母上が武器コレクターですか。また物騒なコレクションですねえ。でも確かに旧式の武器が多めですね。旦那様が演習用で使用していたあのシングルアクションは割と最近のだったのに」
「演習用の銃は父も使うから、最新式を揃えることがあるんだ。これは完全に観賞用だ。それにしても、かじっただけのくせして随分詳しいな」
 さりげなくフウロの内面に迫ってみる。するとよく見せるとぼけた表情をまた見せると、そのすぐに笑顔を見せ
「かじったって言っても度合いがありますよお」
 と、物凄くあっさりかわされてしまった。
 だがこれは想定内だったため、カナスがすぐに
「じゃあなんで銃のことを学ぼうと思った?」
 質問を返す。フウロは笑顔のままで
「まああれですね、私この国の出身じゃないんですよ。隣国でもないですけど」
 あっさり自分の身なりを明かして見せた。
「そうなのか?」
「はい。マニスカって言うすっごい小さな国で、そこの孤島で暮らしていました。治安の良い国ではあまりなくってですね。私の故郷の島はまだマシだったんですけど、買い出しとかで本土に降りるときは絶対に銃器を持ち歩かなきゃいけなかったんです。危ないから」
「聞いた事ある。でもマニスカは二十年以上前に隣国に滅ぼされたんじゃなかったか?」
 疑問はすぐに口にする。その疑問にフウロはすぐに答えた。
「厳密には降伏してプランテーションやらされてたんです。ほぼ放任だったんで、統合後と統合前じゃ治安全然変わっていなかったものでして。私なんかほら、島育ちですからマニスカがもう実質国じゃなくなっていることなんて知らなかったですし。影響全くなかったから」
「だから、統合後も銃を持ち歩いていたってわけか。納得はできる。つまりマニスカじゃ銃は一般的に流通していたんだな」
「統合後は多少規制がかけられたみたいですけど、でも私あっさり銃なんか手に入れちゃいましたよ。でもあれは今思えば裏ルートだったかもしれない。田舎者ですから詳しくは知らなくて。家族に言われるがままでしたから」
 だと考えると、今自分が生きている国は本当に幸せな国だ。戦争はしているけれど治安は以前のままで良いし、銃を持ち歩く必要がないのだから。
「隣国の治安も悪いのか、マニスカと同じように」
「どうでしょうかねえ。王都は比較的悪くはないとは聞いていますが、戦場の前線近くなると治安荒れ放題なんて聞いてますね。マニスカもその被害に遭いましたから」
 フウロは軽い口調で語ったが、それは決して軽い事ではない。戦争という被害が甚大なのだろう、以前はこうではなかったはずなのに。まだ薬を買う事ができた頃は。
「国民皆兵が言い渡されてから国の雰囲気どんよりしていましたから。マニスカ領土にもその伝令が渡りましたものですからそこではじめて私の住んでいる国がとっくに植民地になっていたと知ったものです」
「国民皆兵……この国じゃ志願兵で済まされるのに」
「志願したくなるくらいいい国なんでしょう、ここは」
 もちろん兵器の発達などもあるだろう。だがはやり土台にあるのはこの国の政治が行き届き、国民がこの国のために働きたいと願うぐらいよい国であることなのだろう。だが向こうはどうなのだろう、隣国は、人が尽くしたいと思える国なのだろうか。彼女の言葉を信じる限り、正直なところそうだとは思えなかった。
「でもしょうがないんですよ。世の中は薬じゃなくて機材が重視される世の中になって、隣国――アトロスエもピンチなんです。だから何でも治せる薬を作り出そうと躍起になって、あの土地を欲したんですから。でも薬を作りたいのはこっちも同じですからね、戦争になっちゃったあって」
「……薬は大事だよ。機材も大事だけど、それと同じくらい、いやそれ以上に薬は身近なものだ。特に俺にとってはな」
「ほい?」
 戦争が起こる前は、もっと質の良い薬を使っていた。心臓の発作を抑えることのできるいい薬がある。その事実があったから、幼い頃のカナスは隣国アトロスエに反感の念を一切抱いていなかった。むしろ、良い薬を作れる良い国なのだと、カナスは思っていた。だが戦争が始まり、そしてたった今、隣国の事情を知ると素直にそう思うことができない。薬は、彼らにとって金稼ぎの道具なのだろうか。その為に、人の命を奪う戦争をするのだろうか。疑問は尽きることを知らなかった。
「一概に人は責められませんよ。あの国じゃ、良心的な王様も無力ですから。議会が一方的に物事を進めちゃっているんです。今あの国は、少人数の人間の意志によって回されているんです」
「…………」
「なにかご持病を抱えているのでしょう? 少なくともほんの少し前までは、そうした人たちのために薬を作っていたんです。いつからこうなっちゃったんだろうなあ……」
 フウロ自身も、軽く語るが重く受け止めているのだろう。植民地なら、あの国の薬の恩恵を受けている筈だ。そうか、少し前まで人のために薬を作っていたのか。じゃあ今は、何のために薬を作っているのだろうか。それもまた、金のためか。
 もやもやした感情を断ち切れず、俯くカナスを見てフウロは
「……まあ、夜中っからこんな暗い話してると朝が曇りますよ。そろそろお休みなさってください、持病を抱えるお体に毒ですよ」
 馬鹿にしたような、心配するような、そんな言葉をかける。
 だがカナスは素直に従った。なんだろうな、フウロは自分の知らないものを知っている気がする。しかも、何か重い物を。


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