祝!サイト開設10周年 | ナノ


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 どうしてだろう。何故だか俺は、うまくできた試しがない。
 そんなに高いハードルではない気がするのに、欲しいものはいつも手に入らない。
 俺の詰めが甘いのか、それとも思っているよりも目標が遠いのか──。

 ずっと、わからないままだ。





 ゴールデンウィーク明けの火曜日、その嵐は突然やってきた。

 何やら訳ありの転校生は、元気に自己紹介をした後、早速隣の席になったイケメンの気を引いた。そこから生徒会役員に至るまで、学園の人気どころを次々とハントしていった。
 活発そうな見た目に溌剌とした性格がいいのか、学園にはあまり見ないタイプのそいつは、所構わず常に人に囲まれている。

 今も、彼らは食堂の大テーブルを占領して大騒ぎするように食事をしている。良家の子息が多く集まるこの学園で、こんなどんちゃん騒ぎはなかなかに類を見ない。
 最初の1週間は、学園に慣れないから周りが世話を焼いているのかと思っていた。だが、それが2週間、3週間、1ヶ月……と続くと、さすがに外野にいる俺たちは、毎日そんなに騒いで飽きないのかと呆れるほどになった。

 最近は昼休みだけでは飽き足らず、朝や放課後、果ては授業間の休み時間でさえ教室を訪れてくる奴までいる。
 教室を訪れる人気者に、最初はきゃあきゃあ色めいていたクラスメイトも、ここまで毎日来られると逆に鬱陶しくなるのか、最近はあまり興味を示さなくなった。

 そんな騒がしい日々にうんざりしていた俺は唐突に、最近生徒会長を見ていないと思い至った。
 生徒会の特等席は空。他の役員は転入生とともに一般席で食べているが、食堂内を見渡しても会長の姿はない。

 ──学年が違うせいで昼食時にしか見かけることがなく、唯一の楽しみで癒しなのに。

 そういえばいつからだ。1週間、どころじゃないはずだ。
 いつも目で追っていたのに、いつの間にか、騒がしいほうに目が向いてしまっていた。
 記憶を辿るが、しばらく見ていない。もしかしたら転入生が来たあたりから、だったり──。

 ……え? いやいや、いくら校舎が広いといえど、そんなに会わないことあるか? ……ぇえ?

 さっと血の気が引いた。
 四六時中、会長を探していると言っても過言ではないこの目が、会長を見逃すはずがない。だとしたら、本当に、会長が姿を現していないのでは……?
 会長以外の役員は毎日食堂で見かけるし、何なら放課後も教室まで転入生を迎えに来ているから、繁忙期ってわけではないだろうし。

 ……いやいや、繁忙期じゃないわけないんじゃ……?

 だって、来週末に体育祭があるんだぞ。体育祭に向けて誠意準備中じゃん。昨日もパネル係が、メンバーがバックレたって騒いでいたわ。

 え……えっ、え? 待って、え? もしかして会長、いま生徒会の仕事を一人でやっていたりする? あの人、責任感が強いから、絶対に放り出したりしないだろうし。
 ……実は仕事が早い他の役員が、処理してから遊びに来ているとか──は、ないな。うん。信頼の生徒会長に比べて、副会長達ってどこか適当にやっている感じするし。第一、授業をちゃんと受けているのなら、いつ仕事しているんだって話になる。
 ……サボりか。サボりだな。

 会長を心配し、副会長達に怒り、会長を称え……俺の情緒と表情は絶賛不安定だ。
 そこに、一際大きな転入生の声が聞こえた。

 まだ騒いでいるのか。よく飽きないな。飯くらい静かに食ってくれないか。

 うんざりしながら転入生のほうに耳を傾けて、聞こえてきた内容に思わず。

「……はあ?」

 地を這うような低い声が出た。

 テーブルをともに囲んでいる友人の肩が跳ねたのが視界の端に映ったが、それよりも、だ。
 いつも偉そうにしている会長が気に入らない? 痛い目を見せるために仕事を放棄している?
 理解不能。あいつらは何を言っているんだ。 

 会長──京ヶ瀬先輩が、そんな自己中心的な理由で除け者にされているだって? 幼稚もいいところだ。
 先輩は入学当初から成績トップだったらしい。運動神経は抜群だし、顔はもちろんスタイルもいいし、所作も綺麗だし何なら食事している姿を絵にしたいくらいふつくしい。

 完璧主義者だし実際に完璧だし、かと言って先輩のあれは驕っている訳じゃなくて──。

「……ぃ、おーい。聞こえてるか?」
「やめとけって。こいつ、会長のことになると盲目になるんだ、何言っても聞かないって」
「聞こえないじゃなくて?」
「好評しか聞かない。信者ともいう」
「ひえ……」

 調子に乗っているとか、偉ぶっているとか、誰もあの人のことをちゃんと見てない。そんな人なら、困っている人がいても手を貸さないだろ。先輩は、自分のことを顧みないで他人を助ける優しさだってある。
 困ったように笑った顔なんて、めちゃくちゃかわいいんだ。

「はああぁぁぁ……」

 先輩への想いがいっぱいになって頭を抱えた。

 ──第一、生徒会の会長で、お前らの上司だぞ、偉くないわけないだろ。

 あいつらの話は聞きたくない。いっそのこと、物理的に口を塞いでしまおうか。
 ……ああいや、それは時間の無駄だ。そんなことをしている暇があるなら先輩に会いに行こう。そうだ、生徒会室に突撃したら、手伝いとかできるかもしれない。

 よし。思い立ったが吉日だ。
 俺はすっと席を立つと、そのまま生徒会室に足を向けた。

「えええ、あいつ、どこいった」
「うーん……会長への愛が爆発しなきゃいいけど」

 友人たちのことは、もうとっくに頭になかった。

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