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 大して気にした様子もなく、先輩はご飯を口に運んだ。それを飲み込むと、ピカタを取って一口。

「ん、うま」

 そうなんです、卵とチーズの組み合わせって最高に美味しいんです。

 先輩が気にしないのなら、俺がどうこう言っても意味がない。もし次があれば、率先してそっちに座ろう。
 密かに心に決めていたら、先輩が不意に顔を上げた。

「鶏肉を柔らかく焼くのって難しくないか?」

 歯ごたえがあるのに硬すぎない、口の中で卵やチーズと肉が融合するような食感がお気に召したようだ。

「これ作るとき、ずっと弱火で焼いているからですかね? レシピだと中火なんですけど、俺まだそんなに手際が良くないし、火が強いと焦がしたりしちゃうので」
「ふうん、弱火でも十分火が通るんだな」
「その分時間がかかりますけどね。あ、ちなみに出来立てはもっとお肉が柔らかいですよ」

 それも食べてみたいな、と言う先輩に二つ返事で今度作ります、と言ってみた。よろしく、なんて言われてしまえば、俺は調子に乗ってしまう。

「先輩の好きなもの食べたいもの、なんでも作ってみせます」
「言ったな? じゃあ、そうだな……唐揚げとか」

 無難だけど難題が出てきた。

「唐揚げ! いろんな味を作って食べ比べとかどうです?」

 味の好みも作り方も人それぞれで、レシピなんてごまんとあるだろう。

「楽しそうだな。樋口は何味が好きなんだ?」
「えー、迷うなあ……でも醤油ですかね」
「わかる。俺は生姜多めの醤油でしっかり漬けてあるやつが好き」
「滅茶苦茶ご飯が進むやつですね!」

 夕飯を食べている最中なのに、妄想のおかずでご飯が進んだ。

「ああ。でも塩も捨て難い」
「ですよねえ。あ、甘辛のたれがかかっているのはどうです?」
「うわ、それもうまそう」
「うんうん。お肉自体には軽く下味程度で甘だれとか……タルタルソースとかも良さそう」

 二人なのに何人前作る気だ、と先輩が笑いながら言うので、脳内で唐揚げ四種盛りが完成したところでそれを頭の隅に置いた。
 おいしそうだけど、夏場の唐揚げ祭は色々とやばそうだ。

「揚げ物といえば、ナスとかサヤインゲンの天ぷら、うまいよな。素揚げでもいい」
「あー、いいですね。そろそろ旬ですし」

 揚げ物つながりで天ぷら、かき揚げ、と続く。
 食の好みが合うっていいな。おいしいものを共有できるって、なんて幸せ。

「ピーマンの肉詰めもご飯がっつりいける」

 先輩は好き嫌いが少なく、特に野菜が好きらしい。ピーマンなんて嫌いな野菜の代表格なのに。
 青椒肉絲もいいな、なんて言われてしまえば、中華料理づくしでパーティも楽しいかもしれない、なんてところまで考えた。

「そういえば以前、祖母が中華料理屋に連れて行ってくれて、全部美味しかったんですけど、中でも五目うま煮めんが最高で」
「五目うま煮めん? 五目ラーメンってことか?」
「はい。下の麺が見えないくらい五目あんがたっぷり乗っていて、ボリュームもさることながらうま煮というだけあって具材がおいしかったです。もちろん麺もスープもおいしくて。今までラーメン屋に行ったら餃子とかチャーシュー麺、炒飯くらいしか頼まなかったんですけど、俺の中で革命が起きました」
「革命か。それは大変だな」

 先輩がそう言いながら笑った。

「……お前さ、好きなものを話すとき口数が増えるのな」

 普段は必要最低限っぽいのに。そう言った先輩は右手の甲で口元を遮りながらくつくつと笑っている。

「え、俺そんなに語ってました?」
「ああ。今日、何度目だよ? ずっと喋っているイメージしかないぞ」

 そう言われて首を傾げた。確かに先輩ラブを語った記憶はあるが、そんな何回も……?

「あんな熱心に話すのに、無自覚なんだな」

 尚も面白そうに先輩が笑うので、若干揶揄われている気はするが気にしないことにしよう。
 なんだか今日は、先輩の笑顔がたくさん見られるから。



 男子高校生が二人もいれば、たくさん持ってきたおかずたちはあっという間になくなった。
 多かったかなと思ったが、やはり男二人。全部の容器が見事に空だ。

「ごちそうさま。樋口、ありがとな」

 箸を置いた先輩は手を合わせてそう言った。

「お粗末様でした。お口に合って良かったです」

 小煮物は冷たいままでもイケると絶賛してもらったし、主菜と副菜も美味と言われた俺は、ずっと上機嫌だ。
 立ち上がった先輩が、皿とタッパーを台所に運んで行った。
 それに続いて俺も残っている皿を運ぶ。

 流し台に皿と容器を置き、水に浸けておく。俺の横で先輩がスポンジを手に取っているのが見えて、俺はストップをかけた。

「洗い物、俺がやりますよ」
「ご馳走になったのにそこまで、」
「俺が好きでやってるんですから、任せてくださいって」

 先輩からスポンジを取り上げて定位置に戻し、先輩を回れ右させる。

「それよりお風呂沸いたみたいですし、熱いうちに入っちゃってください」

 ぽん、と背中を押せば、先輩は「じゃあ任せる」と一言残して着替えを取りに行き、そのまま風呂場に向かった。
 頼りにされると余計に頑張っちゃいますよ、俺。

 内心どころか実際に顔がにやけてしまって、締まりがない顔をしている自信がある。
 できる男に頼りにされるのは嬉しい。やばい。今なら何でもできる気がする。

「──よし」

 皿洗いを終えたら掃除もやってしまおう。

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