GAME MAKE | ナノ


▼ 実際はこんなもの

 マンガやドラマなどで見る、カツアゲとかイジメの現場。
 それによく似た、今の状況。

「……ねえ、聞いてるの? さっきからずっと黙ったままだよね」
「まさか何も言えないの、怖くて?」

 そう言ってきゃはは、と笑う彼らは、化粧をしているのか真っ白な肌に長い睫毛が人形のようだ。
 化粧をしていて小柄、遠目から見れば女子に見えなくもない……しかし正真正銘の男だ。
 何故わかるのかって、彼らの一人称は僕だし、第一ここは男子校だからだ。

「何か言ってよ。僕らがイジメてるみたいじゃんか」

 ほらね、僕って言った。てか、あれ。これってイジメじゃないの? ならあれか、リンチ。そうじゃなかったら君たちの後ろに控えている怖面の方々は何なのかな。
 友達になりたいって様子でもなさそうだし。

「いい加減、何か言いなよ!」
「せっかく忠告してあげてるのに、何様のつもり!?」

 まるで双子さながら。事前に打ち合わせしたのではないかってくらい息が合っている様子に感心しつつも、イライラが募ってくる。
 こんな天気に、屋外に呼び出されたこっちの身にもなれよ。

「第一、なんでそんな格好をしてるんだよ! 校則違反じゃないの!?」

 はあ、と溜め息を吐いて見上げた空は、無情にも雲ひとつない晴天。真っ青な空を睨みながら、パーカーのフードを目深にかぶった。
 何でこんなことに巻き込まれるのか――。

 学園の雰囲気が変わったのはあれが来てからだ。原因はわかっている。あれをどうにかしないと、またこういう呼び出しがあるのだろうなあ。
 まあ、半分は自分から首を突っ込んだようなものだが。
 この始まり、もとい、いつもの日常が壊れ始めたのは数日前だ。





 その日はクラス中が、転入生が来るという話題で持ちきりで、いつも以上に騒がしい教室内にうんざりしていた。

「なあ、どんな奴が来んのかな」
「んー、俺カワイイ子希望」

 話題に便乗して友人たちも転入生について話していた。それを横目で見遣る。

「カワイイ子って……。お前、あの茶髪の子どうしたんだよ」
「紀輔、よくぞ聞いてくれた、聞いてくれよ! みーちゃん、好きな人ができたから別れてくれって、突然……」

 言いながら涙目になっていく茂樹の背中を、紀輔が摩る。
 みーちゃん、というのは茂樹が付き合っていた、茂樹の親衛隊の子。茂樹にしては珍しく2か月続いたコイビト、というかセフレだ。

「別れた? いつ?」
「……一昨日」
「あー、そういえば呼び出されてたな……ちなみに、好きになったそのお相手は?」
「……弓道部の、部長。すっごい爽やかで惚れちゃったって顔を赤くして……」

 相当ショックだったのだろう、茂樹の声がだんだん小さくなっていく。
 弓道部といえば、全国大会常連だったか。部長は確か、キリッとした目鼻立ちに背も高かったはずだ。茂樹も背は高いが、多分性格的なところで振られたんだろうな。

「あっちは爽やかだしなあ……お前じゃ負ける」
「ヒド! え、ハル、俺の扱い酷くね!?」
「諦めろ茂樹。いつものことだ」

 紀輔は茂樹の背を撫でていた手を肩に移し、こちらを向いた。

「悠はどんな奴だったらいい?」
「…うるさくなければ」

 言いながらちらりと茂樹を見る。

「あ、ハル、若干俺にイラって……してるね! ごめんなさい睨まないで!」

 茂樹が大袈裟に降参のポーズをとったとき、教室の前方の扉が開いた。

「おー、お前ら席に着け」
「あっ、センセー! このクラスに転入生がくるってホントですか!」
「さすが西川。情報が早いな」
「やっぱり! ね、どんな子? カッコイイ? カワイイ?」

 教室に入ってきた担任を、クラスメイトの西川が捕まえた。先生は興奮気味の西川を抑え、席に着くように声を上げる。

「ほら、座った座った! カッコイイかどうかは見てからのお楽しみだ……おい、入って来ていいぞ」

 先生に呼ばれて入って来たのは、カワイイ系に入るであろう、黒髪の美少年。最初は眼鏡をしていてよく見えなかったが、ちらりと覗いたその目は、赤かった。
 そこで俺は眉を顰めた。だって、アイツの姿はさながら――。

「う……『ウルフ』?」

 一人の呟きが教室中に広がった。

「うそ、かわいー」
「わー、初めて見た」

 食い入るように見つめるクラス中の反応に転校生が戸惑った。そこへ先生が自己紹介、と促す。

「えっと、海藤紗弥だ、あ……っです。よろしくっ、お願いします!」

 少し吃りながら話す転入生をよそに、クラス中が盛り上がった。親衛隊が少ないこのクラスは、カワイイ系に分類される生徒が少ない。そのためか、すごい歓迎ムードだ。
 そんな中、目をきらきらさせた西川が勢いよく手を挙げた。

「はいはーい! 単刀直入に質問いいかなー? 海藤くんって、本物のウルフなの?」
「――え、何で知って……? そんな有名人……?」

 さも本人だというような発言に、クラス中が歓喜の声が上がり、さらに興奮している。

「そうですね。会長たち……『hound』が探してる相手ですから、全校生徒が知っています」

 海藤の疑問に学級委員長の広大が答えた。

「ただ、特徴だけしか教えてくれないから、ウルフ本人を見たことはないけど……」
「……『hound』?」
「そ。しかも総長と幹部がぞろぞろと。しかも生徒会役員。下っ端も結構いるみたいだぜ」
「ちなみに、風紀委員会は『rivalry』の集まりだ」

 茂樹が口を挟み、紀輔が付け足した。

「はあああ!!? 『rivalry』もいるなんて聞いてねえよ!」
「お、なんだ知り合いか? まあ盛り上がるのもいいが、ホームルーム続けるぞ」

 少し、というか、かなり落ち込んだ顔で、先生が指定した窓側の一番後ろ、いわゆる特等席に向う海藤。
 その間、クラス中から海藤に歓迎の声がかかる。それに気分が上向いたのか、席に辿り着いた海藤は、隣の席の人に話し掛けられて言葉を交わしたのち、途端に教室を見回して一言。

「今日からみんな、友達だぜ!」

 満面の笑みでそう告げた。

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