▼ テスト
目を覚ましたら自室のベッドの上だった。
何この朝チュン状態。おかしい。だって、俺は図書室にいたはずで、いつの間に俺は寮に戻ってきた? 制服着たままだし、え、何これどういう状況?
起き上がってぼやける頭を振るが、部屋に戻ってくるまでの記憶がよみがえるはずもなく、仕方なくもそもそと新しいシャツに腕を通した。
まあ、次に会長に会ったときにでも聞けばいいか、と自己解決をして、今日から行われるテストに頭を切り替えて部屋を出る。
しかし、種明かしという名の爆弾が、同室の紀輔によって投下されたのはすぐだった。
「あ、はよ」
「おはよ。なあ、俺、いつ部屋戻ってきた?」
手櫛で髪を整えながら聞けば、きょとんとした顔が首を傾げた。
「え、覚えてねえの? 昨日、悠の帰りが遅いなあなんて考えてたら、インターホンが鳴ってな? 出たら会長がお前抱いて立ってるもんだから驚いたぜ」
「……は?」
「そのあと会長にベッドまで運んでもらったんだが、お前ちっとも起きねえし」
さすがに俺じゃあ脱力してる人間抱えて運ぶのは無理があったから会長に頼んだ、なんて言葉が聞こえたが、それどころではなかった。
「ちょ……ちょっと待ってくれ紀輔さん、なんの冗談だ?」
「冗談じゃねえよ」
「まじ?」
「マジ。……悠、ぐっすりだったもんなあ」
そりゃあ、覚えてねえか、と一人納得する紀輔に唖然としてしまう。
会長が? 俺を? 部屋まで抱いて?
…………抱いて?
「え、おんぶとかではなく、抱いて……?」
「ふ、言い方かわいいな。ああ、それもお姫様抱っこ」
開いた口が塞がらない。なんてことしてくれたんだあの会長。羞恥プレイかよ。
「つうか、会長ってお前の顔好きなんだな。ずっと見つめてたぜ」
確かにお前顔綺麗だしな、と呟く紀輔に髪を梳かれた。
「お前……照れて赤くなった顔、見せんなよ。襲われるぞ」
見透かされた気がして面白くなかった。
くそ、生徒会長に好いて好かれるなんて何て少女漫画だ。
「はよー! なあなあ、一限の科目いけそう? 俺ここわかんねぇんだけど」
そう言いながら空気を読まずに入ってきた茂樹によって話題はテストへと変わった。
探るようにこちらを見つめる紀輔に、こんなことまで悟らなくていいのにと思いながら、茂樹が示した問題を解説した。
「はー、なるほどわからん!」
「解説した意味」
「だってしょうがねぇだろ、俺理系科目苦手なんだもん」
呆れて言えば、不服そうな表情でそう言われた。
「もん、なんて言われてもかわいくない」
「ハル酷え……あ、早く飯食おう! 時間なくなる!」
「用意はできてる」
「さすが紀輔! いっただきまーす」
忙しない茂樹につられて時計を見れば、とっくに登校時間になっていた。
そそくさと椅子に座ってご飯をかき込んでいる茂樹を横目に席に着き、自分も朝ごはんを食べる。
思い掛けずやる気を削がれてしまったが、今日は嫌でも教室に行かなくてはならない。
あーあ……めんどうくさい。
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