GAME MAKE | ナノ


▼ 03

(会長side)

 六合が教科書に視線を落として数分後、隣からすぅすぅという寝息が聞こえてきた。横を見ると、六合は腕を枕にして眠っている。

「……俺は油断ならないんじゃなかったのか?」

 呆れて思わず問うてみるが、隣人の反応はない。
 警戒しているのか、傍にいることを許されているのか。気まぐれな野良猫を相手にしているような気分だ。
 相手が寝ているのをいいことに、六合の頭を覆っているフードを取る。日が当たらない場所とはいえ、光に照らされた髪は白銀に輝きとても美しい。
 きっと、目を開いていたらもっと綺麗だろう。

(普段はあまり顔が見えないし、街で会うときは髪を黒くしているし。……これはお前らしくて好きだな)

 触り心地の良い髪を撫でながら、まじまじと六合を見つめる。
 夜の闇に紛れて紅い目を光らせるのは強さの象徴のようで格好いいが、素の色の六合はまさに風光明媚だ。

「んん……」

 伏せられていた顔が、ころんとこちらを向いた。さらりと流れ落ちた髪を掬い取って耳にかけると、隠れていた顔があらわになる。
 意志の強い赤い目は相変わらず閉じられているが、顔の造形美は失われていない。
 俺も会長としてそれなりに持て囃されているが、こいつだって系統は違うがかなりの美形だ。
 ――素顔を全校生徒の前に晒させ、見せびらかしたい。しかしこの寝顔を他の野郎共に見せるのはもったいない。
 自分のものではないのに、独占欲が渦を巻いている。
 欲求を吐き出すように深く息を吐き出し、あの日を思い出す。





 はじめて六合を見かけたのは3年前、夜の街だった。新しくできたチームがなかなかに強いと噂になって、興味本位で探した。気に入った奴がいれば、自分のチームに引き入れてやろうという魂胆だった。
 それは地元近くの中学の制服を身に纏った4、5人のチームらしい。
 制服に着せられているようなその体格は、中学に上がったばかりの1年生だろう。中学で気の合った仲間同士で夜の街に出てきたのだと容易に想像がついた。
 すでに何チームかがこの1週間で喧嘩を売ったようだが、尽く返り討ちになっているらしい。
 そんな話を聞いてますます気になり、意気揚々と周りに気を配って聞き耳を立てていた。しばらくして、向こうの空き地で新人が単独でチームと一触即発状態だと情報が入った。

 そこでは一対多数の一方的な新人いじめ――ではなく、少年が、相対するチームを返り討ちにしている光景が繰り広げられていた。
 相手を次々と倒していくその少年は、拳に威力はないものの喧嘩のセンスは抜群で、相手の蹴りを紙一重で避けて急所へ的確に一撃を与えている。
 最後の一人に飛び蹴りを喰らわせ、華麗に着地した。
 こうして、新人に痛い目を見せてやろうと少年を襲ったグループは、数分で物の見事に打ち負かされたのだった。
 多勢に匹敵する戦闘力で相手を蹴散らした少年は、ゆらりと立ち上がって気怠げに周りを見渡す。
 少年は集まった見物人に挑発的に笑って見せた。

「……あんたらも、俺とヤりたいの?」

 三日月のように上がった唇は歪んでいるようでとても艶美で。しかし熱情に満ちているように見える紅い瞳はいやに冷めていた。
 その後、六合は遅れてきたチームの奴らとその場を後にし、残された野次馬はしばらく騒然としていた。
 後に六合が『牙』の総長だと知って驚愕した。さらに『牙』のメンバー全員が俺のチームの幹部と匹敵する強さであったことに唖然とした。
 どこからそんな逸材を見つけてきたのか、悔しくも羨ましい。





 あの光景を思い出すと今でもぞくぞくと背を駆け上がるものがある。最後に見たあの表情で、俺は六合に引き込まれた。まさに一目惚れだ。
 ファーストコンタクトと言えるか微妙だが、あれから何度か『牙』を挑発しては六合と手合わせをした。回数を熟すごとに力をつける相手との手合わせはとても楽しく、何より抗争のたびに見る挑戦的な視線にはかなり興奮した。
 六合には何度かそれとなく好意を伝えてきたが、毎度見事にスルーされ、相手にされていない。
 理性でなんとか耐えているが、本音を言うと今すぐにでも押し倒してしまいたいくらいには好きなのだ。
 想い人が隣ですやすやと眠っているなんて、なんて据え膳。
 体格差からして六合を組み敷くのは容易いが、欲望に任せて手を出せば、ただでさえ良くない好感度をさらに下げてしまうのは火を見るよりも明らかだ。
 今の関係を少しでも好転させたいのだが、この愉快犯相手にどうしたものか……。
 はあ、と溜め息を吐いた後、窓の外が暗くなっていることに気がついた。
 隣を見ると、六合はまだ寝ている。

「六合、そろそろ起きろ。図書室閉めるぞ」
「……ん、」

 声をかけてみるが、顔をしかめただけで起きる気配はない。

「ほーら。早く起きろ、六合」

 肩を揺すれば、六合は幼子のようにいやいやと頭を振った。もうちょっと、と駄々をこねる姿はとてもかわいい。かわいいのだが、頼むから起きてくれ……。

(side end)

prev / next

[ back to menu ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -