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▼ 落ち着く場所

 本棚の死角、図書室の奥に設置されている読書スペースには先客がいた。呼ばれた相手は読んでいたプリントから顔を上げ、にやりと笑う。

「やっぱり来たな」
「……なんでいるの」

 デジャビュ。ていうか、ついこの前もここで会ったよな。

「六合に会える気がしたから」
「……」
「おっと、引くなよ。授業が自習になったから抜けてきたんだ。静かな場所探していたらここに着いた」

 それに待っていればお前が来そうな気がして、と言われ、なんとも言えない気持ちになった。

「理由が同じなの、気に食わないのなんでだ」
「とか言いって、近くに来るよな」

 微苦笑しつつ椅子を引かれたので、そこに腰掛けた。持ってきた鞄を机の端に置く。

「……文句ある?」

 頬杖をついて見上げれば、満面の笑みが返ってきた。

「いや、むしろ大歓迎」
「あ、そ。……あれ、勉強していたわけじゃないんだ?」

 ふと視線を落として会長の手元を見ると、この前行われた新歓の報告書があった。1年生と2・3年生のふれあいイベント……ではなく、外部から劇団を呼び、大講堂での演劇鑑賞。
 副会長たちが張り切っていたのになんで演劇鑑賞になったのか疑問だけど、面白かったからこの際どうでもいい。でも新入生歓迎会と言ったら、学校紹介とか部活動紹介とか、他学年との交流会とかじゃないのかな、とは思うよね。

「ああ、テスト明けでもいいんだがな、勉強が手につかなくなったから気分転換に生徒会の仕事を片付けていた」
「へえ。テスト前日に?」
「それを言うなら、お前だって大丈夫なのか? 明日だぞ」

 机に散らばっている書類をかき集めてぱらぱらと捲りながら問えば、質問を返された。

「これでもそこそこに上位なんで」
「へえ、すげえな。まあ俺は1年のときからずっと学年首席だが」
「……」

 会長だし頭いいんだろうな、と思っていたけどまさかトップとは思わなかった。
 少し面白くなくて唇を尖がらせていると、隣から笑い声が聞こえた。

「ふは、ふくれっ面も可愛いな」
「子ども扱いすんなッ……!」

 拗ねるなよ、と頭に手を伸ばされ、そのまま撫でられた。
 ――別に拗ねてないし。不満なだけで。
 言い返すために手を退けようとしたとき、見えた表情と、固まるこちらに気づかずに髪を梳いてくる手つきが思いの外優しくて、不覚にもどきりとした。

「どうした?」
「……いや、……なんでもない」

 そのままおずおずと顔を伏せ、やり過ごせないかと考える。払うタイミングを失った手はしかし、会長が引っ込めたことで離れた。

「ほんとに大丈夫か? お前がつっかかってこないなんて珍しいな」
「は、……っ!」

 一息ついたのも束の間、至近距離で顔を覗かれ心臓が止まるかと思った。
 うつむいたと言っても、覗き込まずとも見える距離で、わざわざこんなことしなくてもいいだろうに。
 顔が整っているやつのドアップは心臓に悪い。
 なんて思っていたら、何を思ったのか会長はさらに顔を近づけてきた。
 ――――ちゅ。

「………え、」

 キスをされたと気付いたときにはもう唇は離れていて。こちらを見つめてくる顔は満足そうだった。

「顔、真っ赤だぜ」
「――ッ!!」

 キスされて顔を赤くするなんて、初めてでもないのに。
 なんだこれ、頬がめちゃくちゃ熱い。

「じっと見つめられたから、キスされたいのかと思ったんだが?」
「そ、んなわけあるか!」
「ふうん? でも顔赤くするってことは、俺にも脈があるってことでいいんだな?」
「ない!!」
「はは、真っ赤な顔で言われても説得力ないぜ」

 ああもういやだ、穴があったら入りたい……。

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