GAME MAKE | ナノ


▼ 03

 テストを目前に控えた水曜日の、6限目。
 この時間の担当教師は、テスト範囲の授業は終わっているからと自習に宛てた。そして出欠をとるや否や「質問があったら準備室に来い」と言い残して教室を出て行ってしまった。
 監督としてここに残るわけではないのか。大半のクラスメイトが自由奔放な社会科の教師に苦笑いする一方、質問するつもりだったクラスメイトは少し腰を上げた姿勢で固まっている。完全に出遅れたようで、「ていうか質問しにわざわざ準備室まで……」と行こうか迷っている様子だ。

 さて、自習と言っても、教科書や参考書を広げて復習する者、問題集を解き進める者、ノートを見直す者、と勉強の仕方も進度も各々違うわけで。
 この時間は何をしようかと周りを見渡すと、直近の科目に手をつけている者がほとんどだった。

「さすがに2時間連続で自習になるとは思わなかった」
「でもラッキーじゃね? これで明日の科目はイケそうだぜ!」
「茂樹よかったな。俺はもう勉強する気が失せた……」

 範囲の、というかすでに教科書を読破している悠は、五限目の自習で教科書を読むのに飽きてしまっていた。
 悠は机に片頬を付けて、恨めしそうに教師が出て行ったドアを睨んでいる。

「これだから天才は……」
「何か言ったかね、茂樹クン」
「イエナニモ! それよりハル、教えてほしいんだけどさ……」

 そう言いながら茂樹は、すっと俺の前に問題集を掲げた。ちらりと視線を移せば英数字が並んでいるのが見える。ふむ、数学か。

「この問題なんだけど、解答例だとこの公式使ってるじゃん。俺こうやって解いたんだけど、やっぱり公式使ったほうがいいのかな?」

 見せられた答案は、枠いっぱい埋まっていた。

「あー、これね……うん。まあ公式使わないでも解けなくはないけど、それだと回りくどくなるんだよ。それに多分、こういう問題は公式が使えるか見るやつだし、ちゃんと使ったほうがいいんじゃないかなあ」

 これなら数行で解き終わるし、とルーズリーフを引っ張り出して解いてみれば称賛の声が上がった。

「なるほど。ハル、ありがと」
「ん」

 問題集を自分の机に戻してノートに解き直す茂樹の手元を確認すると、類題が続いていたので、次のも同じようにして解けるとアドバイスを送る。
 しばらく茂樹の数学に付き合った後、机に頬杖をつき、ぼんやりと空中を見つめて数十秒。

「んー……出欠取ったし、気分転換にどっか行こうかなあ」
「は?! テスト明日だぜ!?」
「うん知ってる。……よし、じゃあね」

 ペンケースと数冊の教科書、ルーズリーフを綴じているバインダーを鞄に放り入れ、軽く担いで教室を出た。
 向かうは、お気に入りの場所だ。





 少し滑りの悪い戸を横にスライドして足を踏み入れると、書物独特の匂いがした。
 特別棟の2階にある図書室は、時間に限らずいつも静かで、お気に入りの場所のひとつだ。
 建物の北東に位置しているためにあまり日が差し込まず、電気をつけないと昼間でも薄暗い。

 そして校舎の端にあるせいか、訪れる人はほんの僅か。

 「勉強するなら図書室で」という人もいると思うが、自習室のほうが職員室に近く席も多いために人気で、わざわざ教室棟から離れた図書室に来る物好きはいない。それに席が取れなければ、教室に戻るか寮に帰る人が大半だ。
 図書室には司書が一人いるが、大抵は奥の書庫にこもっているし、昼休みや放課後に図書委員が一人か二人、カウンター番でいるくらいで、利用者はほぼいない。
 定期的に訪れるのは俺とか、よほどの本好きか、それか、

「……会長」

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