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▼ お勉強

「よし、じゃあ全員決まったな」

 あの後、箙が転入生くんを言いくるめ、種目決めはすんなりと終わった。
 結局、バスケの補欠とドッジボールに出ることになった。
 俺は補欠なんて入るつもりはなかったのに。俺がちゃんと体育祭に参加できなかったことに気づいていたらしい箙に「今回は楽しみなよ」と言われてしまえば言い返せなかった。
 ……さすが、俺を観察していただけのことはある。どこまで知っているんだろう、ストーカーこわい。

「ああ、そうそう。球技大会が楽しみなのはわかるが、二週間後の定期考査、忘れるなよ」

 平方は最後にみんなが忘れていた爆弾を落として教室を出て行った。
 球技大会に向けて練習しようぜと盛り上がっていた教室内は、考査という言葉にフリーズした。

「嘘だろ、おい……今まさに盛り上がっていたところに考査なんて爆弾投下するなよ、鬼か平方先生……」

 茂樹は信じられないものを見たような顔で先生の去った扉を凝視している。初めに球技大会はテストと被るという話をしたのは聞いていなかったのだろうか。

「まあでも、うちのクラスはそこそこ頭のいいやつらが揃っているから、テスト自体は大丈夫じゃない?」
「んなわけあるか! 紀輔は頭いいからそんなことが言えんだろ……」

 紀輔が慰めるように茂樹の肩を叩いたが、沈んだ茂樹は恨めしそうに紀輔を見上げて反論した。

「まあ……でも、俺より悠のほうが勉強できる」
「は!?」
「え、そうなの?」

 二人の話が長引きそうだと、のんびりと鞄に教科書を詰めていたため、自分の名前が出されたことに驚いた。

「ああ。ていうか、なんで悠まで驚いてんだよ。前回のテスト、俺より上位だっただろう?」
「いや、紀輔の順位知らないし……それにちらっとしか順位表見てない……あ、でも14位ってのは覚えてる」
「じゅ、じゅうよん…?」

 高校に上がって一発目の大きなテストだったから、どんな形式で出題されるか分からなかったが、別段難しくなかった。しかし、いくつかケアレスミスをしていたために点数が伸びなかった覚えがある。

「いや、それ学年順位だろ。たぶんクラスだとトップじゃねえの?」
「と、とっぷ……」
「へえ。クラスの真ん中くらいだと思ってた。……あ、順位表あった」

 ファイルを漁ってみたら「第一考査順位・成績表」と題されたプリントが出てきた。
 プリントをファイルから引き抜き、順位の欄を見てみると「学年順位:14/クラス順位:1」と記されている。
 横から俺の順位表を覗いた茂樹は刮目した。

「うそだろ……だってハル、ほとんど授業出てないのに……俺、あんなに頑張って55位だったのに」
「安心しろ、教科書読んだだけで内容を覚えられる悠が特殊なだけだ。俺も勉強しないといい点なんて取れない」
「読んだだけで、覚える、だと……」

 ぽんぽん、と茂樹の肩を叩いて茂樹を慰める紀輔。
 ……お前ら仲がいいな。

「だいたい、悠は中学の時もほぼ保健室か図書室に籠っていたくせに、トップ10から落ちたことなかったんだぜ」
「えええ」
「え、だってうちの中等部は偏差値ひく、」
「低くはないな」

 あれ。

「っつーか、この学園自体の偏差値がそれなりに高ぇんだよ。第一、ここの編入試験受かってる時点で成績優良者だろ」
「え、じゃあ、ハルがAクラスなのって」
「ただ単に家柄だな。成績で言ったら文句無しのSだし」

 ふむふむ、ここって偏差値高いのか。編入試験そんなに難しくなかったけどなあ。

「まじかよ……あれ? でも、うちの学年って、海藤以外に高等部からの編入生はいないよな。それなのに14位って、やっぱりテストが難しかった、のか?」
「そうでもないだろ。悠、手ぇ抜いたな?」
「え……っと、えへ?」

 いや、誤解のないように弁解しておくけど、抜きたくて手を抜いたんじゃなくて、教科書読んでいたら眠くなって頭に入らなかったんだ、仕方ないよ。うん。

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