▼ 決定
「いきなりで悪いが、来月初めの球技大会の出場種目決めるぞー」
6月下旬のホームルーム。担任の平方が教室に入ってきて早々そう言った。
クラス内は思わぬイベントにどよめいている。
いやね? 別に球技大会が嫌とかそういうのじゃないんだよ。
体育祭が終わったとなれば定期テストがある。年間行事予定でテストの回数ちゃんとチェックしたもん。2期制なのになんでテスト5回もあるんだって何回も確認しちゃったもん。
それに本来、球技大会は秋に行われる行事なのだ。それが、体育祭が終わってすぐに行われるのはおかしい。そういうことだろう。
俺はこの前、会長に聞いたから驚きはしなかったけど、まあこんな理由知らないとそう反応するわな。
「うるせえ。行事は行事だ、さっさと決めろ。ほら、委員長」
平方は未だにざわついている教室内を一喝し、学級委員長の箙を呼んでプリントを手渡した。
箙はプリントを一読し、顔を上げると平方に向き直って渋い顔をする。
「……先生。球技大会やるのは別にいいんですけど、来月初めってテストと被るんじゃないですか?」
「ああ、それなんだが、日程はテスト最終日の午後から3日間だ。2日目と3日目は、午前は通常授業で午後は球技大会、らしい」
「らしいって……」
「いや、俺も昨日の会議で知らされた。うちの学校行事は基本生徒主体だからな。生徒会が企画したらしいが……なんでこの時期かとか、詳しいことは聞いてねえ」
そう言うと平方はそそくさと教卓の前から退き、箙を教壇に立たせて進行を促した。
「えっと、俺もよくわかってないんだけど……種目はバスケットボール、バレーボール、ドッジボールの3つ。参加人数はバスケが5人、バレーが6人、ドッジボールが20人。で、補欠はバスケとバレーが1人ずつ、ドッジが2人、と」
うちのクラスは31人だから補欠除いて全員一回ずつ出ればいいね、と黒板に種目と人数を書きながら箙が言った。
「とりあえず、人数の少ないバスケとバレーから決めようか。じゃあ挙手制で、人数オーバーしたらジャンケンでいいよね?」
反対意見も出なかったので、3分ほど時間をとった後、やりたい種目を決めることになった。
ふうん、バスケにバレー、それにドッジボールか。どれも室内競技なのはありがたい。体育祭は出られなかったから実は内心わくわくしている。バレーは少し苦手だからバスケかドッジかなあ。バスケで走り回るのもいいし、ドッジでボール回すのも楽しそうだ。
「はーい、そろそろ時間だよ。やりたいのは決まったかな? じゃあまずバスケ、やりたい人は挙手!」
迷っていたら反応が遅れてしまった。
さっと見渡すとちょうど5人が手を挙げていたので、俺はドッジボールにしようと思った、が。
「悠! 一緒にバスケやろうぜ!」
まさかの名指し。
転入生くん、そりゃないぜ。ちょうど規定人数が揃ったのだから俺を誘わないでくれ。しかも目がきらきらと輝いて見えるのは何故だ。
「……やだよ、俺はドッジボールがいい」
「なんで! 俺は悠とバスケがしたい!」
「ウンウンそっかー。俺はドッジボールがいいなあ」
なんで俺、そこまで仲良くもない転入生くんとバスケやらなきゃいけないの。そりゃバスケもしたいけど、誰かを押しのけてまでしたいわけじゃないし、俺ちょっと転入生くん苦手だから遠慮したいなあ……。
「悠! なんでそんなこと言うんだよ!」
「いや、だって苦手なんだもん。それに転入生くんめんどくさいし」
そこまで言って、はたと気づいた。あれ、俺また口に出てた?
首を傾げて紀輔の方を見ると苦笑いされた。ううん、この癖どうしよう。
「めんどくさいとか友達に言っちゃいけないんだぞ! それに俺の名前は沙弥だ!」
「……さや? え、誰が?」
「俺が!」
さやって、見た目だけじゃなくて名前まで女の子みたいなんだなあ。
若干現実逃避しながら話半分に考えていたら、転入生くんが近づいてきたのに気付かなかった。ばん、と机を叩かれて顔を上げると、すぐ近くに転入生くんが来ていた。
「俺は、悠と一緒にバスケがしたいんだ! 俺がしたいって言ってるのに、なんでやってくれないんだよ!!」
「えー、それは理不尽じゃない? それにちょうど5人決まったじゃん」
「他の奴が変わればいいだろ!」
「いや……だから、そこはジャンケンになるでしょ……」
話が通じない……! 俺はそこまでバスケがしたいんじゃないんだよ。届け、この思い……!
「……じゃあさ」
箙が俺と転入生くんの間に入り、人差し指を立ててこうしたら、と提案してきた。
「六合はバスケの補欠になれば問題ないよね」
ぽかん。まさかの案に思わず惚けてしまった。
斯くして、ジャンケン案を面倒臭がった箙の一言で、俺のメンバー入りは決定してしまったのだった。
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