▼ 04
「そうだ、会長」
「……何だ」
会長は応えながら、ふて腐れたような顔をこちらに向けた。何か言いたそうな顔だが、とりあえず自分の用事を優先することにした。
「なんで今更歓迎会なんてやるの? この前体育祭やったじゃん。順番逆じゃない?」
そう尋ねれば、ため息を返された。
「小坂井の提案だ」
「小坂井……って、副会長だっけ?」
「ああ。アイツ……勝手に提案・計画した上に俺に無断だわ、理事長は許可するわ、しかもその会議やるからっつって俺を生徒会室から追い出すわ……」
会長を追い出して会議って。
「わあー……なんか、それはほんとにお疲れ」
「……それ本心か」
「今のはさすがにね」
さっき冗談で言ったかって、疑うことないじゃんか、ひどい、ぐすん!
「それはわざとだろう。いちいち言うな演技するな。何がぐすん、だ」
「これは気にしないでくださーい。心の中の言葉なので」
「モロ口に出てたぞ」
「最近出ちゃうんだよ」
「なんでだよ」
心底困っているんだという表情をして見せたが、さらっと言われてしまった。
「ひっど! 会長、俺のこと好きなら対策考えてよ」
「なっ……!」
俺がそう言うや否や、会長が顔を赤らめて固まってしまった。
いつもの様子から鑑みて、会長――もとい、ノースが俺に好意を寄せていることはわかっていた。あんなにベタベタと付き纏われていたら、いくら鈍い人間でも気づくだろう。
「あー……会長、大丈夫?」
いくら突然言われたからといって、ここまで反応が返らないとさすがに心配になる。しかし顔の前で手を振ってみるも、反応は無かった。
「ふむ。ただの屍のようだ」
死んでないけど。これ、一度は言ってみたいセリフだよね。
「会長、かむばっく! 俺帰っちゃうよ、てか質問終わってないんだけど」
ううん……駄目だ。全然反応してくれない。
「……もう。帰るからね」
さて、放課後まで何をしよう。
* * *
(会長side)
悠が図書室を去ってから数分後。我に返った俺は室内を見回した。
「……いない、か」
はあ、と息を吐き、椅子にもたれ掛かる。目の前には、一向に減らない書類の山。
それよりも、と呟く。
……予想外、だった。何がと聞かれると困る。全てが、なのだ。
まず、授業中にもかかわらず開いたドアに、入って来た訪問者。
制服の上にパーカーを着ていたせいか見た目よりも細かったが、細すぎず太すぎず、しかししなやかな筋肉が程よく付いている身体は、とても抱き心地が良かった。
話せば話すほど、アイツを欲しいと思う。独占欲に駆られそうになる。
正直な話、キスしたときはヤバかった。紅に染まった頬に、潤んだ目……そんなアイツを前にして、キスだけで抑えられたことが奇跡だ。
アイツ――六合悠は学園内で何度か見かけたことはあったが、故意に避けてられているのか、直接顔を合わせることはなかった。
一年前、それまで負けたことがなかった俺が、いとも簡単に負けた相手。
あのときは負けたという悔しさでいっぱいだったが、アイツが喧嘩をしている姿を思い出すたびに武者震いする。無駄のない動きは鋭く重く、しかし華麗だった。
もう一度手合わせしたいと、独自に調べていたときに知ったウルフの正体。そしてこの学園に在籍していること。
もちろん最初は信じられなかった。この学園にいたことも、髪色が違って雰囲気が違い、別人に見えたことも。
学園内で見かける姿は、力強い雰囲気の夜の姿と異なって儚げで、何度も疑った。
しかし、瞳を見た瞬間に確信した。あの時と同じ、強い目をしていたからだ。
六合の、あの容姿にあの性格……無自覚かと思っていたが――。
「愉快犯、だったか…」
手強いな、と呟いた言葉は昼休みを告げるチャイムに掻き消された。
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