▼ 03
会長は俺の顎に手を当て、顔を上げさせて視線を自分に合わせた。
「俺がお前のことを知らないわけがないだろう」
「……やっぱナルシか」
「てめぇ……」
あっは、ナルシストじゃなかったら何だっていうのさ。
「まあ……うぬぼれんのは個人の勝手だし、別に構わないよ」
「おい……そっちの方向で話進めんな」
「めんどくさいなあ。いいじゃんそれで」
やれやれといったように肩を竦めると、しかめっ面を返された。
「俺が良くない」
「えー……あ、俺を知っている理由は? ちゃんとしたやつぷりーず」
「……ったく」
そういってため息をついた後、会長はまたにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「聞きたいか? お前に対する俺の、」
「あは、そういうのはいいや。気持ち悪い」
「……」
「あ、傷ついた? ごめーんね」
会長が戦意喪失している間にするりと腕から抜け出して、そのまま距離をとる。
「……あ、おい!」
「なぁに。別に逃げないよ。ていうか逃げても無駄でしょ、バレてんなら」
言いながら、会長の向かいの席に座った。
ちゃんと正体を知ってる理由、聞いてないけど、まあいいか。
「ところで会長。どうして図書室にいんの? 生徒会室で仕事しないの?」
聞くや否や、会長の眉間にシワが寄った。
「……馬鹿どもがうるさいんだ」
「馬鹿ども? 生徒会メンバーって頭悪かったっけ?」
「そうじゃねぇよ。転入生が来てから、アイツらは転入生の尻ばっか追って、自分の仕事に手つけてねぇんだよ」
言いながら手元の書類をパラパラとめくる会長の顔は、とても疲れているように見える。
「あー……ご愁傷様?」
「は、慰めてくれんのか?」
「ばーか、調子にのんな。……でも、まあ……お疲れ様?」
「……なんで疑問形なんだ」
呆れた顔を向けられた。
「なんか素直に労われないから」
「……」
「いやいやごめんて! お前が拗ねるとか似合わない!」
「お前、絶対機嫌とる気ないだろ」
「ええ、まっさかー」
「じゃあその棒読みは何だ?」
適当に返事をしているだけです、なんて言ったら怒るだろうな。
「……」
「……」
ああ、ほらまた無言の圧力。やだ何なの、これ。
「……委員長といい会長といい、ほんと、何なの」
「あ?」
「独り言ですー。じゃあ俺戻るから」
「もう行くのか?」
「んもう、会長ったら寂しがり屋さんだなあ! 悠困っちゃう!」
俺がそう言えば、会長は何やら複雑な表情を浮かべたあと、真顔で口を開いた。
「……お前いつの間にキャラチェンジしたんだ」
「えええ……会長、そこはマジメに返さないでよ」
「じゃあ、」
「ああもう気にしないでください」
めんどくさくなった俺はそのまま出入り口まで歩を進める。
しかし、いざ出ようとしたところでふとあることを思い出して足を止めた。
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