▼ 02
「何言ってるんですか」
顔が引きつってしまったが、振り返ると、会長は何故か笑顔だった。
「やっと会えた」
「えっ、ちょ……!」
言うや否や、後ろから抱きつかれた。
は? 何、会長達って転校生くんに夢中なんじゃないの?!
「え? え? あっ……いたたたたたた! 髪も引っ張ってる! てか何取ってんだ!」
乱暴にフードを取られたせいで髪も引っ張られた。地味に痛い。
少しパニックになっていると、とん、と肩に会長の頭が乗っかった。
「!? あ、ちょ……!」
「……いい匂い」
「へ、んた……ひッ!?」
首元に頭を埋めていた会長が、うなじに舌を這わせた。
「首、弱いのか」
「っ、喋んな……!」
片手で顎を固定されて後ろを向かさせる。そのまま、むにっと唇を押し当てられた。
抗議しようと口を開けば、ぬるりと舌が侵入してきた。
「んむ……ぁ、」
えぇ……最近こんなのばかりだな。
息が十分にできないし体勢も相まってきつい。
散々口内を息継ぎのタイミングで口が離れた。
は、と息を整えていると、顎を掴んでいた手がするりと下に滑る。そのままシュル、とネクタイが緩められた。
その首元に、再び顔を埋められる。
息遣いがくすぐったい。
首筋から耳にかけて撫でる舌の感触に、背中がぞくぞくした。
「……っ、いい加減に、しろ!」
「っぐ?!」
抱きつかれているのを逆手に、鳩尾を狙って肘を入れる。
うん、いい具合に入ったね。
「う……さすが、ウルフ」
「まったく、いきなり何す、ん……、は……?」
「……やっぱり本物の方がしっくりくる」
「し、しっくり……?」
「抱き心地が」
「……」
うわあ。
*
というわけでね。俺は今、どういうわけだか会長の膝の上にいるのだが。
「で? これはどういう状況か、説明してくれるんだよね、会長」
あの後、何故か引きずられるようにして、さっきまで会長が陣取っていた机に連れて行かれた。しかも何を思ったのか、会長は椅子に座った後、そのまま俺を膝の上に乗せた。
抵抗はしなかったのかって? そりゃあもちろんしましたとも。だけど体格差がある上に利き腕を掴まれていたら、いくら俺でも無理だって。
それに引っ張られたから体勢が崩れてまともに歩けなかったし。
「説明? 何を?」
「もちろんこの状況。なんで俺抱き込まれてるの?」
「やっとウルフに会えたから」
「意味わかんないし。ていうか、どうして俺のことウルフって呼ぶの?」
「あ? お前がウルフだろうが」
今更だけどとぼけてみよう作戦を実行してみたが、見事に散った。
「はあ……じゃあ質問を変える。なんで俺がウルフだって知ってるの、ノース?」
俺がそう聞けば、会長は嬉しそうに微笑んだ。
……ぶっちゃけ、いつもニヤニヤ笑ってるヤツがこうやって笑っているのを間近に見るのは心臓に悪い。
だってあの俺様会長が普通に笑うんだぜ?
「惚れたか?」
思わず見惚れてしまっていたが、いつものニヤニヤした顔に戻った会長に、俺は顔をしかめて顔を逸らした。
「……ナルシめ」
「ああ?」
「まあいいや。で? なんで気づいたの」
再度聞くと、会長は得意気に鼻を鳴らして口を開いた。
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