▼ なにゆえ
「ねえ何でこんなことになるんだよ意味わかんないんだけどもちろん説明してくれるよね。そうじゃないとどうにも俺の腹の虫が治まりそうにもないんだけど」
マシンガントーク? いやいや、マジもんのはもっとすごいっしょ。
うんまあとりあえず。説明願いたいな、会長。
*
時間が過ぎるのは早いもので、明日はいよいよ新入生歓迎会だ。
「あーもうやだ何、何なの、なんで今更歓迎会なんてすんの誰か説明ぷりーず」
「ハル、そんなに嫌なの? いいじゃん楽しみじゃん何やるんだろうな!」
「茂樹。悠、ついて来てないよ」
「え」
もう、何でそんなにテンション高いの。その有り余ってるヤツちょうだいよ。いや、いらないけど。
「無理、やる気起きないから今日はサボる」
「え、ちょっとハル!?」
教室を出てすぐの階段を上がる。上り切ったところで始業のチャイムが鳴った。
「うんよし誰もいない」
ということで行きます。サボるのに最適なところっていったら、あそこしかないよね。
「はい、着きました。図書室でーす」
言いながらガラリとドアを開けた。
屋上は日差しが強いからダメだし、保健室は長時間を過ごすにはあまりに暇すぎる。
こっちは北東にあるから午後は日があまり入ってこないし、静かだし、暇を潰せるし。サボるのには持って来いでしょ。
「さーて、何読もうかな」
新刊入ってないかなあ。この棚の本は、ほとんど読んだし、んー……ん?
「……誰かいる?」
入口からはちょうど本棚の死角になっていて見えなかった。
部屋の隅の唯一日向になるテーブルに紙の束を散らかした人物は、その日溜まりの中心で眠っていた。
「会長……!?」
会長でもこんなこと来るんだ、珍しい。だって生徒会長とは言っても、あの会長だよ?
一見真面目そうに見えるけど俺様だし、族の総長だし、敵対視されているし敵視してるし。
図書室に来るイメージが全くない。もしいるとしたら屋上とか。
「……ん」
うわあ、起きそう? 物音……いや、さっき会長って叫んだからか?!
「……」
「……」
あは。なんか今ばっちり目が合ったや。
てかほんと何で会長がここにいんの? そこにある紙の束、生徒会の仕事だよね。生徒会室でしなくていいの?
「……お前」
あ、完全に起きたね。そのまま寝ていてくれればいいのに。
会長の声に俯いていた顔を上げると、再び会長と目が合った。
……え、何でそんなに驚いてるの。何、俺がここにいるのっておかしい? いやいや、授業サボるよ、俺だって。
「えーと……おはようございます?」
早くないけど。もう昼近いけど。
てか固まんないでよ、俺どうすればいいの。ねえ無視していい? お前、とか言われたけど会長固まっちゃったから放置していい? いいよね、うん。
ということで、えーと何読もうかな。ここは無難にファンタジー? いや、ミステリーとか?
わ、恋愛小説置いてある……誰が読むんだ? 共学校ならまだしも、男子校だぞ? 乙女思考のヤツなんて……人の趣味に言及する気はないけどさあ。
「――ぃ、おい」
「え? うわあ!?」
び、びっくりした……気配なく背後霊みたく立つなよ。
「な、何すか……」
「ふ。わざわざ俺に会いに来たのか?」
「……は?」
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