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▼ 予想外

「あー……なんか、うん、思い出してきた。あれだ、カツアゲされてたよな」
「はい! すごい、やっぱり本物だ……!」

 そうだ思い出した。カフェに行く途中で近道しようとしたら、カツアゲに遭遇したんだ。
 大の大人が学生囲んで、とか思いながら何となしに助けた。制服じゃなかったから、この学園の人だとは思わなかったな。

「あれ、でも髪……」
「あ、はい。髪型は変えてませんが、染めました」
「ふーん……いいんじゃない? そのほうが似合ってる」

 そう言うと、また頬を染めて俯かれた。

「……あ、あの」
「ん?」

 そう呟いたダークブラウンくんを見ると、何かを決心したような顔の彼と目が合った。

「今までのこと……ごめんなさいっ! それで、あの、もし良ければお友達になってください!」
「は…?」
「あ……図々しいのは百も承知です」
「じゃなくて。俺はいいけど……お前、大丈夫なの?」

 そう言うと、ダークブラウンくんは何を言っているのだろう、とでも言いそうな表情を向けられた。

「あんたら、生徒会の親衛隊でしょ? 俺なんかと仲良くなっても大丈夫なのか?」
「あ、そこは大丈夫です」

 そう言うとダークブラウンくんが自信満々に答えた。

「実は僕、隊長なんです。会長の」

 隊長って……てか、今更だけどいいのか? 俺をウルフって知ってて仲良くするって。

「……会長がノースって知ってるよな」
「もちろんです」
「だったらなおさら疑問だ。敵対しているチームの総長と仲良くなって、」
「僕なんかを心配なさってくださるなんて……! でも心配ご無用です! 確かに飯塚様は尊敬していますが、一番はウルフ様ですから、何と言われようと気にしません!」

 この子、サラっとすごいこと言ったよ。

「……黒髪くんは? いいの?」
「へ……あ、僕ですか?」

 突然話を降られた黒髪くんは少し肩を揺らしてこちらを向いた。

「僕は……僕も、仲良くしてくださると、嬉しいです」
「わかった」
「あ……ありがとうございます!」

 まあ、何だかんだで仲直りなんだか、解決なんだか、したということで。

「ああ、そうだ。名前は?」
「え……あ、すみません! 言ってなかったですね」

 そう言うと慌てて俺に向き直った。

「じゃあ、改めまして……僕は会長の親衛隊隊長の新井真樹(あらいまき)です」
「同じく、副隊長の土屋友紀(つちたゆうき)です。よろしくお願いします」
「知ってると思うけど、六合悠。呼び捨てで、いいっすよ……先輩」

 俺が先輩と呼ぶと、二人は驚いた顔をした。

「ぅえ?! 知ってたの?」
「……知ってるも何も、ネクタイ緑じゃないすか」
「そっか。あ、先輩だからって、敬語使わなくていいよ」
「え……いや」
「僕がいいって言ったらいいの! 友紀もいいよね?」
「うん」

 その後、二人がどうしてもというので電話番号を交換して別れた。とりあえず、今後会長の親衛隊からは何も被害を受けないで済みそうだ。
 いろいろあったけど……うん、まああれだ。
 終わり良ければ全て良し。





 体育館裏から校舎の入口、つまり玄関までは徒歩で約5分。しかし前回も今回も、遠回りをして来たために10分程かかった。
 さて、ここでひとつ、疑問が生じるだろう。
 何故、遠回りしてまでこの体育館裏へ来たのか――それは特別塔の前を通ることを避けるためである。
 特別塔には音楽室や化学実験室などの特別教室はもちろん、風紀委員会をはじめとする各委員会室や生徒会室、理事長室がある。これから制裁を加えようという時に、生徒会、まして風紀委員に見つかってしまったら元も子もない。
 それに加え、体育館裏は校舎からは死角。そして体育館から数十メートル離れれば、そこは森。立入禁止になっているために、誰かが来るとは考えにくい。
 以上から、制裁を行う親衛隊は高確率であちら側を通る、ということが推測できるわけだ。

「なのに、どうしてこっちにいるかな……」

 親衛隊を取り締まるにしろ、なにをするにしろ、裏道に行った方が良い。しかし風紀委員、しかも委員長が何故特別塔側にいるのか。

「しかも見回り、ってわけでもなさそうだし……」

 角を曲がったとき、焦げ茶色とそれを覆う紅色が見えた。
 風紀委員長、と……副会長? これまた意外な組み合わせだ。
 まじまじと見ていると視線に気づいたのか、委員長がこちらを向いた。

「……盗み見とは、感心しないね、六合」
「……じゃあ、こんなところで盛んないでください。邪魔です」

 俺がそう言うと副会長が顔をしかめた。

「もしかして、付き合ってる、とか?」
「まさか。そんなわけありません」

 言うや否や、副会長は委員長を押し退け、教室塔の方へ行ってしまった。

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