▼ どうしてこうなった
それからは早かった。
男たちは一斉に殴りかかって来たが、俺には掠りもしない。俺がいた場所に飛び込んで、仲間を殴ってしまっている。
――連携プレーって大切だよね。
痛そう、と思いながらも、一番早く体勢を立て直した大柄な生徒を倒した。
何回かひょいひょいと拳を躱したが、早々に飽きてしまったので反撃開始といきますか。
もう少し楽しもうと思ってたけど、コイツら、思った以上に弱い。こんなんなら、どっかの族の下っ端を相手した方がいいんじゃないかってくらい。
「あーあ。飽きちゃった」
足りない。つまらない。だから、終わり。
そう呟いて、殺気をこめて男たちを睨みつける。
すると彼らは大きく肩を揺らした。その隙をついて、一気に倒す。
「……ほら、やっぱり足りない。三分もかからなかった」
ふぅ、と一息ついて離れた所にいる二人に目を向けた。
「教えて? 俺って弱く見える?」
二人は揃って勢いよく首を横に振る。その目は若干涙目だった。
「……あれ、なんか俺、悪役?」
呟きながら二人の頭に手を伸ばすと、二人が抱き合い、震え出した。しかも、本格的に泣きそう。
何故かいたたまれなくなった俺は、少し屈んで二人を抱きしめた。二人の体が大きく跳ねる。
「ねぇ、泣かないでよ。ごめん、そんなに怖がらせるつもりはなかったんだ」
囁くように言うと、二人の震えは治まった、が。
……なんかリアクション起こしてくれないかなあ。抱きしめているこっちは、かなり恥ずかしい。
「…………ぃ」
「ん?」
黒髪くんが何か言ってくれました。
聞き取ろうと、その顔を覗き込んで、驚いた。そこには、真っ赤に染まった顔。
……りんご病にかかった人でも、こんなに赤くならないだろうな。
なんて思っていると、何故か黒髪くんに飛びつかれ、そのまま押し倒された。
「……え、な、何……?」
「何、は、こっちの台詞!」
「は?」
俺を押し倒した体勢のまま、黒髪くんはわなわなと震えている。
いや、だから何。
「……っ、何で、隠してたの?」
落ち着いたのか、やっと口を開いてくれたが何のことか解らず、黒髪くんを見つめる。
すると、首まで、もうこれ以上ないってくらい赤くなった。
「っ! だ、だからっ! こんな、美形……なのに、何で、隠してんの?」
黒髪くんは言いながら、俺の頭に申し訳程度に引っかかっていたフードを外した。
なんか最近、人に取られることが多いな、と思いつつ。
「ああ。さっき食堂にいなかったんだっけ」
「え?」
「俺ね、そんな深刻じゃないけど、肌が弱いの。だからコレ被ってるわけ……お分かり?」
言いながら顔を覗き込む。
「ぅ……っ、もったいないって、思わないの? 生徒会の方々くらい……ううん、あの方たち以上に綺麗な顔なんて」
見たことなかったのに、と呟き俺から退く。
黒髪くんがダークブラウンくんに声をかけると、はっとしたように顔を上げた。
「っ……!」
「ま、真樹…?」
「……友紀、どうしよう」
「え、ちょっと、大丈夫……?」
「だめ。倒れそう……嬉しすぎて」
ダークブラウンくんは顔が赤いのを隠そうとしているのか、頬に両手を当てている。
「え?」
「は?」
「嬉しすぎてって?」
「……え、だって、『ウルフ』でしょ」
断定。おかしいな、最近似たようなことが立て続けに起きているんだけど。
まさかこの子も委員長みたいに……?!
「ウルフって、海藤紗弥じゃないの?」
「あんなのとこの方を一緒にしないで! あんなニセモノ!」
「に、にせ……?」
なんか俺、置いてきぼりくらってるけどさ、黒髪くんも頭の上に疑問符受かんでる。
え……てか、何。
「何で知ってんの?」
「え……覚えて、ないですか? 僕……あなたに助けてもらったことがあって、えっと……一年くらい前なんですけど、駅裏で……」
俺、さっきからきょとんって顔しかしてない気がする。
えーっと、駅裏っていうと……ん? 駅裏?
「……工場跡地の近くの?」
そういうと、ダークブラウンくんの顔が輝いた。
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