▼ 02
転入生くんの一言に食堂内が騒然とする。そして転入生くんの取り巻きズ……もとい、副会長達もこちらに来た。
あれ、今日は会長いないんだ。
「紗弥……どうかしたんですか?」
「俺、見たぞ! ほら――!」
言うが早いか、転入生くんは俺のフードを剥ぎ取った。するとそれまで騒がしかった食堂内が一瞬、静まり返る。
「え、誰あの美形……!?」
「1-Aの六合悠じゃない?」
「うそ、すっごく綺麗!」
とかなんやら。前もそんなこと言ってなかったっけ? 相変わらずの美形至上主義だな、この学園は。
てか俺、綺麗とか言われても男だから。かっこいい、のほうが普通に嬉しいんだけど。それに、さあ。
「今さらじゃん。生徒会に連絡とかいってないんすか?」
「え?」
「……俺、先天性色素欠乏症っすよ」
そういうとみんなの頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。
……あは、おもしろー。
「せんてんせい……? 何だって?!」
「先天性色素欠乏症。……アルビノって言ったほうが早いですかね」
だからこの、日の当たらない端の席まで来たのだ。
それに、ここからなら全体を見渡せるし、中心から離れてるし、こんな傍観に持ってこいな場所、他になにんだよね。
「ああ、だからか! え……でも何で赤色?」
「血液の色、ですよ」
「……そうそう。だから驚く理由なんてないでしょ、転校生くん」
「あ! お前何でまたそうやって呼ぶんだ!? 俺は海藤さ、」
「静かに。場所をわきまえろ」
転入生くんの言葉を、よく通るテノールが遮った。声のした方を見ると、風紀委員長がこちらに向かっているところだった。
「あ、結木! 久しぶりだな!」
「……風紀が来ましたか。紗弥、早く戻りましょう」
風紀委員長――生神結木の姿を見つけると、転校生くんが元気よく手を振った。しかし副会長は転校生くんの逆の手を引いて食堂から出ようとする。
「待て小坂井。お前たちが騒いでいるとの連絡だったのだが?」
「そんなわけないでしょう。紗弥、行きますよ」
「え、怜!」
そういうと、半ば強引に転入生くん達を連れて食堂を出て行った。それを見て、風紀委員長がため息をついた。
「…あと十分ほどで予鈴が鳴る。まだ食べ終わっていない者は直ちに食え」
そう残し、委員長も出て行った。そして委員長の姿が見えなくなった途端、再び食堂内が騒がしくなった。
「うそ……」
「生神様が、お怪我?」
公衆の面前で顔を晒してしまったが、時間も時間、食堂の半分も埋まっていないところを見ると、あまり騒ぎにならないだろう。
それに今、みんなの意識は俺には向いてない。周りの会話に少し耳を傾けるとやはり、今度のざわめきの原因は委員長の頬の湿布と額の絆創膏。
「珍しいなー、委員長が怪我するなんて。喧嘩、だよな?」
茂樹の言葉にどきり。変なところで勘がいいのは困りもの、だ。
「え、委員長、『rivalry』って族に入ってるから怪我してもおかしくないんじゃないの?」
「『rivalry』だからじゃん。委員長ってそこの総長だぜ? しかもここら辺の、なんばースリー!」
「……ああ、なるほど」
ちょい待て。何で紀輔は納得してんの。
「完結すんな。意味わかんねえんだけど」
「つまり、風紀委員長に怪我させられるのは、ここらのトップの『hound』か、県下最強の『牙』くらいじゃないかってこと」
「……へえ」
俺、さっきから内心焦りまくりなんだけど。茂樹ってこっちのこと詳しいのか。次から気をつけよう。
……隣町の『牙』まで知ってるのなら、俺がウルフだってバレかねない。いや、別にバレても構わないけど。
「さーてと。教室戻りますか」
そう言って立ち上がると、茂樹がえ、と声を漏らした。
「まだ食べ終わってないんだけど」
デジャビュ。まあそれどころじゃなかったってのもあるだろうけど。
「って紀輔もか。先戻ってるぞ?」
「つれないなあ。いいじゃん、ちょっとくらい待てよ」
「えー……あ、次体育だし、天気いいから外だろ? 俺保健室行ってるわ」
言うが早いか、茂樹が何か叫んでいるが無視して食堂を出た。
「ちょ、ハル!」
「うわあ、きれいにスルー」
「紀輔……俺、悲しくなってきた」
「あはは、どんまい」
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