▼ 食堂騒動
「ハル、紀輔! お前ら二人して土日どこに行ってたんだよ? 俺、一人で寂しかった」
昼休みに入ったと同時に、茂樹が半泣き状態で縋り付いてきた――というのは冗談で、若干怒った様子で話しかけてきた。
ああ、そういえば何も言わないで行ったんだっけ。メッセージ入れるのも忘れてた。
「忘れてたわけじゃないけど、忘れてたわ。ごめん」
「は?!」
「友達に会ってた。ここ入る前の」
うん。まあ、ウソではない。だって俺は中3からの編入で、会っていたのはチームの奴らだし。
ちなみに紀輔は中学に上がると同時にここに入ったらしい。
「う……紀輔は?」
「俺も知っている奴だったから一緒に行ったんだ。ごめんな、連絡なしに」
紀輔が本当に申し訳なさそうに謝ると茂樹が慌て出した。
「い、や……そんな怒ってないし!」
「でも……」
「謝んなって! そんな謝られると俺が悪いみたいじゃんか。それより腹減ったし、食堂行こうぜ」
茂樹が取り繕うようにそう言った。そして早く早く、と急かすように俺と紀輔の背中を押す。
「茂樹の照れ屋さんー?」
「悠、違うと思う……」
あれ。
*
さて。食堂に着いたのはいいけど、なんか中が騒がしい気がする。
転校生くん、かなあ。
「……何だろうね」
「何でそんなに楽しそうな顔してんの……俺、悠の楽しいの基準がわからなくなってきたんだけど」
「紀輔、俺もだから」
二人が何やら肩を叩き合っているのをよそに、俺は食堂の扉を開けた。すると、一斉に全視線が俺に集まったが、それは一瞬で、すぐに騒ぎの中心に戻された。
中心人物を気にしつつ、俺が一歩中に足を踏み入れると、後ろから二人の焦った声が聞こえた。
「あ、ちょっ……悠!」
「おい、今入るのか!?」
おー、ハモった。息ピッタリじゃん、言葉は全然違うけど。
そう思いながらも更に足を進める。きょろきょろと座る場所を探していると、騒ぎの中心人物と目が合った。合ってしまった。
「あー! 悠!」
遠巻きに見ている分には楽しいんだから、俺を巻き込まないでほしい。
それにしても。なんというか、相変わらず君の信者は絶えないね。ていうかさ、何でそんな美形ばかり集められるのか知りたい。何あの特技。てか、この前変なヤツとか言われたのまだ、
「おい、聞いてんのか!?」
「……ああ、聞いているよ。何しに来たって、お昼ご飯を食べに来たに決まってんじゃんか。他に何の用があんの?」
思考を遮られて若干イラっときた。だから、何当たり前のこと聞くのって睨んだら転入生くんが急に黙りこんでしまった。
え、何。俺変なこと言ってないよね?
「ねぇ」
「は、悠、それ……!」
「? なに?」
ちょっと心配になったから声かけたのに、今度は俺を指差して固まるし。
人を指差してはいけません、って小学校で習わなかったのかな。失礼じゃん……俺に対して。
ていうか、ほんと何。何でその体勢で止まるの。ああ、もう無視していい? いい加減お腹空いたんだけど。
「行こう」
二人に声をかけ、空いてる奥の席に足を向けた。その後ろを茂樹と紀輔がついて来る。固まったままの転入生くんは無視だ、無視。
「あ、今日はサンドウィッチにしよう」
「待てよっ!」
注文を先に済ませて席に座ったのと同時に、後ろを追いかけて来た転入生くんに腕を引かれ、少しよろめいた。
「……痛いなあ。さっきから何なの?」
「悠! 何だよ、その目!」
…………何って。
「な、何でお前の目も、赤いんだよ!」
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