▼ 03
意外な返答に、俺は目を見開いた。
「紀輔、知ってたの?」
「知ってたっていうか、海藤が来たときの反応が皆と違ったから、なんとなくそうなのかなって」
紀輔は敏い。尊敬するくらい観察力、というか勘が鋭い。いつも周りを見ている。
「ところで箙、何で悠がウルフって知ったの?」
紀輔が目を鋭く聞くと、委員長が微かに肩を震わせた。
「初めて六合に会ったとき、声がそっくりだったから、あれ? って思ったんだ。で、その後フードをとった顔を見て、ウルフだって確信した」
「ちなみに独自調査って?」
「六合をつけてたら、圓山と二人して図書室前で話し始めるからどうしようかと思って。そしたらいきなり六合が」
「これをとった。そのときに顔を見たってか」
これ、とパーカーを指すと委員長が満面の笑みで頷いた。
確かにその場面は心当たりがあった。あるけど、人に後をつけられていたなんて気が付かなかった。不覚だ。注意が足りなかったか。
ふと顔を上げると、委員長は俺と紀輔を交互に見ていた。
「なあ、圓山も六合繋がりで秘密とか何かあったりする?」
「あー、えーと」
「ん。コイツは『ホーク』な。俺のチームの自称狼の右腕」
そこまで言うと、紀輔が目に見えて焦った。いつも涼しげな奴が狼狽えるのは見ていて面白い。
「ちょ、悠! そんな勝手に……!」
「えー、俺と紀輔の仲じゃん」
それから、チーム名が『牙』であること、名付け親は溜まり場のバーっぽいカフェのオーナーであることなど、当り障りのないことを話した。
そこまで話すと、委員長はさらに笑みを顔いっぱいに浮かべた。まるでおもちゃを与えられる直前の子どもみたいだと思う。
「なあ、今度連れて行ったりは、」
「だめ」
「……ですよねー」
断った同時に、委員長が目に見えて落胆した。
*
翌日、委員長が行きたいと言った場所に俺たちはいた。ちなみに茂樹は族には入っていないので留守番だ。あくまで学園での普通の友達、だから。
今は午後の6時を過ぎたばかり。本日は快晴、夏前ということもあり、辺りはまだ明るい。
「いらっしゃい」
店のドアを開けるとオーナーの高梨さん――愛称はタカさんだ――がいつもの笑顔で迎えてくれた。
「タカさん、久しぶり」
このカフェは市街地の中心から少し離れた路地裏にある。外見がバーに見えるためか、一般人はあまり足を踏み入れて来ない。また、夕方くらいになると店の前辺りにチームのメンバーが集まり始めるせいで、牙くらいしかこのカフェを利用しない。
「お久しぶりですね。昨日は突然連絡が来たので驚きましたよ。ああ、学校は楽しいですか?」
「楽しいですよ。特にウルフが楽しんでます」
そう言うと紀輔、もといホークは俺をちらりと見た。
「ああ、学園に俺のニセモノが来たんだぜ。あっちはまさかホンモノが同じ学園、しかも同じクラスにいるなんて思ってもいないだろうな」
「はろー、タカちゃ、んぁあ!? 総長がいる!!」
「! ……お久しぶりです」
「久しぶり。他の連中は?」
突然乱入するように店に入って来た二人を見ると、どちらも馴染みの奴らだった。
その顔には満面の笑み。
「えっと、もうすぐ来るはずですが」
「みんな、驚くねー。突然来るんだもん。……何かあったの?」
「欲求不満」
「うわー、総長らしー」
さらに笑みを深めて俺の隣に来たコイツは、この緩い喋り方とハニーブラウンの髪が特徴のラビット。みんなはラビーって呼んでる。妙に人懐っこい。
で、その隣にいるのはクロウ。ほぼ全身を黒でおおった服装が特徴。ちなみに今日は黒のTシャツとジーパンにシルバーの指輪とネックレス。シンプルだがいつ見ても格好良く、密かに憧れてたりする。
「そうそう、『hound』が俺のニセモノくんに夢中なんだ」
「何それちょー楽しそう! ねえねえ、それってどこのだれなの?」
ラビーが身を乗り出して聞いてきた。密かに助けを求めると、ホークが頷いた。
「元『ATTRACTION』の姫――遊夢(ゆむ)だよ」
「おお、さすがホーク。もう調べたんだ。え、てか『ATTRACTION』って……」
「半年程前に潰したチームですね」
あの、倒しても倒しても突っかかってきたところか。そこの総長ってことは……なるほど。どうりでしつこいわけだ。
「あ、あのしつこかったところ! でもどうして今更?」
「そうそう。しかも何でウルフに化けて出てきたんだ?」
「えっと、『hound』のノースに一目惚れしたみたいだ。それで、ノースがウルフを気に入ってるっていう噂を聞き付けて学園に、ウルフとして編入して来た」
「うわあ、随分と熱狂的なことで」
まあ、確かにノースは羨ましいほどに背が高い上にスタイルも顔もいい。男女問わず惚れるのは頷ける。
「そういうウルフは『hound』がいると面白そうだからって理由で学園選んだっけ?」
「ああ。どうせなら刺激的な高校生活にしたいだろ?」
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