▼ お遊び計画
「悠、帰ろうぜ」
「おー」
授業が終わり伸びをしていると紀輔と茂樹が俺の席まで来た。鞄を担ぎ、そのまま喋りながら歩く。
「それにしてもよく寝られるね。平方先生呆れてたよ」
「俺もそう思う……あ。あれ、ホントに大丈夫なのか?」
「あれって呼び出しのこと? 何ともないよ。茂樹心配し過ぎだって」
「悠がそう言うならいいんだけど……」
歩いて行くと玄関――と言っても靴は履き替えないが――に人だかりができていた。自然と足がそちらに向かう。
「何?」
「んー……海藤?」
「ちょ、俺見えないんだけど」
「肩車しよ……っぐへ」
ムカついたから茂樹に膝かっくん。見事に決まったぜ。
密かにガッツポーズをしていると視線を感じた。
顔を上げると、周りの人の視線が全て自分に集まっている。疑問に思っていると隣にいた紀輔があっち、と視線を送ってくれた。
「……アレか」
そちらを見ると人だかりの中心で転入生くんが元気よく、しかも俺に向かって手を振っている。
俺はため息をついた後、何事もなかったように回れ右をしてその場を去ろうとした、のに。
「あ、悠! どこ行くんだ、こっちに来いよ!」
名指しで呼ばれました。
再びため息を吐いて転入生を見ると、心なしかさっきよりも笑顔でこちらを見ている。
「……こういう場合は」
「ダッシュ」
「だな」
見事に意見一致。そういう訳で、
「逃げるが勝ち!」
全速力で走りました。
*
寮のエントランスに足を踏み入れ、ようやく減速する。
「はー、久しぶりに全力で走った」
「ちょっ、は……ハル、と紀輔も、早っ……」
「茂樹、体力ないね?」
よたよたと息を切らせながら、遅れて茂樹が追いついた。
「お前らがありすぎるんだ!」
「いやでも落ちたな。最近遊んでないし……紀輔、今週末行くか」
「そうだね、久しぶりに」
「なに? え、あれ? 俺はスルーっすか」
さすがにあの人だかりの中、ここまで追いかけて来ないだろうと踏み、茂樹と別れて部屋に戻る。
「……あいつ、俺に恨みでもあんのか」
「好かれていたな」
数回言葉を交わしただけなのに何故だ。
「知らないよ」
「聞いてないし。てか口に出てた?」
「うん」
あちゃー、まずこの癖を直さないと。
「で、悠。週末行くのはいいけど皆には言うの?」
「ああ。そのことなんだけど、」
――ドンドンドンドンッ!!
言葉に被るように玄関のドアが叩かれた。
呼び鈴を鳴らせばいいものを。誰だよ、まったく。
「どちら様で?」
「あ! 悠、いるんなら開けろよ! ていうかさっき目が合ったのにどうして無視したんだ!? 今なら許してやるから謝れよ!」
おかしいな。疲れてるのかな、幻聴が聞こえる気がする。
「……どちら様で?」
「わかってるんだろ! 早く開けろって!」
あは。来ちゃったよ転校生くん。さて、どうしようか。
「悠、だれー?」
「転入生くん。ちょっと遊んでくる」
「は? て、ちょっと、」
「行ってきまーす」
ごめん、ちょっと面白いこと思いついちゃった。
「悠!」
心の中で紀輔に謝りつつドアを開けると、そこには転入生くんを筆頭に生徒会役員が勢揃いしていた。その後ろには不良先輩と隣のクラスの林くん。
「ごめんね。俺、気づかなかったんだ」
「……なら、しょうがないな! 許してやるよ!」
口を挟まれると面倒くさくなることは目に見えているので、早速話を切り込む。
「よかった。ねえ、聞きたいことがあったんだけど……いい?」
「オレにか!? 何だ!?」
転入生は身を乗り出すようにして迫って来た。俺はにやけそうになった口元を隠すように一度俯いてから口を開いた。
「――会長と転校生くんって、どっちが強いの?」
prev / next