▼ 02
連れられて着いたのは、なんと屋外。
「なぜに体育館裏……?」
そのとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「……ちょうどいいね」
ここは俺たち以外人がおらず、草木が鬱蒼と生い茂る場所だ。
「……で、何の用? こんなところに連れて来て」
改めて二人を見る。二人とも俺より背が低く、160センチ前後だからだろうか、若干見上げてくる目は大きく、少し潤んでいる。よく見ると背の低いほうはダークブラウン、もう一人は黒髪だ。
二人をまじまじと観察していると、ようやく片割れ――黒髪のほうが口を開いた。
「あんた、何? 飯塚様たちに取り入るような真似して、何が目的なの?」
「……は?」
「惚けないで! 先日、海藤紗弥と二人で生徒会室に入るのを見たっていう証言があるの!」
「海藤紗弥を利用して皆様と接触するなんて!」
興奮しているのか、二人とも声を荒げながら言葉を発している。
「今後一切、生徒会の皆様には近づかないで。これは警告だよ!」
「破ったらただじゃおかないから!」
「……へえ。それ、『海藤紗弥』には言わないの?」
俺が口を挟むと、二人は揃って顔を歪めた。
「海藤紗弥は保護対象なの」
「飯塚様たちが探してらした方に、何で近づくななんて言わなきゃいけないの。アンタなんかとは違うんだよ!」
アンタなんか、って言われちゃった。でもまあ、それよりも。
「『海藤紗弥』って、誰だっけ」
「…………はあ?」
「……とぼけたって、」
「んん、聞いたことある気がするんだけどさ、顔が出て来ないんだよね。誰?」
そう言うと二人は困惑したような、呆れたような顔をした。二人で顔を見合わせたあと、ダークブラウンくんが答えてくれました。
「この前転入してきたでしょ。アンタのクラスメイトじゃん」
「……あー、転校生くんか。そういえばそんな名前だったかも」
「とにかく、忠告はしたからね」
「次からは気をつけなよ!」
そう言って二人揃ってふん、と鼻をならし、去って行った。
「なんだよ、まったく……」
ひとり残され、ため息を吐いた。
とりあえず、教室に戻ろう。
*
教室の戸を思い切り開くと、クラスメイトたちの視線を一斉に浴びた。そこには呆れた顔の担任もいる。
「……えーと、ただいま?」
ミスった。前じゃなくて後ろのドアから入るべきだった。授業始まっているのに前から入るとか何してるんだ自分。
「あー、やらかした。また数学だ。あのままサボればよかった」
「お前な……」
「……小さい子を相手にするのって疲れるんだね」
やれやれと心底困ったというふうに肩をすくめると、何を言っているんだとばかりに先生に呆れられた。
「まあ、とりあえず座れ」
「はあい」
がたりと席に座ると、茂樹が心配そうに振り向く。
「……大丈夫だったか?」
「ん、問題なし」
「で、六合。遅れて来た理由は?」
出席簿を開きながら先生が訪ねてきた。
「それ聞いちゃいますか……別にいいけど。えーと、昼休みに小さい子が二人来て、誘拐紛いなことされて体育館裏でお説教」
「……つまり?」
「誰かの親衛隊と思われる二人組に忠告を受けました」
俺がそう答えると、クラス中からため息が聞こえた。
はいはい俺はどうせ問題児ですよ。
「いやいや違うから。なんだかんだで、みんなお前大好きだから」
「読心術!?」
少し大袈裟になってしまったが、それは置いておいて。
「茂樹にそんな特技があったなんて、俺知らなかった」
「なんで一人で話進めてんの。ハル、口に出てたから」
……マジか!
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