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▼ 忠告

 今、俺は立ち尽くしている。
 目の前にあるのは自分の机。机上には白い菊の花が花瓶に生けて置いてある。

「……さっき見たときはなかった、はずだけど……」

 さっき――化学の課題を提出するため教室の前を通った。そのときに何気なく教室を見たが何も無かったし、誰もいなかった。

「――とりあえず片付けるか」

 もったいないが、仕方ない。ていうか、菊の花自体にはそういう意味はないんだけどなあ。
 花瓶を持って教室を出る。今は始業一時間前。つまりはまだ誰もいない。見られなかったのは幸いだが……。

「あーあ。花がかわいそう」





「腹減ったー!」

 時は進んで昼休み。
 終業のチャイムが鳴った途端、茂樹が伸びをし、振り返った。

「メシ行こうぜ!」
「……茂樹、まだ礼してないからね」

 あ、と呟き周りを見回した茂樹は、クラス中の視線が自分に集まっていることに気付き赤面した。
 それを見てくすりと笑った後、学級委員長の号令で挨拶をして紀輔も連れて教室を出た。

「……俺、恥ず……」
「あはは」
「お前、そんなキャラだっけ?」
「何も言わないで」

 若干落ち込んだ声で言い返された。が、それよりも。

「転校生くんが後ろついて来てるの、わかってる?」
「うん。けど、何で?」

 俺、何かしたか? 心当たりは……なくもないけど。

「お前らこれから食堂行くのか!? だったら一緒に行こうぜ!」

 にこにこ顔で近づいて来た転入生。何をするのかと思えば、転入生は俺と茂樹の間に入り、服の裾を掴んできた。

「無視すんなって! オレも会話にまぜろよ!」

 なんか、会話が全部命令形。ため息をつくと転入生にちらりと見られた。

「ため息つくと幸せが逃げるぞ!」
「あははー、誰のせいだろうね」
「? 相談ならいつでも乗るぞ! 何かあったのか!?」

 どこまでも首を突っ込んでくる転入生に辟易しつつ、少し考えて口を開く。

「……んん、ちょっとしたイベント的なものがあってね」
「イベント!? 何だそれ!」
「え、知らないの? 転入生が来たじゃん」
「転入生?! どんなヤツだ!?」

 ずずいっと顔を寄せてきた転入生ににっこりと笑って見せるが、気づいている様子もなく。

「んー、すっごくうるさいの。それで、俺が静かにしてって言っても黙ってくれなくて……」
「うわあ、ドンマイ?」

 すっかり蚊帳の外になっていた茂樹と紀輔はお互い顔を見合わせて、顔を真っ青にした。

「何で本人気づかないんだ……」





 あれから数日経ったある日の昼休み。
 あの花は何だったのだろうかと思うほど、何もない。なんて思っていたら。

「六合悠はいる?」

 背の低めの二人組が入って来て教室を見回した。

「いないの?」

 心なしか、嫌な予感がする。幸い、二人は俺を知らないようだし、黙っていればバレないかな、と思った矢先。

「悠ならそこにいるぞ!」

 やってくれました、転校生くん。
 転入生を見るといつか見たにこにこ顔で俺を指差している。
 そんなに俺が嫌いかってくらいイラっときたぞ、いま。ここ数日ですっかり名前を覚えられたけど、ここまで不快になったのは初だよ。
 そう思っていると急に影がかかった。何だ、と思い顔を上げると二人組が目の前まで来ていて、少し驚く。

「ちょっとついて来て」

 言うや否や、二人は俺の腕を掴んで有無を言わさず歩き出した。

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