正論レボリューション!

!ATTENTION!
*twst二次創作。(未完)
*捏造ハーツラビュル寮注意
*原作ネタましまし
*タイトル未定

新入生リドルが寮長になるまでのお話。




 庭の薔薇は赤く、テーブルクロスは白。
ツタの絡んだ窓辺から、柔らかな木漏れ日が忍び込む。
ああ、なんて完璧なお茶会日和!
自室の静謐な空気とやさしい紅茶の香りが、全身のこわばりを緩やかに解きほぐしていくのを感じながら、リドルはほっとため息をついた。
いつもの午後のルーティーン。……いつもの?
そう、いつもの三時のお茶会だ。今日のために大切にとっておいた苺のタルトに手を伸ばそうとしたところで、ふと手元に目をやると、自分の手がやけに小さい。
よくよく見れば、机に紅茶などなくて、味のしないビスケットが三枚に、お母様特製のひまし油入りホットミルクが一杯。間違いない、昨夜お腹が痛くてお夕食を残したせいだ。ちょっと目を離した隙に、全部があべこべに変わってしまったのは、きっと不思議でもなんでもない。目前の奇怪な出来事は歯牙にもかけず、リドルは当然のようにマグカップの中身をすすった。だってそれらは初めからそうだったのだから、なるべくして元の姿に戻ったところで誰が咎められるというのだろう。
 味気ないおやつに心が冷え冷えとするのを感じながら、もそもそとビスケットを咀嚼してホットミルクで飲み下す。たっぷりのミルクに混ぜても誤魔化しようのない苦味。いけないことだと思いつつ、堪えきれずに顔を歪めたその時、不思議と研ぎ澄まされた耳が聞き慣れた声をとらえた。
「おーいリドル、いないのか?」
「早く出てこなきゃぁ、置いてっちゃうにゃあ」
刹那、渇ききっていた胸にじわりと温かいものが広がって、リドルはマグカップの内側を凝視した。返事をしてはならなかったからだ。
 遠くの街角でひときわ大きな子供の泣き声がする。
ああ、そんな風にお泣きでないよ。泣くだなんていけないことだ。リドルは思った。ルールも守れないくせに、自分を抑えられずに泣くだなんて、赤ん坊のすることじゃあないか……
まだ窓の外からは二人の声が聞こえる。さっさと何処かに行ってくれればいいのに。
 その瞬間、視界に黒い影がよぎった。目の前にばさりと置かれた紙束に、意識がぐいっと引き戻される。よくよく見れば、全部が全部真っ赤なペケで埋め尽くされた答案だ。普段はあり得ないそれも、なぜかこうなることがわかっていた気がしてリドルは息を飲んだ。反射的に跳ねる身体を抑えようと歯を食いしばったせいか、喉に酸っぱい何かがこみ上げた。恐る恐る見上げたお母様のお顔は薄暗がりにぼやけてしまったようで見えない。
「いけない子ねリドル、どうしてこんな点を取ったりしたの」
ぐわんぐわんと轟くようなお母様の叱責が、部屋の空気を震わせる。カタカタと音を立てる机の上の陶磁器が口々に悲鳴をあげた。
お黙り!お黙り!お黙りよ!
猫に射すくめられた眠りネズミもかくあらんとばかりに縮み上がったリドルは、乾いた口を懸命に動かそうとした。
だが、引き攣れた喉からは微かな吐息が漏れるばかり。口を動かそうとしたのに声が出ないのだ。冷たい指で喉を掻けば、お母様の影は部屋の四隅を覆い尽くすように大きく膨れ上がった。
「この子ったら、指を動かすんじゃありませんっ!
まったく、落ち着きがないったらありゃしない」
足元まで下がった血潮のせいか、はたまた窓辺に忍び寄る夜闇のせいか、どんどん視界が暗くなっていく。
────違うんだよお母様、声が、声が出ないんだ。
墨のような液体が天井の暗がりからぼたぼたと垂れ、お母様を覆い尽くしていく。リドルは半泣きで影を見上げた。
「座るときに左足を伸ばさない!前にも言ったでしょう。なぜ姿勢良く座れないの」
────だって、だってお母様、
「返事は大きく口を開けて。いつもの通り『はい、お母様』は? どうしていうことが聞けないのッ!」
 いまや窓ガラスはビリビリ震え、遠くで泣き喚いていた子供の声はいつしかけたたましい豚の鳴き声に変わっていた。
────お母様、お母様。どうしてお母様の方が泣きそうなの?
背後で窓辺の茂みが揺れる。
ああ二人とも、来ちゃダメだ。女王ママ に首をはねられてしまうよ。
 リドルが二人の無邪気な声を聞いたのと、まっくろくろすけになった『お母様』の首がぐりんと回って彼らの姿を見咎めたのは、ほぼ同時だった。
「あらぁ、ルール違反がここにもひとぉり、ふたぁり」
ゆらり、と蠢く『お母様』の影がひときわ大きく伸び上がったのにあわせて、凄まじいスピードで成長する黒いツタが部屋中の家具を絡め取っていく。
────ママ、ママ、ボクが悪い子だったから、だから二人は許してあげて!
「お黙りリドル。さあ、あいつらを懲らしめて!」
気がつけば、手には長い黒蛇鞭とハートの首輪。天井まで広がる影に融けてしまった『お母様』が覆いかぶさるように迫ってくるのを見て、リドルはたまらず目を瞑った。
 暗闇に呑まれた家具が口を揃えて叫ぶ。
きかんぼアリス悪い子 にお仕置きを!
首をおはね!首をおはね!
ママ、ボクにはできないよ。だって、だってボク、本当は────


────嫌だ!
 迫り来る闇を渾身の力で振り払おうとした瞬間、リドルの腹をばふんと軽い衝撃が襲った。
「ぐぇ!?」
光の溢れた室内に霞む目を瞬き、やや呆然としながら夢の名残を追いかける。汗ばむ手がやけに冷たくて、ぴりりと嫌な電流が背を駆け抜けた。今、自分は何をしようとしていたのだろうか。判然としない意識の片隅で、悪いことをした日のように、どす黒いモヤモヤがわだかまっている気がする。ぼんやりと頭を振ったリドルをそっちのけで、『それ』は再び飛び跳ねた。潰れたカエルのような声が出たのは不可抗力だ。
「な、な、な……!」
一拍おいて込み上げる怒り。
こんな早朝に他人の寝具に乗り上げるなど、よくもまあ、そんな非常識な真似ができたものだ。無作法な不届き者を怒鳴り付けようと、怒り心頭に発して跳ね起きたリドルは思わぬ光景に仰天した。
「大変、大変、急がないと遅れちゃう!」
ブランケットの波間から、ひょこりと長い耳がのぞく。あんぐりと口を開けるリドルを尻目に『それ』────白いウサギの置物は、身の丈ほどもある金の目覚まし時計を振り回して、ばふん、ぼふんと飛び跳ねてみせた。
愛らしい造形に似つかわしくない機械音がキンキンと響いてうるさい。ダイレクトに脳に流れ込んで来た音の洪水に顔を上げれば、同室の他の三つのベッドでも、口々に時計が喚いて乱痴気騒ぎを繰り広げている。
「起きて、起きて、起きるのよ! さあ、朝の詩の暗誦は?」
愛すべき機械仕掛けの友人が耳元でがなりたてた。
「ど、どうして小さなワニの子は、キラキラ光るおおつかい、豊かなナイルの川の水!」
つっかえながら昨晩トレイに教えられたばかりの呪文を唱えると、小うるさい目覚まし時計はぱたりと沈黙する。おっかなびっくり手にとって見れば、針は起床時間の十分前を指していた。忍耐を知らない時計だ。規則を守れないものはなんであれ嫌いだった。



「正論レボリューション!(仮題)」緋鞠(みぃな)
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