二人を巻き込む黒い渦 |
狂気に満ちた元カレから私を救ってくれたのはローさんだった。 就業時間がいつもよろ早かったため、まだ来ていないと思っていたのだが、彼はそこにいた。元カレの登場にも驚いたが、時刻前にここにいるローさんにはもっと驚いた。 ローさんは私から元カレを引き剥がしてくれて、私をかばうように間に入ってくれた。 「なんで、ローさんがここに…?」 「嫌な予感がしたんだよ。」 ローさんが来てくれたことによる安心感からのせいか私はへなぁっと地面に座り込んでしまった。 けれども、私がローさんが来てくれたことにホッとしたのが気に食わなかったのか、元彼は更に逆上する。 「おい!!!!なんだお前!おれの澪に触るんじゃねぇよ!!!」 「あ゛ぁ?誰が誰のモンだって?」 ローさんも元彼に負けじと反論する。 元カレは知らないが、ローさんに口げんかで勝てることはできないと思う。 「はぁ?!ふざけんじゃねぇよ、お前さえいなければ澪は俺のものだったんだよ!!!」 元カレはなぜ、ローさんのことを知っているのだろうか。 私だってまだ会って3日も経たないのに…。 「聞き捨てならねぇセリフだなぁ、おい。言っとくがな、澪はもう俺のモンだ。そんでもって、もうお前のモンじゃねぇ。したがって、邪魔なのはお前だ。」 威圧的なローさんの態度にたじろいでしまう元カレ。 私も初めて彼がここまで怒りに満ちたオーラを放つのを見た。 一瞬で周りが凍りついてしまうような感覚だ。 「澪、お前俺のほかにこんな男作ってたのかよ?それで、俺のこと内心バカにしてたんだろ?そうなんだろ? だから、あの時お前をフったんだよ。案の定、他にキープがいるからってことでお前は俺の提案を受け入れたんだろ?違うか?!」 「なっ…、そんなわけ…」 「おいおい、なんだよ今更いいわけか? なぁ、頼むから戻ってこいよ、澪、せっかく俺がお前とつきあってやったんじゃん。」 こいつは一体何を言い出すのだろうか。 ローさんと私ができてるなんて誰から聞いたかは知らないが、ここまでアホだったとは思わなかった。 今更、戻ってこい? 付き合ってやった? なぜここまで言われなければならないのだろうか。 私は言い返すこともできずに、そのまま下を向くことしかできなかった。 その状況を見極めてか、ローさんは元カレに言った。 「どうしてお前が俺の存在を知ったのかは知らねぇ。別に知りたくもねぇがな。ただなぁ、澪を困らせて、泣かせて、今更戻ろうなんてそんなムシのいい話はないだろ。」 そして、極めつけに彼は元彼に向ってドスの効いた声で言い放った。 「さっさと去れよ、次澪に付きまとったら殺すぞ。」 「っ!!!」 そう言われた元カレは悔しそうにしながらその場を去っていった。 元カレが去っていくのを確認してからローさんは私の方に向き直って、私と同じ目線になって話しかけてきた。 「おい、大丈夫か?」 「すいません、ローさんに迷惑かけちゃって…。」 「そんなの全然構わねぇよ。第一、一番お前に迷惑かけてるのはこの俺だからな。」 そう言ってローさんは私の頭をくしゃくしゃっと撫でてくれた。 「もう少し、来るのはやくすればよかったな。恐い思いさせたな。すまねぇ。」 「いえ、来てくれただけで嬉しいです。」 「これから、なにかあったら俺を呼べ。すぐ行くから。」 「はい…。」 途中から涙声になって上手く喋ることが出来なかったが、ローさんは優しかった。 そのあとは帰るか、と言って、私に手を差し出してくれて、その日は手をつないだままアパートへと戻った。 帰る途中の電車でもローさんは無理にはなにも聞こうとせず、ただただ黙っていた。 無理に詮索してこないその姿がやけに印象的で、ホッとした。 ローさんがなにを考えているのかは分からないが、今は側にいて手を握っていてくれるだけで嬉しかった。 でも、わたしは帰ったら彼には元カレとのことをきちんとが話そうと思っていた。なぜだかは話からいが、話さなければならないのと思ったのだ。 アパートに着き、鍵をあけて中に入る。 部屋はまだ夕陽が差し込んできていてオレンジ色に染まっていた。 この夕陽が好きでこのアパートを申し込んだのに、今日ばかりはこの夕陽が胸を切なくさせるのだ。 そして、部屋の戸がガチャンと閉まるやいなや、私はローさんの腕の中にいた。 え…?と戸惑う私に彼は優しくつぶやいた。 「すまねぇ。でも、今だけはこのままでいさせてくれ。」 それは精一杯のローさんの優しさだった。 二人を巻き込む黒い渦 次の瞬間には私は声をあげて泣いてしまっていた。 |
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