招かれざる客 |
あれから私とローさんは一緒に朝ごはんを食べている。 めんどくさいだのなんだのと普段は言うくせに、これだけは譲らねぇという感じで無理やりにでも私に食べさせようとしてくる。 そんなことしなくてもきちんと食べるのになぁ、なんて愚痴をこぼせば嘘をつくなと言ってでこピンをかましてくるので、よけきれずに毎回くらってしまう。 「お前、反射神経鈍いよな。俺の世界だったらお前命の危機だぞ。」 「わ、分かってますよ!私が鈍いってことくらい。でもここは日本なんです。安全なんでそういうのは要らないんです。」 「まぁ、ここの安全性は過ごしてみてよくわかった。」 そう、これでも彼は異世界からきた人間なんだ。 「ローさんの世界って海賊とかがいるんでしたよね?いつか聞いてみたいです!」 そんなことを言えば、ローさんは少年のように目を一瞬だけ輝かせて答えた。 「そんなのいくらでも話してやるよ。」 「約束ですよ〜?」 「当たり前だろ。ってほら、もう時間なんじゃねーの?ゆっくりしてて大丈夫か?」 「え…?ってぎゃー!やばいやばい!急がないと。じゃ、じゃあ、ローさん行ってきますね!」 「おう、この前と終わる時間一緒だよな?」 「あ、はい、就業時間5時です!あ、この携帯置いていくので使ってください!あとこれ説明書…」 「分かったから、ほろ、早く急げよ。」 「ありがとうございます!いってきます!」 あわてて靴を履いて会社へと向かう。 今朝ローさんに渡してきたのは私のプライベート用の携帯だ。 連絡手段がないと困ると思ったからだ。 まぁ、結構公私混同なところがあるが、会社へ行くときはこの携帯だけで十分だろう。そして、頭のいいローさんのことだから説明書を読めば使い方もすぐ分かると思うし。 そんなことを考えているとあっという間に会社へとついた。 自分のデスクに座るところで 「鈴原〜!おはよう〜!」 と声を掛けられた。相手は多分ミナミ。 この声と無駄に高いテンション的に彼女であろう。 「おはよう!ミナミ!」 「と・こ・ろ・で!」 そう言うとニヤニヤしながらミナミは言った。 「昨日の男は結局誰なの?新しい彼氏?しかも外人っぽかったよね?あれには元カレのやつも負けるわぁ…。てか新しい男いたらいたとハッキリ言えばいいじゃなーい!」 「…ミナミさん…、相変わらず声大きいよ?」 あーもう、この子はホントに少しばかり声大きいよね。 ほら、みんなこっち見ちゃってるじゃん。 「あら〜、ありがとう!それは誉め言葉よね?じゃあ、昼休みランチでも食べながら話しましょう。」 「あ、うん、そうしよう。」 そういうと彼女は自分の席に戻っていった。 しかし、ミナミにローさんのことをどう説明したらいいんだろう…。 異世界から来たなんて言えないし…。 はたまた彼を彼氏だなんて言えるわけもないし…。 あーもうどうしらいいんだろうか。 仕事にまったく集中できないでいると目の前の携帯が震えた。 よく見るとプライベート用の携帯からメールが送られてきていたのだ。 件名:これで合ってるか? 本文:説明書全部読んだ。これでいいのか? まじで全部読んだっぽい…。 おっと返信しないと。 件名:上出来です! 本文:合ってます!お疲れさまでした!(*^_^*) 最後ににっこりした顔文字をつけて送信した。 これも意味が通じるのだろうか…。 すると今度は電話がかかってきた。 ローさんスキル高すぎじゃないですかね。 トイレに行くふりをして電話に出てみる。 「もしもし?」 「あ、澪か?」 「そうです!澪です!電話まで掛けられてすごいですね!」 「別にたいしたことじゃねぇよ。それよりも…」 「?何ですか?なにかありました?」 「いや、別に何でもねぇ。 「なら、いいんですけど。あ、そうだローさんにはものすごく申し訳ないんですけど、昨日私が会ってた友人覚えてます?」 「あぁ、あの背の高い女だろ?」 「そうです!その人にローさんとの関係を言及されちゃって…。」 「お前が好きなように答えればいい。お前に迷惑が一番かからないことだけ考えろ。」 「え…?」 「お前も色々大変なんだろ?なるべく支障が出ないようにしろ。友人でも兄妹でも恋人でも構わねぇ。」 「あ、ありがとうございます。」 「それよりも仕事中に悪かったな。頑張れよ。終わったら迎えに行くわ。」 「あ、はい。」 そう返事をすると電話は切れてしまった。 ローさんは実はいい人なのかもしれない。というよりは頭がいいんだと思う。だから、常に何が一番大切なのかを知っていてそれを実行しているんだろうと思った。 そしていつの間にやら昼食時間になっていた。 ミナミに誘われるがままに食堂に行って日替わり定食を頼んで席に着く。 「で、あの男は恋人なのね?」 ミナミの口車に任せてみようと思った。 「そ、そうです。」 「私が見たところ付き合ってまだ日は経ってないわよね。向こうから?」 「はい。」 「アンタが告白したりなんだりなんて出来そうにもないしね!」 「ミナミさんひどい…。」 「いいから黙ってなさい!ところで…あいつから何も言ってきてないの?」 「へ?アイツって?」 「もーとーかーれーよ!連絡もなんもないの?」 「あるわけないじゃん!ふったの向こうだし、今更連絡されても困るし…。」 「そうよね…。じゃあ問題ないわね、ちなみに私接待で午後からいないから!」 「わー、そうなの?」 「喜んでんじゃないわよ…。とにかく気をつけなさいね?」 「うん。」 じゃあ、と言ってミナミは急いで食堂を出ていった。 そんなに急ぐなら別に一緒にランチでなくてもよかったのに。 変なミナミ…。 そうこうしているうちに就業時間の少し前には仕事が終わった。 今日は私がローさんを待つのかーなんて考えて会社をでるとそこにはいるはずのない彼がそこにいたのだ。 「やぁ、久しぶりってほどでもないか…。」 そこにいたのはこの前別れたばかりの元カレだった。 「な、何しに来たの?ここ会社なんだけど。」 「お前のアパートにも行ったよ…。お前俺のほかに男がいたんだな?そうだったんだな?いつから俺のこと裏切ってたんだ?なぁ?答えろよ!!!!!」 じりじり詰め寄ってきていたのだがいきなりグッと距離を詰められて肩を掴まれ、そのまま怒鳴られた。 幸か不幸か、就業時間はまだなので周りに人はいなかった。 「ちょ、離してよ!なんなの?私たちもう別れてるんだから関係ないでしょ?」 「お前俺と付き合ってるときからあの男と付き合ってたんだろ?俺に隠れて。ふざけんなよ!」 わけのわからないことを言ってくる元カレ。 ミナミがいればなんとかなるのに…。 ってか、ミナミが言ってたのってこのことだったのか…。 「ちょっと、いい加減にしてよ!!」 彼の手から逃れないでいると私と彼の間に入って引き剥がしてくれた人がいた。 「なに勝手に俺のモンに手ぇ出してんだよ?殺すぞ?」 そう、その人物とはまさにローさんだったのだ。 招かれざる客 (なんでここに?) (嫌な気がしたんだよ。) |
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