二人で繰り出すいつもと違う街 |
朝を知らせる鳥の囀ずりが嫌でも耳に聞こえてくる。 それを聞いて、今が朝なのだということに気づいた。 あー…、 また、一日の始まりだ。 重いからだを動かして、近くにきっとあるであろう携帯に手を伸ばそうと思っても、あまりの頭痛のひどさに思うように動けず、床のうえにまたぐだりとたおれこんでしまった。 これはひどい。 昨日よっぽど飲み過ぎたのだろう。 しかし、これほど飲んだのは久しぶりだ。 いつもお酒を飲んでも顔が赤くなったり、酔いつぶれたことなと全くなかったのに…。 今が何時なのかもよくわからない。 出勤の時間だろうか…。 いや、そんなに寝ていたとは思わない。 そういえば、今日は仕事はいってたっけ? たしか、昨日の帰りにホワイトボードのマグネットを確認したときには、なにも書いてなかったハズ。 今日は休むことにしよう。 こんな状態で仕事に行ったって足手まといになるだけだし。 それよりも喉が乾いていてどうしようもなかった。 あたしはキッチンへ水を飲みになんとか立ち上がって、歩き出した。 そうすると、 足元にあったなにかにつまずき、あたしの体はまた床の上に倒れこんだ。 「いったあぁあぁぁぁあぁぁぁ!」 なにかにぶつかったのだ。 なにか…? 部屋にはあまりモノを置かない主義だし、モノでもなくて、柔らかかった…、 ちらりとぶつかったモノへと視線を移して確認してみる。 視線の先には、黄色のパーカーにモフモフの帽子をかぶった人…。 人…? なぜあたしの家に人がいるのだろうか…。 あれ?あたしはひとりぐらしで、彼氏とは昨日別れてきて…。 はっ! 人だ!!!! 人にぶつかったんだ!!! … ここに、この人がいるってことは…、 あー、夢じゃなかったのか。 昨日、うちのアパートの前にいた人、たしか、 とー…、 とー…、 トラファルガーさん? 「…チッ、いてーのは俺の方だ。」 舌打ちをしながら後頭部を押さえてトラファルガーさんが起き上った。 …起こしてしまった。 いかにも低血圧そうなこの人を。 相変わらず目の下の隈がひどいなぁ、この人。 結構ぐっすり寝てたと思ったけど、そうでもなかったのかな。 「おはようございます。そして、ごめんなさい。」 「あぁ。」 …。 夢じゃなかったってことはやっぱりこの人は異世界から来たのだろう。 まさか、こんなことがあるのだろうか。 しかし、この世の中、何がおこってもおかしくはないだろう。 目の前のトラファルガーさんは背伸びしながら欠伸をしている。 テーブルの上にのってあった携帯を見ると時刻は7:30をさしていた。 そのときだった。 ぐうぅぅぅ。 トラファルガーさんのお腹の虫が大きい声で鳴いた。 「ぷっ、トラファルガーさん、お腹すいてたんですね。」 「う、うるせぇ、不可抗力だ。」 「はいはい、人間の生理現象ですね。」 赤面になってトラファルガーさんが反論してくるのをふざけて返すと拗ねてしまったのかそっぽをむいてしまった。 あ、なんか可愛い。 って、いやいやいや、あたしは一体なにを考えているんだ。 「とりあえず、ご飯にしますね。」 「…頼む。」 キッチンで簡単に作った朝食をリビングのテーブルに運んで、ご飯にすることにした。 「トラファルガーさんのお口に合いますかね?」 「あぁ、まずくはねぇ。」 箸を使って器用に食べているところからして、彼のいた世界でも箸というものは存在しているのだとおもった。 それよりも、昨日着ていた格好のままなんだよね、あたしたち。 「…突然ですけど、トラファルガーさん、ここにいてもいいですよ?」 「は?」 「とりあえず、トラファルガーさんは異世界から来ているわけだし、帰り方もよくわかってないだろうし、大変だと思うんですよ。」 「お前、何言ってるのかわかってんのか?見ず知らずの得体のしれない奴と過ごすなんてどうかしてるだろう。」 確かに、じぶんでもどうかしていると思った。 でも、それでも、あたしは 一人になりたくなかったんだ。 「あたし、変わってる奴なんで。」 真剣な顔から一転させてニコっと笑って返すと、トラファルガーさんはハハっと笑ってさっきまでのキツイ目から変わって笑顔の弧を描く細い目で笑った。 「お前、ほんと変わってんな。」 「褒め言葉です。」 「俺も実際ここを追い出されたら路頭に迷うし、助かる。」 そう言うと、トラファルガーさんは自分の手を差し出して言った。 「改めて、北の海出身、トラファルガー・ローだ。 ローでいい。」 「鈴原 澪です。あたしも澪でいいです。」 そして、握手を交わした。 大きなごつごつとした手だがとても温かかった。 「ということで、今日はローさんの必要なものを買いに行きましょう。」 二人で繰り出すいつもと違う街 (ローさん、スーパーのものは触っちゃダメですよ。) (そんなの、俺の勝手だ。) ((ダメだ、この人。)) |
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