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近づく二人の距離
あの日、マルコ隊長に抱きしめられてから、なんとなくだが、あたしとマルコ隊長には距離ができてしまった。というか、避けようとかそういう気はないのだが、2人でいるときに自然に振舞うことができない。そんな感じになってしまった。

エースの溜め込んだ書類を終えて、マルコ隊長の部屋に持っていった時も前ならば、

「お疲れ様、ありがとよい。ったく、澪の働きっぷりをエースにも見習って欲しいもんだよい。」

と、声をかけてくれていたのに今では、

「お、お疲れ様だよい。」

と、声はかけてくれるのだが、明らかにその声はうわずっているし、その度に書類を落としたり、コーヒーを零したりと明らかに動揺されているのだ。

エースやサッチにどうしたんだ?って聞かれても、まさか抱きしめられて緊張してうまく話すことができません、だなんて恥ずかしくて言えるはずもなく、ちょっと、と濁すことしかできなくなっている。

マルコ隊長はあたしのことをどう思っているのだろうか。本当に家族だと思ってくれてあの行動をとったのであれば、こんな風にぎこちない空気はうまれていないだろう。

しかし、だからといって自分が惚れられるなんて自惚れた考えを持つこともできない。よく思われてせいぜい歳下の生意気な妹分と言ったところだろう。

自分でもこの状況をどうしたらいいのかよくわからないのである。

そんな時に支えてくれる、助けてくれる心強い味方というのは友達というもので、それもミナミという強力な親友が懇切丁寧に相談にのってくれた。

「え?マルコ隊長の今までの恋愛遍歴?」

「いやいや、ミナミ、そうじゃなくて、なんていうか、マルコ隊長って恋したらどうなるタイプの人なのかなって…。」

「もしかして澪、あなた、マルコ隊長のこと好きなの?」

「えっと、好きとかそういうんじゃないの!大体、マルコ隊長は色男でモテそうだし、あたしみたいなチンチクリンは相手にされないだろうし……。」

「もう!澪ってば鈍感ね!あなたはチンチクリンなんかじゃないし、十分魅力的な人間よ!」

鈍感……。

前の世界でも言われた気がするなぁ。
しかも、同じミナミに。

「んー、わたしも船に乗って長いほうだけど、マルコ隊長が今までに誰かをキープして置いたりってことはなかったわよ。大体ここの船員はそういう人が多いと思うわ。島で女を買うってことはよくあることだとは思うけどね。ワンナイトラブならぬ、ワンアイランドラブって感じかしら。あ、でも、ナースとくっついた船員たちは別ね。」

「あ、もしかして、マルコ隊長も…?」

「うーん、どうかしら。わたしも彼氏ができてからはそっちの方には疎くなっちゃったからねぇ。でも、ナースの誰かを抱いたりはしてたんじゃないかしら。マルコ隊長イケメンだし、言い寄るナースはいたと思うわよ。」

あ、やっぱりそうなんだ。
改めて、ここの人達は海賊なんだと思い知らされた。
元いた世界では、女を買うなんて表では行われないことが普通に起きているのだ思うと、そのギャップに軽いショックを覚えた。

「……軽蔑した?」

「ううん、そうじゃないの。驚いただけだよ。こんなわたしのこと拾ってくれてよくしてくれた人達だよ。軽蔑するわけないじゃない。」

「ありがとう。澪にそう言ってもらえてわたしも安心したわ。」

「じゃあさ、やっぱり、他の人のことをあっさり抱きしめるってことも普通にできるってことだよね?」

「相手によるだろうけど、できないことじゃないと思うわよ。わたしもサッチ隊長には普通に抱きしめられるし。もちろん、彼氏公認よ。」

……なんという。
向こうの世界でもミナミの彼氏はいい男だったがこっちの世界でもミナミの彼氏は懐のデカイ男だ。

「なるほど。うん。ミナミ、話聞いてくれてありがとう!大体わかったよ。」

「??よくわかってないけど、あなたが納得できたならわたしも嬉しいわ。澪と話せて楽しかったし、またいつでも話しましょう。」

ミナミにお礼を告げて部屋を出た。

とりあえず、マルコ隊長本人と直接話そう。
わたしなりの自論もたてたし、それを伝えて普通にお願いしますって言わなければ。
そう思ってマルコ隊長の部屋へと向かった。

コンコンコンと3回ノックをする。

あたしだと分かるように2人で決めたきまりだ。

ガタガタっと椅子を引いた音がする。
また彼は動揺しているのだろうか。

「はいよい。」

中からその声が聞こえてわたしはマルコ隊長の部屋へと入った。

「マルコ隊長、お話があるんですが…。」

「なんだよい?」

そのまま座れと促されてあたしは近くの椅子に座り、マルコ隊長も座った。

「えっと、マルコ隊長、この間泣いてしまったときはすいませんでした。」

いきなり本題にいってしまい、マルコ隊長の顔色も少し変わった気がした。

「こっちこそ、すまねぇよい急に…」

「あ!そのことなら気にしてません。ミナミからそれは普通のことだって聞きましたし、あたしだけが特別意識しちゃってて、その意識してるのがマルコ隊長にも伝わっちゃって、さっきみたいに動揺しちゃってるんだと自己解釈したので……。」

「……どういうことだよい?」

「えっと、最近マルコ隊長あたしによそよそしいなぁと思って、その理由を探したら自分だということが分かって、謝ってる次第です。」

「あ〜。」

そう言ってマルコ隊長は分が悪いような顔を見せて、頭をかいた。

「ちげぇよい、澪。」

自分なりにたてた自論はあっけなく否定された。マルコ隊長の次の言葉を待った。

「俺ぁ、ちっとやりすぎちまったんじゃねーかと思って、少し緊張してたんだよい。」

なんせ女を自分から抱きしめるなんて久し振りでよい、と、彼は照れくさい様子で答えた。

「大体お前はずるいんだよい。あんなところできれいに泣いてるんだからよい。」

「え……?」

きれいにってことはないだろう。
第一、あたしの泣き顔なんてローさんにぶっさいくと言われるほどのものだ。
それをきれいだなんて。

「お前の気持ちも考えずに抱きしめちまってわりぃよい。でも、あの時はそうせざるをえなかった。いや、俺ぁそうしたかったんだ。」

ねぇ、それはどういうことですかマルコ隊長。きちんと言葉にしなきゃあたしには分かりませんよ。

「すまねぇよい澪。俺はお前に惚れてる。」

そう言ってマルコ隊長はあたしをまたあの時と同じように抱きしめた。

「あんな態度をとっちまって悪かった。ただ、俺は不器用だから、どう伝えたらいいか分かんなくなっちまったんだよい。それと、俺は誰彼構わず抱きしめたりしねぇ。俺は好きだと思ったやつしか抱きしめねぇよい。」

マルコ隊長の体温はとても暖かくて残酷にあたしを包んでいた。


近づく二人の距離


ローさん、ごめんなさい。
今だけはこの手をとることを許してください。
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