蒼黒の奏で | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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目の前に差し出された手
がやがやとした音が耳に入ってくる。

人がたくさんいるというかそんな感じの音だ。

目をうっすらと開けると瞳いっぱいに外からの光が入ってきて、開きかけた目をまた閉じてしまう。

懲りずにもう一度目を開けると、目の前には見慣れない天井が広がっていた。

そうだ。
思い出した。

確かわたしはジャングルの中で男たちに囲まれて、思いっきり頭を殴られて…

「はっ!!!!」

身の危険を感じ一気に起きあがると体中に痛みが走った。

「いったぁーーーー!!!!!」

起きあがったわたしにナースの格好をした、とってもナイスバディなお姉さまが近寄ってきてくれた。

「ちょっと動いちゃだめよ!!まだあなたは絶対安静なんだから!!!」

そう言われてわたしは半ば強制的にベッドへとまた横にさせられた。

「ねぇ、女の子が目を覚ましたって隊長に伝えてきてもらっていい?」

先ほどのお姉さまが他にいたナースの人(これまたナイスバディなんだけど)にお願いして、頼まれたナースの人が部屋を出て行った。

それにしてもわたしに注意をしてくれたナイスバディなお姉さま、誰かに似てる気がする…。

わたしがあまりにも彼女を見つめていると、彼女の方から話しかけてきてくれた。

「あなた、大丈夫?他にどこか具合の悪いところはない?」

「あ、えっと、全身がとても痛いだけです。」

「それなら良かった。それは筋肉痛と打撲のせいよ。それに、お腹におっきな痣までできちゃって…、ホントになにがあったの?」

なるほど。こんなに体が痛いのは思いっきり全力疾走したからか。
確かに今まであんなに体を動かしたことなんてなかった。
それなら筋肉痛にもなるはずだ。

「えっと、それがわたしにも…。」

そうだ。

わたしはあの男たちに捕まったはずだ。
なのに、どうしてこんな設備のきちんと整ったところにいて、手当てまできちんとされているんだろうか。

これから売られるからなのか?
それにしてもそんな奴にこんな待遇なんてどう考えてもおかしい。

「そう。まぁいいわ。これから、あなたを見つけた隊長さんたちが来るから、待ってて。」

そう言ってお姉さまは自分の仕事に戻ったようだった。

お姉さまの話を聞いてもなんだかイマイチ噛み合わない。

助けてくれた?
わたしが最後に見たのはフランスパンとパイナップルだ。
食べ物がどうしてわたしを助けてくれるのだろうか。
いや、助けてはくれない。

その後、先ほど話に出た隊長という人たちはすぐに部屋に来た。

「おい、目が覚めたってのは本当かよい?」

「女の子大丈夫だったか?」

「俺も見てぇぞ!!!」

バンっとドアを開けてわたしの目の前に現れたのは隊長と呼ばれる3人だったのだけれど、どこかで見覚えがあると思えば、殴られて意識を失う直前に見た、フランスパンとパイナップル(どちらも髪型だった)であった。

隊長と呼ばれる3人はわたしの寝ているベッドのそばまで来て、ナースの人たちが用意してくれた椅子にそれぞれ座った。

「おい、女、大丈夫かよい?」

よい…?????
え、なんだろ方言みたいなものかな。
っていうかパイナップルがよいって、ちょっと、え。ツボなんだけど。

「はい、現在ちゃんと生きてますし…。大丈夫かと。」

「隊長、彼女は全身に及ぶ筋肉痛と打撲によって各所に痣ができたみたいです。お腹に特別大きいのがありますし、しばらくは絶対安静です。」

ちょっと、ナースさんそんな恥ずかしいことまで言わなくてもいいよ。

「そうかよい。命に別状がなくてよかったよい。」

死ぬかと思ってましたけどね。半分くらい。

「それにしても、お前見慣れない格好してたよな?あの島の人間か?それとも、どこの海の出身者だ?」

今度はフランスパンの人が話しかけてきた。

島…?
いや、確かに日本は島国だけど、あんなジャングルって感じのところがあるわけない。つまり、あそこは日本じゃないということで違うことになる。

他の人の格好をよく見れば、パイナップルは半裸にシャツだし(しかも腹に刺青?はいってる)、フランスパンはコックみたいな恰好で、あとから入ってきたテンガロハットのそばかす君は半裸だ。

なんてアメリカン。いや、アメリカ人だってきちんと服ぐらい来着てますよ。

「えっと、多分あの島の住人ではないです…。逆に聞きますけど、今ここはどこですか?」

「ここは白ひげ海賊団の船、モビーディック号の医務室だよい。場所はグランドラインのとある島ってとこかい?」

「船…?海賊…?」

「何だ?お前海賊を知らないわけじゃないだろい?」

「知ってますけど…。海賊って、そんな海賊が私の世界にいるなんてありえないです!」

そうだ。私がいた日本では海賊なんていないし、いたとしてもやっぱり銃刀法違反でお縄についてるだろう。

「しかも、グランドラインってどこ…?」

わたしが答えると、3人は一斉に驚いた顔をした。
テンガロハットの人だけは唯一わたしに反発してきた。

「お前、グランドラインにいてグランドラインを知らないって馬鹿か!?」

すると、フランスパンがそれに怒ってテンガロハットの人を思いっきり叩いた。

「エース!!!お前人のこと馬鹿なんて言えんのか!…ごめんねー、コイツバカだからさ、ハハハ。」

苦笑いで返すわたしにこれまた苦笑いで返すフランスパン。
そして広がる沈黙。

その沈黙を破るかのようになにか思いついたのハッとした顔をして、パイナップルが話し始めた。

「大体の話を聞いてなんとなくわかったよい。」

「はぁ…?」

パイナップルはこのフランスパンとテンガロハットとは違って意外にも冷静でその洞察力で色々と把握したらしい。

「お前、異世界から来たんだろうよい。」

「「異世界?」」

ポカンとするわたしをよそに話を続けるのはこの三人だ。

「異世界ってなんだよそれ。」

「そうだぞ!俺だって異世界なんて初めて聞いたぞ!」

「まぁ、二人とも落ち着けよい。そう決まったわけじゃねぇ。判断材料が少なすぎるし、俺だって異世界なんてもんを信じてるわけじゃあないよい。」

そして、また一旦黙って、再び話し始めた。

「ちなみに聞くが、お前どこに住んでた?」

「えっと、日本ですけど…。」

「「にほん?」」

フランスパンとテンガロハットがハテナマークを頭に浮かべたのが見えた気がした。

「にほん、なんて俺ぁ、聞いたことないよい。」

「ですよね…。」

にほんについてフランスパンとテンガロハットがわーわーと話し始める。

そのなかでわたしも一つの持論を立てることができた。
うっすらとよみがえる記憶をたどって、それは鮮やかなものへと変わっていった。

「…日本…?」
「え?日本を知らないんですか?でも、日本語喋ってますよね?」
「ノースブルー…、グランドラインはどこだ?」
「のーすぶるー?…ぐ、ぐらんど?」
「海の名前だ。」


異世界…。海賊…。
グランドライン…。

そう、このことを言っていた人物をわたしは一人だけ知ってる。

「改めて、北の海出身、トラファルガー・ローだ。ローでいい。」

………ここはローさんの世界なんだ。

わたしがこの世界に来てしまったんだ。

ローさんが元いた世界に。

ねぇ、ローさん、この世界でも、またあなたに会えますかね?

あのときの約束は今も約束のままですか?

会いにいっても、いいんですか?

会いに行って泣いてしまったら、またぶっさいくっ、て言って笑ってくれますか?

その優しい腕でもう一度抱き締めてくれますか?

二度と離さないって言ってくれますか?

ローさんに会えるかもしれないという喜びと異世界に来てしまったという不安さと一気に胸の中のわだかまりがとれたことで、わたしはいつの間にか泣いてしまっていた。

「お、おい大丈夫かよい?どっかいてぇのか?」

「あ、あれ、わたしなんで泣いて…。」

「おい、泣くなよ?もしかして、腹減ってんのか?サッチなんか作れよ!」

「お、おう!何か食うか?」

「あ、あのいえ大丈夫です。ちょっと気が動転してしまって…。」

そう言ってわたしは慌てて笑って見せた。

すると三人ともつられて笑ってくれた。

なんだかこの三人のおかげで随分楽になったなあ。

「とりあえず、お前はこの船で一旦預かるよい。」

「え、置いてくれるんですか?」

「当たり前だよい。俺等が襲われてたお前を拾って来たんだ。帰れるまで責任ぐらいもつさ。」

「だな。安心してくれよ!」

「そうだぞ!」

「ところでまだ名前を聞いてなかったよい。俺はマルコ。1番隊隊長だ。」

パイナップルはマルコさんと言うらしかった。

「俺はサッチ。4番隊隊長兼コックだ!」

フランスパンはサッチさん、しかもコックさん!

「俺は、エース!2番隊隊長だ!」

テンガロハットはエースさんという名前だった。うん、なんか合ってる。

「わたし、鈴原 澪って言います。澪でいいです。助けてくれてありがとうございました!宜しくお願いします!」

「「「よろしくな、澪!」」」

そして3人が同時に手を差し出すので、どうしたらいいのかと思ってると、

「バーカ、こうだよ。」

エースさんが太陽みたいな笑顔で笑って、グーにしてみせたのでわたしも同じようにすると、マルコさんとサッチさんも同じにして、わたしの伸ばしたままの拳にコツんとぶつけてくれた。

どうやらこれが彼らのお決まりらしい。

「よし。じゃあ、明日辺りに親父に会いに行くよい。」

「はい!」

話がまとまると、隊長達3人は誰かに呼ばれたらしく、慌ただしく帰っていった。

最後に出ていくマルコさんが、入口まで行ったのに、私の元へとまたきて、

「ゆっくり、休めよい。」

と言って頭をクシャクシャに撫でられた。

その手が暖かくて、ひどく安心感を覚えた。


目の前に差し出された手

今はただ縋り付くだけ
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