忍 series | ナノ
◎ 本日、晴天。2
「ー…であるからして…。」
担任のカカシ先生の声が響く。
理科の授業である。
分野的に言うと物理。
私の嫌いな分野である。
方程式やらなにやら。
大体こんなのやって将来なんかの役に立つのか甚だ疑問である。
だから、こんな授業のときには、
机に突っ伏すいつもの私スタイルでやり過ごす。
前の席にいるナルトはまじめにもノートをとっている。
ナルトはやるときはやる男だからな。
別段驚くわけでもない。
そして、
こんな日当たり良好な席でポカポカしていて
気持ち良くなってしまう場所にいて寝るなという方がおかしいだろう。
そう感じているのは私だけではなかった。
隣の席になったシカちゃん?だっけ。
彼もこの席の素晴らしさを知ってか、隣で爆睡。
スースーという一定のリズムで寝息がこちらにまで聞こえてくる。
あぁ…。
欠伸が出てきて眠気がジェットコースターのように下降していく。
私ももう限界だ。
…*…*…*…
授業の終了を知らせるチャイムとともに私の目が覚めた。
結局、カカシ先生の授業の半分以上を寝て過ごしてしまった。
まぁ、いつものことか。
「澪、お前、授業終わると目が覚めるんだな。」
ナルトが振り向いて話しかけてきた。
「ナルトも変わらないでしょ。」
そうだ。
ナルトも数学の時間は寝ているし私と大して変わらないであろう。
「バッ!俺は意外と真面目だったりするんだってばよ。」
「はいはい、ナルトのすごさは知ってるよ〜。」
「大体、シカちゃんのが寝てるってばよ。」
ふと、隣に視線を移すと彼はまだ爆睡していた。
改めて、まじまじと見てみるときれいな顔立ちだと思った。
きれいな寝顔だった。
「ふあぁぁぁ…。よく寝た。」
そう言って彼が大きな伸びをするとともに
腕を天井に向けて伸ばすから、私が見ていたことが気づかれないように
ナルトに視線を戻した。
「寝すぎだってばよ、シカちゃん。」
「ねみぃんだから仕方ねぇだろ。澪、お前だってそうだろ?」
「え!」
イキナリ話題を振ってこないでください。
こういうの苦手なんです。
大体、隣になったばかりでほとんど初対面も同然の人と話せるわけがないだろう!
「…う、うん。そうだな。」
あーダメだ、
こういうのはホントにダメだ。
相手が話したことに対してほんの少ししか返せない。
話題を自分から膨らませるなんていったそんな高度な技術はあいにく私は持ち合わせていないんですよ。
そして、ちょうどその時だった。
後ろのドアからカカシ先生がひょっこり顔を出して私を呼び出した。
「チョット、澪ちゃん、こっちきなさいよ。」
「えー。」
なんだろう。
授業中に爆睡していたことを怒るのだろうか。
はたまた、この前の課題をやってこなかったことだろうか。
それとも、土曜課外をサボったことだろうか…。
考えれば考えるほど私のした悪事が露わになっていく。
カカシ先生のもとにいくと、彼はにっこりと作り笑いなのか本気の笑顔か分からない顔で分厚いプリントの束を私の頭にボスっと乗っけた。
「先生。これは一体…。」
「授業中爆睡、課題未提出、課外不参加。
これをこのプリントで見逃してあげようとしてるんデショ。」
「いえ、そうじゃなくてこんな量、私一人じゃ…。」
「だーかーら、今日の放課後、物理講義室に来なサイ。
先生がやさ〜しく教えてあげるんだから。」
カカシ先生はそう言って、おまけにウインクまでして帰って行った。
最悪だ…。
今日は厄日か。
プリントを抱えて席に戻るとナルトが笑いながら話しかけてきた。
「ブハ、澪、なんだってば、そのプリント!!しかも分厚い!!」
「先生の放課後特訓だってさ。」
「お気の毒だな。」
シカちゃんもナルトと同じように笑いをこらえながら話しかけてくる。
まったく、たまったもんじゃないよ。
プリントをやるのは実際構わない。問題なのはカカシ先生とマンツーマンということだ。ほんとに勘弁してほしい。カカシ先生ファンクラブに見つかってしまったら半殺しじゃ済まないぞ、きっと。
はぁ。と大きくため息をつくとシカちゃんがまた、話しかけてきた。
「じゃあ、俺もその講義に参加すっかな。」
「え?」
は?
何言っちゃってるの?このお方。
貴重な貴重な放課後をカカシ先生の講義に使うだなんて、なんて勉強熱心なんだ。
「俺も今のところ全然わかんねぇし。」
…それはあなたがネテイルカラジャナイデスカ?
まぁ、私も寝ている身なので人のことなんて言えないな。
「シカちゃんマジで受けるのか?」
「おう、お前も受けたらどうだナルト?」
「俺は部活があるってばよ。」
そう。
ナルトは部活をやっているんだ。
しかも、野球部(最近知った)なのだ。
次期キャプテンという噂も聞いた。
やっぱり、頑張っている奴に人は惹かれていくんだと思う。
「そうか、なら残念だな。」
部活があると言って断ったナルトにシカちゃんがしれっと答える。
…残念なのだろうか?
むしろ、喜ぶべきものだと思うのにな…。
「な、いいだろ?」
そう聞いてくるシカちゃん。
いやいや、私に聞かれましても困りますよ。
大体これ命じたのはカカシ先生だし。
とりあえず彼の勉強に対する情熱を無下にもできないから、
「…い、い、いいんじゃないでしょーか、はい。」
と、答えておいた。
「何で敬語なんだよ!」
「え、だって、あの。」
「もしかして、澪、シカちゃんの名前知らないんじゃねーのか?」
「なっ!!!!!!ナルト!!!」
おいおい、何言ってんのよ〜。
完璧に私ダメ人間としてこの人にインプットされちゃうじゃん。
いや、別に困んないか。
どうせ一年間の付き合いだしな、うん。
そうだ、ここはプラス思考。
「…まじか?」
そう聞いてくるシカちゃん。
「あはは〜。うん、ゴメン、知らない……。」
そう言った私にシカちゃんとナルトは吹きだした。
「あっはっはっは、お前ってば相変わらず、チョーウケルってばよ。俺の時もそうだったよな。」
「クックク、俺もこんなナリだから、名前が広まるっつーのはあったけど、知られてないっつーのは初めてだ。」
…確かにお二人とも目立ちますからね。
(良い方にも悪い方にも。)
だって、ゴメン!
興味なかったもん。
「奈良シカマル。」
そう言って手を伸ばしてきたその手を握ってしまった自分の顔が少しだけ赤くなったのを感じた。
本日、晴天。
(奈良…しか、マル。)
繰り返すその名は忘れないため。
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