The Cocktail Wowld | ナノ
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -
 ウイスキー フロート
マルコとだけでもびっくりなのにイゾウともキスすることになるなんて思ってもみなかった。

ただでさえ今夜は刺激的なのに、何と言ったらいいかわからないが変な気分だ。

勢いでキッチンから出て甲板にいくとケロっとした顔を見せてこちらを見てニヤリとほほ笑むマルコいまた顔を赤らめてしまう。

だめだめこんなんじゃ。
じっちゃんが聞いたら呆れられてしまう。

心を落ち着かせようとしていると、イキナリ後ろから目隠しをされた。


「だ〜れだ?」

声からすると…。

『…サッチ?』

すると目隠しを解いてくれて目の前に素敵リーゼント(自称)が現れた。

「正解〜♪俺だと見事に当てたサラには俺からのチュー…」

そうサッチが言いかけると、サッチに鉄拳と蹴りが与えられた。
それはさっきまでお酒を飲んでいたマルコとイゾウからによるものだった。

「お前は酔ってんのかよい?」

「姫さんに何言い出すんだ?口説くのはナースだけにしとくんだな。」

……この二人は一体何を冗談めいたことを言い出すんですかね。笑っちゃいますねこりゃ。

「くそ、なんだよお前ら、エース押し付けて、急に姿消したかと思ったらいきなり現れるしよぉ。サラだっていなくなるし。俺寂しかったんだからな〜。」

そう言ってサッチは泣き真似をしていた。
なんだかサッチがかわいらしく見えてきてしまった。

『サッチ、ごめんね。エースの世話してくれてありがとう。』

そう言って頭をポンポンとしてあげると機嫌がよくなったのかぱぁっと顔を明るくして私の方を見た。

「よし、サラ!久しぶりに俺に何か酒作れ。そしたら許す。」

『サッチに飲んでもらうのかぁ…。やっぱり料理人に見てもらうのも上達の証になるかな?よし、いいよ作りますよ!』

「よし、じゃあ、俺様の城へ行くか!」

『おぉー!』

なんて手を挙げて返事をすると、後ろから先ほどの二人組がついてきた。

「なんでお前らまでついてくるのかなぁ?」

「サッチばかりずるいだろうよい。」

「そうだね、俺も姫さんの作るのを飲んでみたいしな。」

嘘も方便というかなんというか。
これだから男って生き物はどうしもようもないですね。

「すまねぇな、サラ。」

『ううん、サッチが気にすることじゃないから!気にしないで!』

そう明るくふるまって見せるとへへっと笑って彼は鼻の下をかいた。

キッチンに入って、飲みたいものを尋ねると、サッチは

「そうだなぁ〜、ウイスキーベースの奴が飲みてぇ。今はそんな気分なんだ。」

そう言ってにこーっとカウンター席に座って答えた。

『分かった。』

氷を入れたタンブラーにソーダを注ぐ。そして、バースプーンの背を使い、ウイスキーを静かに注ぐ。簡単なものではあるが量が大切なのがこの飲み物である。

琥珀色のウィスキーと無色透明な水のグラデーションが美しく、絵画的に魅せる。
このカクテルは作るプロセスも楽しまえるので、なによりも私が嬉しい。

「ほぉ…見事なもんじゃねぇか。」

『さぁ、召し上がれ!』

そう言って一口口につけてサッチは言った。

「くは〜。やっぱりサラ作るカクテルは一味違うなぁ。俺がウイスキーフロート作ってもこの味はだせねぇなぁ…。水よりもアルコールの比重が軽いという特性を生かしてていいよな、これ。」

『ありがとう。やっぱりさ、料理も飲み物もそうだけど、作ってる方も楽しくなきゃ意味ないじゃん。美味しいって言われるのは何よりも嬉しいし、最高なことだと思うけど、やっぱり楽しめなきゃね!』

「そうだよなぁ。やっぱりサラとは気が合うぜ。
なぁ、サラ、やっぱりうちの船にのらねぇか??」

「サッチ、お前何言い出すんだよい。」

「そうだよ、親父に言われてたじゃねぇか。」

『え…?』

「しゃあねぇだろ。だって、俺、サラのつくるもののファンだからよぉ、第一料理についても一緒に色々分かち合いたいじゃねか。」

『サッチ…。』

なんだか、しんみりした空気になってしまった。

『あのね、みんながこの船に勧誘してくれるのはものすごくうれしいんだ。私のことを認めてくれてるっていうのがすごくわかるしね。でも、やっぱり、私は海には出れないよ。そんな勇気もないし…、何よりも私この町とお店が大好きなんだ。町の人だって優しいし、お店はじっちゃんが私に残してくれたものだから精一杯守っていきたいんだ。』

「サラ、すまねぇな。無理言って。」

サッチはそう言うと私の腋に手を伸ばして、いわゆる高い高いのポーズになっていた。

「俺たちがこの船と親父が大好きなように、お前もこの町と店が大好きなんだな。」

『うん、そうなんだぁ。』

「でも、離れていたって俺たちは家族なんだからな。辛い時とか苦しい時があったら甘えていいんだからな。」

『ありがとう、サッチ。大丈夫、私、今幸せだからさ。』

「よし!」

そう言って私とサッチはおでこを合わせた。
ちっちゃい時からやってもらっていたやつだ。
これをされるとなぜか安心するのだ。

サッチから下ろされて、私は床へと戻される。

そして、なぜかイゾウとマルコも集まってきて、サッチとの3人でヨシヨシと頭を撫でられる。

「じゃあ、俺たちは明朝には出るからな!」

「ありがとよい、サラ。」

「俺も感謝してるぜ、姫さん。」

『ありがとう、みんな。』

じっちゃん、やっぱり、白ひげ海賊団のみんなは最高だよ。


ウイスキー フロート。


また会おうという
約束の名の下に。 prevnext
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