The Cocktail Wowld | ナノ
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
 雪国
マルコにいきなりキスをされてとてもびっくりした。
しかし、ほんとに男というものに油断をしてはいけないなとつくづく思う。

頬が紅く紅潮していて、しばらくは外に出れないなぁ…と、キッチンの中で考える。
それにしても、このキッチンはとても使いやすいと思った。

やはり、コックのサッチがあぁは見えてもきちんとしているからだろうか。

サッチは見た目はチャラチャラしていて、リーゼントだし、少し女にだらしないところもあるし、結構…いや、かなり誤解されることも多いだろう。
それでも、このキッチンを見る限りはそんなことも感じられない。
オンとオフの切り替えもすごいんだな…と改めて実感する。

宴が始まる際にサッチからはキッチンは自由に使用していいと言われていた。
(だから、先ほどもマルコにカクテルを作ってあげたのだけどね。)

キッチンを見渡していると、ふと、目の前に砂糖とグラスを見つけた。

そうだ!良いこと思いついた!

カクテルグラスに先ほど目に入った砂糖を使い、スノースタイルにする。
簡単にグラスの淵に雪を見立てて飾り付けていく。

「じっちゃんも、よくつくってたなぁ…。でも、やっぱり、あたしはまだまだだなぁ。あんなにきれいに飾ることはできないや。」

自分が先ほど施したグラスを見てみる。
うん。やっぱりまだまだ未完成だ。

そう、独り言をつぶやていたとき、キッチンのドアがまた開いた。
一瞬またマルコが来たのかと思い、先ほどのこともあって、グラスの装飾に夢中になって冷めたと思ってた頬がまたほんのり紅く染まった。

「おや、こんなところにいたのかい?サラお嬢さん。」

「イゾウさん!」

そう、現れたのはイゾウさんだった。
相変わらず少し肌蹴た和服から覗く鎖骨やら仕草はやけに色めかしい。

「こんなところでどうしたんだい?」

…マルコに呼び出されて、カクテルを作らされて、キスされただなんて言えるわけないじゃないか。

「ちょっと、宴のほうが盛り上がってきてて少し疲れちゃって、みなさんには悪いと思ったんですけど、避難して来ちゃいました。」

と、お得意の営業スマイルでかわす。

「そうだったのかい。まぁ、あんなところに長時間いるのは長年ここにいる俺だってつらいからねぇ。」

「イゾウさんもつらかったりするんですか?」

すると、イゾウさんはふぅっっとキセルから息を吐いた。

「なぁ…、さっき、俺も、って言ってたけど、他にも誰かここにいたのかい?」

「え、あ、いや、誰もいませんよ!」

「フフ、そうかい。」

マズイ。
先ほどマルコがここにいたのをイゾウさんは見ていたのかもしれない…。
いや、でも、それがどう関係してるってわけじゃないし…。

まさか、さっきのキスを見られてたり…。

「なら、さっき、マルコがここから出ていったのは俺の見間違いだったか…。」

「そうですよ、きっと見間違いです!」

「ふーん。そうかー。見間違いか。しかし、サラ、お前さん俺がここに入ってきたときにほんのり顔が染まっていたんだが、どうしたんだい?」

………ダメだ。
多分この人はすべて見ていたんだ。


「すいません、イゾウさん。先ほどまでマルコがここにいました。」

「ほぉ。そうかい。すると、お前さんは俺に嘘をついていたんだね?」

「うっ、す、すいません。」

「まったく、悪い子だ。ちょいとばかし仕置きが必要かね?」

「そ、そんな殺生な………。」

「フフ、まぁ、冗談。そのかわりといっちゃあなんだが、俺にお前さん特製のカクテルを入れてくれるかい?」

先ほどのいたずらっ子のような顔とは一変して、いつもの優しい顔に戻ってイゾウさんが言った。

「そんなの、いいに決まってるじゃないですか!」

自分の作るお酒…カクテルを求められたことが素直に嬉しかった。
こういうときは、やっぱりバーテンダーとはまた違った形ではあるがじっちゃんから色々教えてもらえてよかったなぁと思える。

入口のドアのところに立っていたイゾウさんを、キッチンにあるテーブルの席に座るように言って待っててもらうことにした。

そして、イゾウさんに出すカクテルを考える。
イゾウさんといば和服にキセルだ。

先ほど施したグラスに合うカクテル、それでいてイゾウさんに似合うカクテルは…と考えて、これだと思いついた。

ウォッカにホワイトキュラソー、ドライベルモットとライムジュースを注いでシェイクする。

そして、仕上げに緑色のミントチェリーを沈めて完成だ。

しかし、私がシェイクをしているとき、イゾウさんが私から目をそらさずに最後まで見ていたのはとても緊張した。

お店でも、初めてくるお客さんにシェイクしてる姿をじーっと見入られることはあるが、接客業ではそんなことよくあることだし慣れているはずなのに、この人の前ではどこか違う違和感を感じた。

足の先から、頭や指の先までを彼の視線を受ける。
見られたところすべてが紅く染まってしまうような、そんな不思議な心地に襲われた。

「出来ました。」

そう、落ち着いて言ってみるものの、少し震えてたんじゃないかなぁと思う。

そっとカクテルを差し出してみると、イゾウさんはカクテルの注いであるグラスの淵をまじまじと見つめた。

「ほぅ、面白いのがついてるじゃないか。見たところキラキラしてるねぇ。まるで”雪”みたいだ。」

「すごいですね!イゾウさん!やっぱり分かってくれましたか!そのグラスの淵についてるのは雪をイメージして施したものなんです!」

「へぇ、すごいじゃないか。それじゃあ見た目は味わったことだし、中身…といこうか。」

「はい、ぜひ飲んでみてください!」


イゾウさんがグラスを口につけて一口飲む。
コクッと動く喉仏がやけに色っぽい。

「ウォッカがいい感じに効いてるね、美味いな。」

じっくり味わってからイゾウさんがそう答えた。

「良かったあ。」

もしかすると口に合わなかったかもしれないと思っていたが、どうやら彼はわたしが作ったカクテルを気に入ってくれたみたいだ。

「このカクテルの名前はなんなんだい?」

「あ、このカクテルは雪国というんです。

”雪”でふちどられたグラスは雪国の冬そのものを表しています。そして、緑色のチェリーが、じっと春を待つ木々の芽をイメージさせています。冷えたウォッカに甘酸味がマッチして体も少し暖まると思いますよ!」

「雪国…。確かにこのクテルを飲んでから少しばかし体温があがったきがするねぇ。」

「外も冷えてきたので丁度いいと思いまして…!」

「へぇ、サラは俺のことを考えてくれてこのカクテルを作ってくれたんだね?」

「はい!カクテルを作るときはいつも第一に飲む相手のことを考えて作っているつもりです!」

「一人前になったじゃないか。」

「ありがとうございます!でも、私なんてまだまだですよ…。」

「しかし…、」

イゾウさんは最初は賞賛の声をくれた。
それは素直にうれしかった。
だが、次の瞬間声の調子が変わってつぶやいた。

「お前さんがカクテルを作る際に浮かべた男たちに妬けるねぇ。」

「え?」

「俺はお前さんの作るカクテルはとても好きだし、それは他の奴にも味わってほしいと思うが…、その反面お前さんがそのカクテルを作るたびに思い浮かべた野郎どもが気に食わないって言ってんだよ。」

イゾウさんは言い終えた後、席を立ちゆっくりと私の方へと向かってきた。

「い、イゾウさん?酔っちゃいましたか?」

「いやあ、全然酔ってないよ。」

「で、でも少し外で飲み過ぎたんじゃないんですか?」

「それもないなぁ。俺はエースやらサッチとは違って自分の限度ってもんをわかってるからな。」

「え、えと、じゃあ、どうしてこんな至近距離にいるんですか?」

そう、イゾウさんはいつの間にか私の目の前まで移動してきていたのだ。

「んー?それを聞くのは野暮じゃないかい?」

「いやいや…、さすがに冗談通じないですよ。」

「冗談じゃなかったら良いのかい?大体、こんな至近距離でくっついてる男女がすることと言ったら一つだろう?」

「ちょ、何言ってるか良くわからないです。」

グイッとイゾウさんの胸を押し返そうとするも叶うはずもなく、次の瞬間には、私はイゾウさんの胸の中にいた。

「マルコはよくて、俺はダメなのかい?」

そう、さっきまでの強気な声とは変わって、悲しそうなイゾウさんの声が聞こえた。

「…え?」

「あいつとはキスが出来ても俺とは出来ないのかい?」

「や、やっぱり見てたんですね?」

「あぁ、気にくわねぇもん見ちまったと後悔したよ。」

「あれは、マルコが無理矢理…」

言いかけた時イゾウさんは私を抱きしめる腕を強くした。

「それも気にくわねぇ。」

「はい?」

「俺のことは名前に”さん”付けのクセにあいつのことは呼び捨てでよぉ。」

イゾウさんは自分のことをさん付けで呼ばれるのが嫌だったらしい。
大の大人が子供みたいに拗ねてしまった。
いや、いい年下おっさんがだ。

「じゃあ、私がこれから呼び捨てで呼べばいいんですか?」

「いや、それだけじゃダメだ。足らねぇ。」

「う…、じゃあ、」

「サラから、俺にキスしてくれないかい?」

彼は私を抱きしめたままそっと耳元で囁いた。
ただでさえ色気ある声なのに、こんな耳元で囁かれたら気がおかしくなってしまいそうだ。

「そしたら離してやる。」

「それは脅迫ですか?」

「無理矢理お前の唇奪った変態鳥よりはマシだろ。なぁ、してくれないんだったら、このまま外に戻ってその変態鳥に自慢でもしてやろうか…。」

「うぅ。拷問のようですね…。」

「で、決めたのかい?」

「わ、わかりました!わかりましたからいちいち耳元で囁かないでください!」

「フフ、お前さん耳まで真っ赤だな…。やおおあり耳が弱いのか…フフ。」

「からかわないでください!」

「悪かった悪かった。」

「目、閉じて屈んでください。」

「分かった。」

すると、イゾウさんは言われたとおりに屈んで目を閉じた。
まじまじとみるとこの人の顔はホントにキレイでびっくりした。
少し照れたものの半分ヤケになっていたので、勢いでイゾウさんにキスをした。
小さいチュっというリップ音もオマケにつけてあげた。

そして、イゾウさんが抱きしめていたさっきの状態から私を解放した今がチャンスだと思い、ダッとドアへと走った。

「これっで、貸し借りなしですからね、イゾウ!」

軽く舌を出してべーっとしてやってすぐさまキッチンを飛び出した。
また、つかまってたまるもんか。

残されたイゾウはその後、彼の唇に触れた彼女の唇の感覚に名残惜しそうに酔いしれたあとフフっと笑って、皆があつまっているであろう外へと向かった。

「フフ、かわいい小鳥さんキッスじゃないか。」


雪国。


微笑みに隠れた愛情を出しきれずに春の雪解けをまつあなたのよう。 prevnext
back