◎ 彼にラムネをさしだしてみる
ルッチさんの承諾もつい先日得ることができて、
やっと私もガレーラで働くようになり、
なんとかやってけるかなと…
思っております。
秘書のカリファさんに色々と教えてもらって今では接客担当です。
ほんとにカリファさんって美人で天然で素敵な人なんですね。
セクハラです、が口癖だけど、そこも私は大好きなわけです。
…*…*…*…
「あなたが澪ね?」
「あ、はい、そうです!これから宜しくお願いします!」
深々と頭を下げると、
「そんなにかしこまらなくていいわよ。それに敬語もなくていいわ。これから一緒に働く仲間んですもの。
私はカリファっていうの。カリファでいいわよ。」
「う…、ありがとう、カリファ!」
と、まぁこんな具合にカリファとも仲良くなれたわけです。
「でも、驚いたわ。ほかでもないルッチがこんな可愛い女の子を連れてくるなんて。」
「可愛くなんかないよ!カリファのほうがよっぽど美人さんだよ〜。」
「あら、ありがとう。」
「というか、ルッチさんがこういうことするのって珍しいの?」
「そうね〜。ルッチってあんな感じでしょ?ファンの子とかはたくさんいるんだけど、その中の誰かを特別に扱うなんてことなかったし。」
ルッチさんってそんな人なんだ〜。
確かに、ガレーラで他の職人さんがいるときは腹話術で喋ってるし、意外にもキャーキャーされてるし、びっくりだ。
そんな中でこんな異世界からダイブしてきた人間の面倒を見てくれるなんて良い人なのかもしれないな…。
今度、時間があったときにでもお礼を言わないとな…。
「まぁ、大体はルッチから聞いてるわ。心配しないでね!」
「え!!ルッチさんが私のことを?一体なんて言ったんですか?」
「"俺の下僕だ、丁重に扱え"って。」
「は!?」
良い人だなんて思ったのを取り消すことにします。
やはり、彼はとんでもない人でした。
「大丈夫よ。これから頑張りましょうね。」
「お、押忍!」
…*…*…*…
スーツをビシっと着こなして今日も商船の修理を頼む人たちの対応を行う。
海賊船とかは大変で恐いらしいから、わたしにはまだまだ手に負えませんからね。
それでも今は補助としてカリファに脇についてもらっている。
わたしがまだまだ半人前ということで相手に甘くみられるのを防ぐためだそうな。
でも、あとでカリファがこっそり教えてくれたのを聞くと、最近は商船のお客でも下衆な奴らが多いらしく、若い秘書目当てで来る輩が増えたからだそうだ。
うーん。
確かに私の見た目じゃまだまだなめられてしまうのだろうな。
やっと、一件の受注が終わったところでカリファと並んで裏庭を歩いていると、バッタリ、カクに会った。
「おぉ〜、澪も様になっとるのぅ。」
「あ、カク!でしょでしょ?」
「本当に、ガレーラの看板娘のようじゃのぅ。」
「ヤダー、カクってば褒めすぎ。私よりもカリファのほうが合ってるって!」
「それも、そうじゃが…、澪のほうが…、」
「カク、セクハラよ。」
「そうそう、カクのセクハラー。」
あはは、と笑いながら、バシっとカクのことを軽くどつくと、私の背中になにやら、熱ーい視線が送られているのに気づいた。
「ほら、澪、呼んでるわよ。」
こそっとカリファが耳打ちをしてきた。
「う…、行かなきゃダメかな?」
「早く行かないと主人が怒るわよ?」
「それは、ダメだ〜!行ってきます!」
ルッチさんは二階のバルコニーから視線を送ってきていた。
その場所へ私は向かった。
「…、ルッチさん。何かありましたか?」
『クルッポー。』
なんだ、この人。
この前二人っきりのときは地声で話しかけてきたのに、また、ハットリを使って腹話術で話そうとするのか。
あ、そっか、レアなんだっけ。この人が地声で話すの。
ルッチさんが何も言わないので、
「はいはい、分かりました。後でお話を伺います。」
そう、冷たくあしらうと、
ルッチさんはむっとした。
(いつもむっとしているが。)
『澪、コーヒーを淹れてこいッポー。』
「コーヒーですか?というか、なんで私が??」
『客には出して俺には出さないとゆーのかッポー。』
「お客様にはお出ししますよ。だって、それが私の仕事ですから。」
『…。』
あ。
はじまった。
ルッチさんの
"だんまり"
こーなると3日間は口訊いてくれないんだよね。
確か、ずいぶん前にルッチさんにチキンカレー出した時もひどかったもんね。
…*…*…*…
「今日の晩飯はなんだ。」
「秘密でーす。出来てのお楽しみ。というか、ルッチさんなんでもいいって、言ったじゃないですかー。」
カレーは前に作った時も普通に食べてたからね。
「はーい。出来ましたよ。」
そういってルッチさんの前にチキンカレーを差し出すと、
思いっきり眉間に皺寄せてむっとした。
「おい、なんだこれは。」
「何ってチキンカレーですよ?
チ・キ・ン・カ・レ・−。そんなのも知らないんですか?」
「俺はそんなことをきいてんじゃねぇ。」
「え、だったら、一体…。」
そういうと、
ハットリがバサバサっと
止まり木へと飛んだ。
あー。
なるほど。
わかりましたよ。あなたの言いたいことが。
ハットリを飼ってるあなたにとってこれは動物愛護なんとかに反してダメだと言いたいのですね。
そして、何故か3日間、口も訊いてくれなかった。
結局、3日悩みに悩んで、気づけなくてごめんなさいって謝ったら、そんなことまだ気にしてたのかってアッサリ言われて拍子抜けしてしまった。
…*…*…*…
私が謝ったけど、この人チキンカレー残さず食べてたくせに。
そんなことも言えるはずがないので、ルッチさんの指示におとなしく従う。
「はいはい、淹れてきますよ〜。」
あんな状態のルッチさんと一緒なんて本当にいやだからな〜。
愛情込めてきちんと淹れてきましょう。
給湯室にコーヒーを淹れにむかった。
お湯を沸かしているときに、冷蔵庫をふと開けてみると、なんとそこにはラムネが!!!
ラムネかぁ。
ルッチさん、喜ぶかな〜。
ラムネって確か夏の風物詩だし。ウォーターセブンなんて、夏みたいなもんだし。
ルッチさんは二階のバルコニーにもたれかかっていた。
「ルッチさーん、淹れてきましたよ!」
「やけに、はえーじゃねぇか。」
あ、ルッチさんの地声。
「えへへ〜。あ、ルッチさん目をつむってください。」
「あ?なんで、「いいから〜、いいから〜!」」
ルッチさんが目を瞑るのを確認してからその手にコーヒーカップに入れたラムネを渡して、念のために私も手で目隠しをする。
「飲んでもいいですよ〜!」
ゴクっと一口ルッチさんが口をつける。
「ラムネか?」
「はい!なんか、夏らしくっていいじゃないですか。」
「ふっ。お前らしいな。」
「え〜?私らしいですか?」
怒られるかなっと思っていたけど、思いのほかルッチさんの反応は良かった。
(…ラムネの気泡のように一瞬にして俺の前にあらわれて、
そして、
気泡のように一瞬のにして俺の前から…。
ま、
そんなことは、させねーけどな。)
「悪かねぇ。」
「やった。」
彼にラムネをさしだしてみる…(お前も飲んでみるか?)
(ちょ、え、これって、間接…!!!)
prev|
next