◎ 敵は狼にあり
ルッチさんとともに長官室へと戻ると、長官はいつも通りにコーヒーを吹きだしながら、電話をしていました。
「…おう、そうか、そうかってぶあっちいいいいいいいいいいいいい!!!!!あんだよ、このコーヒーは!!!!!!」
『長官、セクハラです。』
「コーヒー吹きだしたから?!」
どうやら、電話の相手はカリファらしい。
わたしとルッチさんの姿を確認すると、長官はルッチさんに向かって、その受話器を差し出した。
「ん、お前にだってよ、ルッチ。」
ルッチさんは長官が差し出した電伝虫の受話器を受け取った。
「ルッチだ。」
『ルッチ、こっちの方で少し揉め事が起きちゃって…、急遽戻ってきてほしいのよ。』
「なんだ?なにか問題でも起きたのか?」
『えぇ、少しね。』
「わかった。今日の最終便にでそっちに行く。」
『よろしく。』
そういうとルッチさんは受話器を置いて、ため息を一つついた。
「そういうわけだ。来て早々だが帰ることになった。」
「向こうで何かあったのか?」
「そこまで大変なことではないと思いますが…。澪、お前はどうする?」
「どうする・・・とは?エニエスロビーに残っていいってことですか?」
「あぁ。向こうに帰ったらまた業務もやることになるだろうな…。お前はこの前体調崩したんだから少しこっちで休んでったらどうだ?」
「療養ってことですかね?」
「そうだ。いいですよね、長官。こいつには俺の部屋を使わせてください。」
「おう、そこら辺は給仕に任せればいいだろう。」
「では、このまま俺は戻ります。」
「あ、ルッチさん、頑張ってください。」
「任務の方も早く終わらせろよ?」
「無論です。」
そう言って、ルッチさんは足早にウォーターセブンンへと向かう海列車の最終便に乗って戻った。送ると言うわたしの意見は無下にも却下されてしまった。
ゆっくり休め、そう言われておでこにキスを一つ落として帰って行った。
ルッチさんが帰り、長官室に長官と二人きりになってしまった。
「あの〜、長官、CP9のメンバーってわたしいまいち把握してないんですが…。」
「あぁ、そうか、それもそうだよな。どうせルッチもあんまり説明してねぇだろうしな、ガハハハハ。よし、とりあえず、ウォーターセブンに任務で行ってるやつらで誰を知ってる?」
「誰?!えっと、ルッチさんでしょ、それからカリファ、あ、あとカクも!」
「まぁ、そこが主流だな。あと、会ってないんだろうが、ブルーノって奴も行ってるからな。」
「あ!あのバーの店主さんですか!」
「なんだ知ってるじゃないか。あと、こっちに残ってるやつらが他に3人いるからな…」
長官が話している最中に、長官室の扉がいきなりバンっと開いた。
「ゲハハハハハ、長官、化け猫の野郎が来たって本当か!?」
「おう、ついさっき帰ったぞ、ジャブラ。」
「何だよ…って。お!お前が噂の異世界人か!?」
「はい、そうです!」
「お、澪、こいつがさっき言ってたこっちに残ってる奴らの一人のジャブラだ。」
「おう、宜しくな。」
そう言ってジャブラさんが気さくに手を伸ばしてきたので、わたしはその手を取った。
「澪と言います。よろしぐう?!」
ジャブラさんに差し出された手を取ると同時に思いっきり握りしめられてしまい、とんでもなく情けない声を出してしまう羽目になった。
「ゲハハハハハ、お前全っ然力ないな。」
「ひー、イタタタ。あたりまえじゃないですか!わたしは一般人です!!」
「おーおー、わぁーったわぁーった。ところで…」
そう言ってジャブラさんはわたしの肩口をクンクンと臭いを嗅いだ。
驚いた私は一歩後ろに下がった。
「な、なんですか一体!?」
「お前から滅茶苦茶化け猫の臭いがするぜ。きみわりぃな…。」
「ジャブラ、こいつはまぁ、アレだから、な。」
「あ?!長官、それは本当か?!」
「あぁ、そうだぜ。手ぇ出したら殺されるぞ、ルッチに。」
「ケッ、いけすかねぇな。」
「ちょっ!ルッチさんは関係ないですよ!」
「まぁ、俺にはギャサ…っと、これいじょうは言えねぇな、ゲハハハハハ、まぁ、せいぜい頑張れよ、異世界人。」
そう言ってジャブラさんはわたしの頭をガシガシして帰っていった。
「わたしの名前は澪ですよ!ジャブラさん!」
聞いてないし。
そしていきなり現れていきなり去ってくなんて…。
あれ、でもジャブラさん、ルッチさんがいるからってここに来たっぽかったよね?
これってもしかしてジャブラさんってルッチさんのことが…。
「長官…。」
「なんだ?」
「わたし、ジャブラさんに負けないように頑張りますね。」
「はぁ?!」
「よーし、わたしも明日から給仕さんのお手伝いでもします!そして、女子力あげて対抗します!」
「お、おう。なんだかよくわかんねぇが頑張れよ。」
「はい!」
敵は狼にあり(最後に愛は勝つんです。)
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