◎ 頼れる背中
目を覚まして一番に目に飛び込んできたのはルッチさんだった。
そして、目を覚ました私をこれでもかというくらいに抱きしめてくれた。
それでここが自分の世界ではないということを再認識した。
あぁ、わたし戻ってこれたんだ。
その安心感と、抱きしめてくれているルッチさんが抱きしめてくれているという暖かさから、目から自然と涙がこぼれてしまった。
「おい、どうした?どっか痛いところでもあるのか?」
ルッチさんが心配そうな顔で見つめてくる。
「い、いえ…、ただ、安心したら涙が……。」
「心配させんじゃねぇよ、バカ。」
「ごめんなさい…。」
ルッチさんが抱きしめてくる腕の強さを、少しだけきつくする。
私もそれに応えるかのようにルッチさんの背中に回す手を少しだけ強くした。
すると、
ガチャっとドアが開き、確認してみるとそこにはカリファが居た。
「コホン、お取り込み中ごめんなさい。」
「ちっ。」
ルッチさん、舌打ち丸聞こえですけど…。
けれども、そんなこと関係なしにカリファは気にもしないで続けた。
「ルッチ、澪も目を覚ましたことだし、こっちは大丈夫だから仕事に戻ってもらえるかしら?あなたがいなくて滞ってる仕事がたくさんあるの。」
「あぁ、そうか…。分かった。すぐに終わらせてくる。」
そう言ってルッチさんは部屋を去っていった。
しかし、先ほど、仕事が滞っていると告げられた時のルッチさんの顔はすごかった。
目が本気(マジ)だった。
完璧主義のかれにとって仕事が滞るとかいうのが許せなかったのだろうか。
閉じたと思ったその扉がまた開いたと思ったら、ルッチさんが顔をだしていった。
『澪、今日の帰りは迎えに行くッポー。待ってろッポー!』
「はい!分かりました!」
そう答えると、ルッチさんは口の端をほんの少しだけあげて仕事に戻っていった。
カリファはふふっと大人な笑みを浮かべて、コップにさっと水を注ぎ、私に差し出してくれた。
コップにそっと口をつけて飲む。
どのくらい眠っていたのかは分からないが喉がカラカラだったのだ。
「本当に澪はルッチに愛されてるわね。」
「ブハッ」
思わず飲んでいた水を思いっきりはきだしてしまった。
「ゲホゲホっ、ちょ、カリファ!」
「あら、思ったよりも動揺しちゃった感じかしら?」
「そんなこと………・・・、」
「あったりするのね。あなたを見れば分かるわ。ところで、澪、体調のほうはどうかしら?」
「あ、うん。よくなったよ。そう言えば、なんで私ここに…?」
「はぁ…。まったく、自分の体調管理くらいしっかりできるようにならないとダメよ。あなた、過労で倒れたのよ?」
「え!?」
「倒れたときに頭をぶつけたらしくて軽い脳震盪を起こしたらしいってドクターが言ってたわ。」
「そうだったんだ…。」
「ついでに言うと、ここにあなたを運んできたのはルッチよ。」
「え??」
「新しい受注を受けたでしょ?それで仕事の相談を秘書室でしていたら、変な胸騒ぎがするとか言い出して飛び出したかと思ったら、倒れてるあなたを見つけて、「医者を呼べっ!」って大声で言い出すんだもの。ほんとに野生の勘ってすごいわね。」
「ルッチさんが助けてくれたんだ…。」
「まずは、早く元気になっていつもの笑顔を見せることよ。そして、そのあとにお礼を言いなさい?」
「はい、そうします。」
「とりあえず、今日はこのままここでルッチ来るまで、大人しく寝てなさい。」
「でも、仕事…!!」
「今まで私一人でだってやってのけてたのよ?あと、具合の悪い誰かさんなんて使い物にならないわよ?」
「うっ…。」
最後にカリファが笑顔で毒を入って医務室から出ていった。
そうだよね。
早く治すことが先決だよね。
そのあとでルッチさんにきちんとお礼を言わないとね。
私は、頭から布団をかぶり体力回復に努めようとした。
…*…*…*…
再び目を開けると、先ほどとは違って穏やかに笑っているルッチさんがいた。
「わ、ルッチさんいつからいたんですか?起こしてくれてもよかったのに…。」
「病人がいったいなにをぬかすんだ。」
「びょ、病人って…、確かに体調管理も出来てないですけど…。」
「まぁ、いい。目が覚めたなら帰るぞ。」
「ちょっと待ってください今急いで準備を…」
「大丈夫だ。お前の荷物はすでにカリファがまとめてくれた。」
「流石カリファだなぁ…。何から何までお世話になりっぱなしで、申し訳ないです。」
私がそういうとルッチさんは一瞬眉を顰めて、ベッドから起きあがろうとする私を押し倒した。
先ほどの言動のどこに問題があったのか分からないが、ルッチさんからは怒りに似たようなオーラも感じられる。
ルッチさんに押し倒されて、自然と向き合う感じになってしまって私は恥ずかしくて目を逸らしていた。
けれども、ルッチさんの瞳はしっかりと私を捉えていた。
「お前何か勘違いしてねぇか?」
「え?」
「何を申し訳ないって思ってんだ?まさか俺たちが偽善の気持ちでお前のことを色々とやってるとか思ってんのか?
なら、大きな間違いだ。少なくとも俺やカリファやカクはそんな気持ちでやってるわけじゃねぇ。」
「………。」
「いいか、間違えるな。俺とお前は恋人だ。もし、他の奴には無理でも、俺にだけは甘えろ。分かったか?」
そう言うとルッチさんは私を抱きしめてくれた。
「ルッチさん、ごめんなさい…。
ほんとにありがとう。」
「…いつも通りの笑顔だな。」
ルッチさんはほほ笑んでわたしの額にチュっというリップ音のおまけつきでキスをした。
頼れる背中(ルッチさんっ!突然過ぎて心臓が!)
(慣れろ。)
(え)
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