◎ めぐりあひ
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あぁ。そうか、わたし倒れたんだっけ?
目を覚ましているはずなのに、周りは一面真っ白の世界だ。
あ、これって元いた世界に戻るとかそういうパターンなのかな?
だとしたらルッチさんにさよならでも言ってくればよかったな。
お別れくらいちゃんとしたかったよ。
そうすれば余計な気持ちとかそういうものも残らないわけだし。
なによりも、ルッチさんには感謝してもしきれないくらいの想いも抱いちゃったわけだし。
戻る…
ってことはあの現実に戻るってことか。
真っ白な世界でまた目を瞑ってみる。
考えてみると、
ルッチさんたちには私のいた世界のことはあまり深くは聞かれたりはしてないし、私から話すこともほとんどない。
実際、わたしがもといた世界で幸せだったり、普通の生活をしていたならルッチさんたちのいる世界に飛ばされて、あんなにすぐに馴染むことなんて出来なかったと思う。
そう。
わたしは元いた世界があまり好きではなかった。
別に学校生活に不便はなかった。
先生たちだって、優しかったわけだし、友達とも平凡ながらも楽しく過ごせていた。
問題は家のほうだった。
親の不仲。
続くケンカ。
お互いに繰り返される不倫。
そんな家が嫌だった。
いつだったか、小さいころに私が風邪をひいたときでさえも、どっちが病院に連れていくかで揉めていたのが記憶にある。
「ねぇ、澪が熱出してるんだけど。病院に連れて行ってくれない?私このあと出かけなきゃならないのよ〜。」
「そんな暇が私にあるとおもってるのか?これから、また、取引先に行かなければならないというのに…。」
「どうだか〜。どうせ、またあの女と会うんじゃないの?」
「お前こそ、あの男のところに行くんじゃないのか?」
そこからまた揉めはじめて、収拾がつかなくなる。
その頃小さかった私はどうすることも出来なかった。
成長してからも両親が家に帰ってくることはなかった。
ダイニングのテーブルの上に適当にお金が置いてあるだけだ。
別段と生活には困ってはいなかったが、心にポッカリと大きな穴があいたような気がしていた。
…*…*…*…
そんな生活にも慣れ始めて、何も感じなくなっていた高2の夏。
夏休みの課外を終えて、友達と放課後掃除を終えた後、どう過ごすかについて話していた。
「澪〜、今日の帰りカラオケ寄って行こうよ!」
「あ〜、ごめん今日はパスするわ〜!」
「澪、最近付き合い悪いな〜。彼氏でも出来たの?」
「えー!?ホント?あ、もしかして、岡崎になにか言われたの?」
噂好きの二人が私を質問攻めにしてくる。
あー、まったく、このクラスのなかにまだ岡崎くんがいるんですよ〜?
そんな大きな声で話したら聞こえちゃうじゃないか…。
って、あ、岡崎くん、こっち見てるよ。
「べ、べつに好きとかじゃないんだからね!」
「「でた〜澪のツンデレ〜〜〜!!」」
あ〜、だめだ。
これは逃げるが勝ちだ!!!
「わ、わたし、今日は部屋の掃除するから、早く帰るね!ごめんね!お先!!」
バックを持って教室を飛び出す。
そして、
交差点の人ごみを歩いている時に目の前が真っ暗になったかと思うと、ルッチさんのいる世界に飛ばされていたのだ。
…*…*…*…
戻りたくない…。
私の居場所はこっちじゃないんだよ。
ルッチさんがいてくれるところなんだよ…。
心の中で強く願った。
すると、
真っ白だった世界とは一変し、真っ暗な世界が視界に広がった。
けれども、遠くからあなたを呼ぶ声がハッキリと聞こえてきた。
すると、声と同時に小さな光が私の前に現れた。
私はその光にすがるように手を伸ばした。
「…!澪!」
「…、る、ルッチさん?」
目を覚ますと心配したルッチさんの顔があった。
目を覚ますと同時に私はルッチさんのしっかりとした腕の中にいた。
「…ッ、ばかやろー。ったく、俺がどれだけ心配したか…。」
「うー、ルッチさんごめんなさいー。」
私もルッチさんの背中に腕をまわしていた。
めぐりあひ(よく、戻ってきたな)
(あなたが私の名前を呼んでくれたから)
あの日も"今"に繋がっていた。
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