◎ いまひとたびの
目が覚めるとまだ明け方近くだった。
窓の方を見てみると朝日も出るのか出ないのかハッキリしないような空だった。
昨日は一体何があったんだろう。
記憶の回路をたどってみる。
…あぁ、そっか。
昨日はあのまま眠ってしまったんだ。
ルッチさんを起こさないように動いて態勢を整える。
動くたびに私の体とシーツのすれる音が聞こえてなんだかそれが卑しく聞こえた。
動いてみて頭も少しはっきりしてきて昨日のことが鮮明に蘇ってきた。
昨日は二人で久しぶりに過ごせた日で、しばらく会っていなかったから会えたことがとてもうれしかったんだ。
だから、
ルッチさんとかわす一言一言が大切でその言葉さえも愛しく思えたんだ。
きっと、寂しいと思っているのは私だけだろうと思っていたけれど、実はルッチさんもそうだったみたいでそのことを口にしてくれた。
あまり多くを口にしないルッチさんがそう言ってくれたから、そう言われただけで私は本当に幸せだった。
そして、ルッチさんに抱きしめられるとなんだかとても不思議な気分になる。
心の後ろをくすぐられているような懐かしくて、嬉しくて、ほんのりする気持ち。
そっか。
これも好きなのかと改めて実感する。
カリファが言うように私はルッチさんに恋をしているんだ。
隣を見ると、私の傍にはルッチさんの寝顔があった。
昨日からルッチさんの腕はずっと私のことを抱きしめたままだ。
久しぶりに朝ごはんでも作ってあげよう。
そう思ってベッドから出ようと、スヤスヤと寝ているルッチさんのうでから抜けると
ルッチさんの手が私のタンクトップの裾を掴んだ。
「起こしちゃいましたか?」
「…どこに行くんだ?」
「朝ごはん作りますよ!久しぶりに!」
「そんなのいらねーから。だから、今はお前が…、澪が俺の傍にいろ。」
そう言って私の腕を掴んで、ベッドの中へと引き戻した。
ベッドに引き戻された私はルッチさんの腕に腕枕をしてもらう形だった。
重いからいいですと、断っても
お前なんてたいして重くも何ともねぇ、と言って私が離れるのを許さなかった。
「…ルッチさんいつから起きてたんですか?」
「澪が目を覚ます少し前だ。」
「じゃあ、狸寝入りだったんですね?ひどーい。だまされた。」
「だまされる方が悪いんだ。」
「ルッチさんってホント天邪鬼ですよね。」
「うるせぇ。その口塞いでやるぞ。」
「ど、ど、ど、どさくさまぎれに何セクハラまがいのことを言ってるんですか!?」
「どもりすぎだ。それとも何だ、そんなにキスして欲しかったのか?」
「…っ〜〜〜。そうやってルッチさんは面白がって私のことからかって!ずるいです!」
「面白いだけでからかっているわけじゃねぇよ。」
「え…?それって…・」
「言わせんじゃねぇよ…。俺は…。
澪のことが好きだ。」
…え?今何て?
ルッチさんが私のことを好きって?
嘘だよね…。また、冗談だって笑い飛ばすんだよね。
そうだ。そのはずだ。
だったらこっちから笑い飛ばそうと声を発しようと思ったが口から出た言葉は自分の意思とは全く反対の言葉だった。
「ほんとですか?」
「あぁ。嘘じゃねぇ。」
自分でも何でこんなことを聞いたのかは分からないがルッチさんは嘘ではないと答えてくれた。
嘘ではないんだ。
夢かと思って自分の頬をつねってみたが、やっぱり、痛くて夢なんかではないことが分かった。
「澪、お前は俺のことが嫌いか?」
「…嫌いなわけないじゃないですか!私もルッチさんのことが好きです。」
私が言葉を言い終えた後にルッチさんは私の頬にいつの間にか伝っていた涙をぬぐい、また優しく抱きしめてくれた。
「澪、好きだ。」
「私もです。」
二人の気持ちが繋がる時。
幸せのカタチがはっきりと分かった気がした。
いまひとたびの(何泣いてんだよ。)
(だって、ルッチさんが…うわーん。)
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