◎ ため息は寂しさのサイン
この前からなんだかルッチさんは
少し丸っこくなった気がしています。
あ、太ったとかそういうわけではないんです。
いつものあのとげとげしい雰囲気が薄れたといえばいいんでしょうかね。
なにはともあれルッチさんの機嫌がいいことは良いことです!
とは言っても…、
この前の自分の行動は少々出過ぎだったんじゃないかとか、
もしかすると、実はルッチさんは迷惑だったのではないかと考えたりしたら
心の中がジメジメしてる感じです。
そんなジメジメのままで会うこともできずに避けまくりです。
ー秘書室ー
「はぁー。」
「なんじゃ、澪、大きなため息じゃのぅ。」
「なんだ、カックンか。」
秘書室の自分のデスクで大きなため息をついた私に声を掛けてきたのはカクだった。なんでも、カリファに頼んでいた書類をもらいにきたとか。
けれども、
今、カリファは商船の船長さんがいらっしゃってそのお相手をしているので秘書室には不在である。
「なんだとはなんじゃ。わしじゃ不満なのか?」
「別にそんなこと言ってないよ〜。」
「大体お主はなぜワシのことをカックンと呼ぶのじゃ。素直にカクと呼べばよかろう。」
「えー?カックンダメなの?ていうかね、私にとって一番年が近いのがカックンだし。親しみやすいんだよ。」
そういって、得意の営業スマイルを見せたらカックンははにかんで帽子を少し深くかぶり直してさっさと秘書室を出ていってしまった。
「…変なの。」
「フフ。あなたって子はとんだ小悪魔ね。」
「カリファ!!いつからいたの?!」
「カクがこの部屋から出ていったときに一緒に入ってきたのよ。カクが秘書室に入っていくのが見えたんだけど、なんだか楽しそうに話しているから入りづらくて。」
「立ち聞き〜?カリファもみかけによらずだね。」
「それは澪には負けるわよ。」
「なんで?」
「あら、だってね。カクこの部屋から出ていくとき私に気づかなかったのよ?よほど澪の言葉に心が動かされたのかしらね。」
「カリファ姉さん、いつも難しいことがポンポンと出てくるね。ある意味尊敬します。」
「あら、澪に尊敬してもらうなんて光栄だわ。」
そう言ってカリファは自分のデスクにのっかっている私の淹れたコーヒーを飲んだ。
「…?あら? 澪、淹れ方変えた?」
「気づいた?あのね、ルッチさんがね、正しいコーヒーの淹れ方だ!って言ってこの前教えてくれたんだよね。ルッチさんコーヒーにはうるさいから毎朝大変なんだよね。」
「へぇ〜。ルッチがねぇ。」
へへっとほほ笑む澪を見ていたらルッチが彼女に執着する意味が分かった気がしたとカリファは心の中で思った。
「あ、そうそう澪、さっきアイスバーグさんに頼まれたんだけど、何でも大きな仕事が入るらしいのよ。だから、しばらくは忙しくなりそうよ。」
「そうなのかー。まぁ、忙しいのはいいことだよね。」
じゃあ、仕事を始めましょうか。
そう言ってカリファの合図でまた仕事を始めた。
…*…*…*…
その日の晩、
珍しく二人の帰る時間が合ったので、私とルッチさんは二人で帰宅している。
「ルッチさんー。なんだか大きな仕事が入るらしいですね〜。」
『そうだなッポー!まぁ、さっさと終わらせるだけだッポー。』
あ、そっか。
外を歩くときは腹話術なんだっけ?
「手を抜かないでくださいよー。」
『俺は与えられた仕事は最後までやりとおすッポー。お前じゃないから、手を抜くなんてそんなことしないッポー。』
「私だってしませんよー。」
二人で話していると路地の間から強い風が吹いた。
季節の変わり目に吹く風だ。
夏の湿気を帯びた風とはうってかわって秋を感じさせる風だ。
私が立ち止まって風を感じていると少し前を歩いていたルッチさんが振り返った。
あ。
まただ。
トクンと胸の奥の鼓動が鳴る。
以前はこんな風に立ち止まってもどんどん先に行っちゃってたけど、今回はきちんと振り返ってくれた。
『どうしたんだッポー?』
「寒くなってきましたね〜。」
『季節が変わるんだなッポー。』
「夏も終わっちゃいますねぇ…。…ヘックシュ。」
小さくくしゃみをするとルッチさんはクスっと笑って、また歩き出した。
『早く帰るッポー。』
「はい!」
そう言って少し先を歩くルッチさんの隣りに小走りで駆け寄って、くっつきそうなくらい近くを歩いた。
帰宅して簡単にご飯を食べて私は片づけ。ルッチさんはシャワー。
私がここにきて初めの方の生活はそんな感じだったが今では帰る時間もバラバラ。
こんな風に二人で過ごせる生活は久しぶりなのだ。
なんだかそれが妙に嬉しくて、フフっと笑っているとバスルームから出てきたルッチさんが声をかけてきた。
「何笑ってんだ?」
あ。
地声。
「別にー!何でもないです。」
そうやっておどけてみせるとルッチさんもそれに反抗してなのかニヤっと笑って私に近づいてイキナリ横にかついでベッドに投げ込んだ。
「ちょ、ルッチさん!まだ、お皿が!」
「そんなのは後でいい。」
そう言うとルッチさんは私を抱き枕のように扱い、ぎゅーっと抱きしめてきた。
この状態は…。
いろんな意味でやばい。
ルッチさん←濡れ髪に半裸。(ズボンは履いている)
私←家の中なのでタンクトップ、短パンにエプロン。
しかも、目の前にはわたしの思い人。
心臓が果てしなくヤバイ。
え。
神様は私に一体どうさせたいの?
ドクンドクン……。
私の心臓が収まることはなくて、
ルッチさんに抱きしめられたままどんどん鼓動は早くなっていく。
しずまれ〜、しずまれ〜
…って
絶対気づかれてるよね。
「…澪、お前緊張してんのか?」
「…っ、べ、別にそんなことありませんよ?普通です。普通…。」
「フッ。強がりな奴め。」
「なっ!そんんなこ「そんなところも嫌いじゃないけどな。」」
…?え?
いま、何て…?
「ちょ、ルッチさん今何て!」
「うっせー。ちょっと黙っとけ。」
それから、
ルッチさんはまた少しだんまりを決め込んだ。
相変わらずだ。
大体強がりはルッチさんのほうだ。
何かあったのだろうか。
「ルッチさーん。今日はなにかあったんですか?」
「…お前がいねぇと静かだなぁって。」
「…?」
「この部屋もお前がいると思ったから早く帰ったりしてたけど、お前のいねぇこの部屋が嫌いだと思った。」
あぁ…。
そっか。
ルッチさんも私と同じ気持ちだったのね。
「ルッチさん…。私も会えなくてさみしかったです。」
私はそっとルッチさんの背中に腕をまわした。
「バカ野郎が。」
ルッチさんも回す手をきつくした。
ため息は寂しさのサイン((…やっぱり好きだ))
prev|
next