◎ 隙間を埋めてみたくて
信じられないことが起きた。
ルッチさんが私を呼び出したのだ。
カリファの前でしかも、地声で。
ルッチさんが掴んでいるところが熱を持っていくのがわかった。
それに気づくと顔の頬も比例して赤く熱を帯びていった。
ルッチさんは無言で廊下を通って行く。
と、思ったら
前にパウリーの後ろ姿を見つけて、チッと軽く舌打ちをしたかと思うと、私をお姫様抱っこで抱えて二階の窓を降りた。
「ぎゃー、ルッチさん!下!下!死んじゃいますよ!」
「問題ねぇ。口開いてっと舌噛むぞ。」
「そんなのヤダ!むっ。」
恐いと思ったのも一瞬であっという間に下に降りた。
流石ルッチさん!
猫のようにしなやかな身のこなしで私を抱えているにもかかわらずさっと着地した。
そこから少し歩いてルッチさんに手を引かれて連れてこられたのは中庭にあるベンチだった。
ベンチに座るように促されて座ると私の隣りにルッチさんも腰かけた。
「…あの〜、ど、ど、どうしたんですか?ルッチさん。」
自分でも驚いたことにかなりどもってしまった。
あーあ。
こんなはずじゃないのに。
いつも残るのは後悔だけだよ。
ホントに何やってんだか。
「…。」
…ルッチさんもだんまりしちゃったし。
・
・
・
しばらく沈黙が続いた。
このベンチは木陰にあるから別に暑くもないし、いい感じの涼しさだ。
もうしばらくこのだんまりが続くと思ったが、口を開いたのはまさかのルッチさんのほうだった。
「…おい、岡崎とは誰だ?」
「岡崎君?岡崎君は私と同じクラスで、クラスでもかっこいいほうの男の子ですよ。」
…?
なんでルッチさんが岡崎君のこと知ってるんだろう。
「あ〜!もしかして、ルッチさん、私とカリファの話し聞いてましたね?」
「そんなわ『クルッポー!』
「ハットリは正直ですね〜。なぁんだ、そんなことだったんですか。」
「…そんなこととはなんだ。
その…、つまりだ…。
お前はまだ、ソイツのことがアレなのか…?」
「アレって何ですか?」
「…っ、言わせんな。好きなのかと聞いている。」
私が岡崎君を好き?ルッチさんはそう思っているの?
え、てことは、ルッチさん、まさか…。
「か、勘違いするな、俺はだな、
俺は…、
お前が、
他の奴の下僕になるのが嫌なだけだ。」
下僕ですとー?
いやいや、なるわけないでしょ。
普通の男女ならそこはカレカノとかでしょ。
けれども、顔を真っ赤にしながら弁明するルッチさんのがなんだかとても可愛く思えてきたから、なんだかおかしくなって笑ってしまった。
「なにがおかしい…。」
「だって、ルッチさん、おもちゃ取られそうな子供みたいなんですもん。」
「…っうるさい。」
「大丈夫です!私は岡崎君のことはなんとも思ってませんし、主従関係はルッチさんとだけで十分です!」
そう言うとルッチさんは安心したかのようにふっと笑って私の頭をわしゃわしゃーっとした。
ふと、心が温まるのが分かった。
あ、
これが恋なのか。
そういうことなのか。
でも、
カリファに教えてもらったこの気持ちをルッチさんに伝えるのはもう少し後にしようかな。
「もう!いつまでわしゃわしゃするんですか!」
「俺の勝手だ。」
わしゃわしゃするルッチさんの手を掴んでベンチにおいた。
「これでいいんです。これで。」
そこには重なった二人の手があった。
そっと手を伸ばす(お返しです。)
(…、やられた。)
それでも離れることはない二つの手。
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