梅雨の最中にやってくるのはじめじめとした空気と中間考査である。
現在進学希望中な私は嫌でも勉強しなきゃいけないので少しは頑張るつもりだ。
そしてその日もいつものように図書館へと寄っていた。
結構通い詰めていたので司書の先生とはだいぶ仲良くなった。
最近ではお勧めの本を交換して読んだりしているくらいだ。
そうなってくると図書館での位置も定まってくる。
わたしは窓際の奥から二番目の席にいつも座っている。
その席にわたしが着くときには斜め前の席には先客がいる。
サンダルの色が一緒であるから同じ学年なのは確かなのだが誰だかは分からない。
ただ、いつも先を越されるのが残念に思う。
わたしも結構早めに行ってるとは思うのだけど。
そして、そのひとがいったい誰なのかは後になって分かることだった。
一通り勉強を終えて、質問があったので、これまたいつものように職員室へと向かう。
渡り廊下を歩いていると、前方にポニーテールの後ろ姿を見かけた。
おっ!と思って、そぉーっとと忍び足で近づいて、後ろからいきなり声をかける。
「シカマルくん!!!」
「うぉ!びっくりしたー!…ってなんだよ、藍夏じゃねぇか。」
「へへ!オーバーリアクションどうもありがとう!なーにやってんの?」
「いや、あれ素だからな?なにって喉乾いたから飲み物買いに自販機に行こうと思ってたんだよ。」
「それは財布持ってるから分かるよ。放課後もだいぶ過ぎたのになにしてんのかなーってことを聞いたのですよ。」
「あぁ〜、テスト前だからナルトたちと勉強会みたいなの?」
「え、なにそれ教室でやってんの?」
「おう、空き教室でイケてないーズでやってるぜ。」
「わ、それ自覚あるんだ。」
「裏でそう言われてんのはわかってっからよー。」
「でも、それみんな愛称だと思ってるからね。愛があって呼んでるからね。」
「それはわかってっぞ。」
「そうだ!わたしもその勉強会参加していい?みんなでわかんないところ教えあった方が効率いいじゃん!」
「俺は別にかまわないけどよ、お前大変だぜ?」
「え?大丈夫だよ?」
「まぁ、いいけど…。じゃ、その前に俺のジュース買いに行くの手伝えよな。」
「さーいえっさー!」
そう言って先を歩くシカマルくんの後ろを歩く。
彼が向かったのは第二体育館の裏に設置してある自販機だった。
「え、こんなところに自販機なんてあったの?」
「あ、お前も知らなかったか?最近見つけたんだよな。結構品揃え豊富だろ?ちょっと遠いけど。」
「わたし購買の近くにある奴しかわかんなかったよ。」
そう言ってる間に財布から小銭を取り出してシカマルくんはカルピスソーダのボタンを押した。そしてその自販機はどうやら当たり付きのものだったらしく、ピコピコピコと電子音が鳴って番号が決まっていく。
7…、7…、7…、
よし、あと一個、あと一個だ。
数字が7のまま止まると思ったが次の8へと変わりそうだったまさにその時、シカマルくんは自販機の画面の下を思いっきりたたいた。
数字は見事7へと逆戻り。
ってあれ、こんなことしていいのか。
「ほら、7が4つ揃ったじゃねぇか。早く好きなもん選べよ。」
「ゴチになりまーす(棒)」
わたしはいちご牛乳のボタンを押した。
「なんだよ、棒読みになって。」
「これって壊したら器物損壊とかに引っ掛かるよね?」
「別にこれくらい大丈夫だって。」
「しかしまぁ、上手く止められたものですね。」
「あ?これにはコツがあんだよ。タイミングがな。修行を積めば分かるぞ。」
「知らなくても生きていけるよ。」
「でもま、美味いだろ?」
「うん。」
思っていたよりもいちご牛乳は甘かった。わたしの脳が糖分を欲していたのだな。勉強中には最高の飲み物だ。
なにはともあれ人の金で飲むいちご牛乳は美味い。
「勉強会ってどこでやってんの?」
「第二講義室。」
「あぁ、あの中校舎の端の方にあるところか。」
「そうそう。人がいなくて助かるぜ。行くか。」
「うむ。」
そして、またシカマルくんと他愛もない話をして第二講義室へと向かった。
「シカマルお帰りだってばよー!」
扉を開けると同時に最初に反応したのがナルトくんだった。
「おう。あと、お客さん連れて来たぜ。」
「ども!」
「「「藍夏(ちゃん)!」」」
イケてないーズのシカマルくん以外のほか三人がぱぁっと輝いた顔をしてこちらを見た。
「勉強会、わたしもお邪魔しちゃっていいですかね?」
「いいってばよ!ほら、藍夏ちゃん座ってくれってばよ。」
すすんで動いてくれる今日はとても紳士的なナルトくん。
「わぁ〜、仲間が増えるっていいね。」
嬉しいこと言ってくれますね、チョウジくん。あ、今日のオーラもまろやか。癒しだ。
「そういえば藍夏って滅茶苦茶頭いいよな!!数学教えてくれよ、数学!」
過去は振り返らないんだよ、キバ。
「教えられる範囲でなら!」
そこでナルトくんとキバがお願いします、と声を合わせて懇願してきたので、思わず笑ってしまった。どこわかんないの?と聞くと、どこが分からないんだかわかんないって、おい。
「じゃあ〜、出そうな所に絞ってやろうか。」
とりあえず、プチ講義のはじまりだった。
…*…*…*…
「で、この式に最後にXの値を代入すれば、最大値のyの値は?」
「「に、2√3!!!」」
「おぉ〜!正解!」
やったと言って、手を合わせるキバとナルトくん。
「すっげーわかりやすかったってばよ!サンキューな藍夏ちゃん!」
「ホントだよ!流石元学年主席だな!」
「マジか、藍夏ってすげーんだな。」
「ホントすごいね!僕も途中から釘づけになっちゃったよ。」
イケてないーズの皆さんが口々にそういうので、ちょっと鼻高々です。あ、ちょっとじゃなくてたくさんか。
「他人に教えることができて初めて分かったと言えるのですね。理解してもらえたなら良かったですよ。」
「ほんっとサスケなんかとは違うぜ、アイツに聞いても、バカには分かんねーよウスラトンカチって言ってそれで終わりだもんな。まったく、あいつの方がウスラトンカチだってばよ。」
「おい…、ナルト後ろ…。」
キバにそう言われて後ろを振り返ったナルトくんは先ほど話していたであろうサスケという人の姿を捉えた。
「げ、サ、サスケ…。」
「だぁれがウスラトンカチだごるぁ。」
そして、わたしの目もサスケという人の姿を捉えた。
そこで彼がいつも図書室にいる人であることに気付いた。
わたしがハッとした顔をしていると、サスケという人もわたしの姿に見覚えがあったのか、お互いにハッとした顔になったまま見つめあうこと数秒。
「あ、あなた、図書室の!」
「お前だって、いつもいるだろ!」
「いや、あなたには負けますって!」
「ふん、そんなのはどうでもいい、たしか井上だったか?」
「え、なんで知って」
「あれだけ司書の先生と話してれば嫌でも聞こえてくるぜこのウスラトンカチ。」
「は?!」
どうやら、サスケという人はわたしのことを知っていたみたいだった。
しかも、話しをするのは初めてなのになんだろうこの上から目線のような物言いは。
「おい、女、次のテストでは精々俺に負けないように頑張るんだな。」
そう言ってサスケくんは去っていった。
「アイツ、一体何しに来たんだってばよ。」
「てか、藍夏、お前サスケのこと知ってたのか?」
「何度か会ってたりはするけど話したのは初めてだよ。キバこそ知ってんの?」
「そりゃあ、あれだけ女子に人気でキャーキャー言われてれば分かるぜ。大体俺よりもシカマルとかナルトとかチョウジの方が知ってんだろ?同じ中学だったんだろ?」
「まぁ、サスケは昔からあんなんだからな。」
「そうだねぇ〜、でも、不思議と仲が悪いわけでもないんだよね。ね、ナルト。」
「あいつは俺のライバルだってばよ。絶対いつかアイツに勝って、サクラちゃんを振り向かせるんだってばよ!!!…って言っちまった〜!!!!藍夏ちゃんこれは内緒で!!!」
「うん分かってるよ!大丈夫!」
どうやらナルトくんはサクラという人のことが好きらしい。
彼らの話を聞くのではサスケくんは思っていたよりも悪い人じゃないということが分かった。
しかし、あんな風に宣戦布告されたならば受けるしかない。
今日の勉強会はそんな感じで収拾しましたとさ。
…*…*…*…
そして、試験後。
5位 奈良 シカマル
7位 うちは サスケ
〃 井上 藍夏
どちらも主席になることは叶わず、しかも同点というおまけがついて、二人の勝負がつきました。
わたしたちの上にシカマルくんがいたのがすごく意外でした(失礼)。
そして、サスケくんとわたしは打倒シカマル同盟を組んで、改めてお友達になりましたとさ。
ブラックホースにご注意を。
(お、アドレス帳がまた増えた。)
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