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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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翠玉の行方はどこに
すっかりと初夏の陽気になり、体育の後は心地よい汗を流すというよりは、滝のように汗が流れ落ちるという表現の方がしっくりくるようになる。

今日の体育は男女混合で、しかも、外で容赦なく持久走をやった。相変わらずガイ先生は情け容赦ない。そしてあの笑顔が暑苦しい。

持久走、というよりはスポーツテストの種目であるからやるというようなもので、女子は1500m、男子は2000mを測ることになっていた。最初に女子が走り、後から男子が走るのである。

わたしたち女子は走り終わり、校庭の日陰で休んでいる。紫外線に怯えるわたしを含めたサクラといのは、厳重に汗を流し終えた後の2度目の日焼け止めを塗りたくっていた。ちなみに、ヒナタは焼けない体質らしい。心底羨ましい。

「本当にもうガイ先生ってばひどいわよね〜。こんな中走らせるなんて!しかも、1500mも!」

と、言いつつもサクラは女子でトップの成績をおさめている。スタート前に、一緒に走ろう、と言われたが断っておいて大正解だった。あの言葉の怖さを思い知りましたよほんと。

「日焼けしてシミになったらガイ先生を訴えてやるわ。」

続けるいのも、サクラに次いで2番目にゴールを果たした。この2人の差は僅差らしい。もう 、一緒に走ろうなんて言葉は絶対信じられない。2人とも早すぎるのだ。

「あ、でも、走り終わったらスッキリしたよね。ちょっと疲れちゃったけど……!」

こんな風に言ってますが、このヒナタでさえもわたしを裏切り、颯爽とゴールをしたのをわたしは忘れません。みんな早すぎるんだよ…。

「藍夏って長距離苦手だったのね〜。」

「うっ、サクラひどい!」

「あー、わたしもそれびっくりしたの。だって短距離はあんなに速かったじゃない!」

「いの、長距離と短距離では使うエネルギーが違うよ!」

「わ、わたしもびっくりしちゃった。藍夏ちゃんスポーツ万能なイメージだったから……!」

「いやいやいや、ヒナタ。それは大きな勘違いだよ。」

……そうなのだ。
わたしは恐ろしく長距離が苦手なのだ。自慢ではないが、短距離ならば女子の方でも上位にくい込む成績を残せるのだが、長距離はいかんせん、下から数えたほうが早いのだ。瞬発力は高いのだが、どうにも体力の配分がうまくできないのである。最初は飛ばせるが後半は失速といった感じであろうか。

最後の方にゴールしたわたしが、ぐったりして日陰でヒナタの膝枕で横になってるのを、最初の方にゴールした2人がタオルであおいでくれている。なんと快適。極楽。しかし、体育仕様で結んだハーフアップが少し邪魔だ。ヒナタの膝枕を堪能できないじゃないか。

「あ、男子が始まったわよ。」

「本当だ。サスケくんはどこどこ?」

「ほら、先頭集団にいる!」

「「キャーサスケくぅーーーーん!頑張ってーーー!!」」

サクラといのの2人の黄色い声が響くなか、わたしは、気だるそうにチョウジくんと仲良く走るポニーテールの少年を眺めていた。

2人で話しながら走っている。ここからだと会話が聞こえないから分からないが、ジェスチャー的にチョウジくんがシカマルくんに先に行けと言ってるっぽい。

あれは絶対最後に本気出すな……。

なんとなくだが分かる。
速い人の特徴だあれは。

ラスト一周半には面白いものが見れそうだな。と、ふふっと笑ってしまった。

「藍夏ちゃん、今すごく優しい顔してるよ。」

その笑顔をどうやらヒナタに見られていた。

「ひ、ヒナタ!」

しーっというポーズをして見せると、大丈夫。あの2人はサスケくんに夢中だから、と答えた。

「シカマルくん、藍夏ちゃんに応援されたら本気出すと思うよ?」

ヒナタにはかなわない。
もしかすると、ヒナタの白眼はわたしの心までも見えているんじゃないかな。

ほら、シカマルくん来たよ、その声を聞いて、わたしはヒナタに促されるように立ち上がって応援しに行った。

「シカマルくーん!!ちんたら走ってないで本気出せー!」

応援というのか、煽りというのか。
とりあえず、彼を本気にさせるのはこれぐらいでいいだろう。

私の声に驚いたシカマルくんはこっちを向いて、一瞬照れた笑いを見せた。チョウジくんも彼の背中を押している。

わーったよ、彼がそう言うのが聞こえた気がした。

すると、どこにその力を温存しておいたのか、ギアを2段程上げたスピードで走り出した。


やればできるじゃん。


彼の長い脚で繰り出されるストロークがとても輝いて見えた。

いた位置が位置なので1位ということはなかったが、サスケくん、ナルトくん、キバくんに次ぐ4位に食いこんだ。

トップを走っていたこの3人は走り終わって即刻校庭に倒れ込み、続いてシカマルくんも疲れたーといいながら倒れ込んだ。

サクラやいのやヒナタがお疲れ様と駆け寄るのに合わせてわたしも彼らの元へと向かった。

「シカマルくんお疲れ。」

そう言えば彼は小さく、おう、と答えた。

「やっぱり速いんじゃん。」

「めんどくせぇけど、藍夏に言われたら本気出しちまった。」

「はい、タオル。これ使ってないからね。」

「さんきゅ。」

タオルを受け取ったとシカマルくんはどうだった?と聞いてきたので、かっこよかったよと答えると、なら良かった、と勝ち誇った笑みを見せた。

起き上がって首の後ろの汗を拭いてると、彼のポニーテールを結んでいたゴムが切れて、きれいな長髪が垂れ下がってきた。

「げ、切れちまったよ。」

「あぁ、待って、わたし使わないの持ってる。結ぶよ。」

そう言ってわたしは手首にいつも付けていたヘアゴムをとり彼の後ろに座った。

「わりぃな。」

「いいよ。」

髪の毛がほどけるといい香りが漂うのは分かっていたが、ここまでとは思わなかった。この香りはどこのメーカーのシャンプーなのだろうか。

彼の髪に触れれば、この前の面談の時の記憶が流れ込んできた。銀髪に触れたあの記憶が。

しかし、シカマルくんの黒髪は銀髪のそれとは違っていて、艶があってコシがある、そんな髪だった。

「シカマルくんの髪ってめちゃくちゃサラサラだね。これ、シャンプーのCM出れるよ。」

「大袈裟だよ。そこまでじゃねぇしな。」

「あー、今クシないから私流でいい?」

「ん?まぁいいぜ。」

そう。シカマルくんの髪は本当にサラサラしていて掴みづらいのである。とってもとっても指の間をすり抜けていく。だったら、こっちも得意なもので対応するしかない。許可はもらったしいいよね、と考えササッと結んだ。

「でーきた!」

そう言って彼の方を向けば、思った以上に似合っていた。その出来栄えに自分でも満足して思わず笑顔になった。

どんな風になったのかわからないシカマルくんははてなマークを浮かべているが、お構いなしに走り終わってしばらくしたチョウジくんを呼んだ。

「わっ、シカマル新鮮!でも、よく似合ってるよ!」

「いやいや、チョウジ、俺どうなってるか分かんねーんだけど。」

「まぁ、そのうちわかるよ。」

そう言って混乱するシカマルくんをチョウジくんはなだめてくれた。

終業のチャイムが鳴り、帰ろうかというところで先に歩き出したわたしにシカマルくんが訊ねてきた。

「なぁ、藍夏。どうなってんだよ?」

そう言われたわたしは自分の髪型を指さして答えてあげた。

「お揃い!」


半分だけど、半分じゃない。


(チョウジぃ、俺はもうダメだ。)
(今のは可愛いかったね。わかるよシカマル。) prev / next