行楽シーズン日和だったGWをなんやかんや楽しく過ごし、その余韻に浸っていた日の昼休みのことだった。
なんとなく会いたくなって、屋上に行けばあの先輩が2人仲良く昼食をとっていた。ちょうど日陰になっている場所で2人は腰をおろしていた。そこまで行ってわたしも一緒に座った。
「お?藍夏じゃねーかうん。」
「どうしたんだ?飯ならやらねーぞ。」
「別にご飯をたかりに来たわけじゃないですよ。」
デイちゃんはサンドイッチ、サソリ先輩は焼きそばパンを食べていた。ご飯はもう食べてきたという旨を伝えれば、2人とも安心したかのようにまたご飯を食べ出した。
「藍夏がここに来るなんて珍しいじゃねーか。」
「そうですか?」
「いつもはオイラたちが呼び出さなきゃ来なかったからなうん。」
「まぁ、いつもはそうですね。」
「……なんかあったのか?」
「なんかないと来ちゃ駄目なんですか?」
「藍夏、そう言うなって。サソリの旦那、藍夏が来て喜んでるからな、うん。」
「うるせーデイダラ今すぐそこから飛び下りろ。」
「旦那!そりゃひでぇぞ、うん!」
いつもの2人のやりとりをみてれば、ふふっと笑ってしまった。
「やっと笑ったじゃねーか。」
「え?」
「さっきから沈んでたぞ。まぁ、悩みがあればオイラたちで良ければ聞くからな、うん。」
「デイちゃん……。」
なんで分かっちゃうかなぁ、と思わずこぼしてしまい、人生経験においても先輩な2人に相談することにした。
「先輩たちって、もう進路とか将来の夢って決まってますか?」
「進路?まぁ、一応決めてるぞ。」
「オイラも決まってるぞ、うん。」
「え!?すごいさすが3年生だ…。」
「いや、そういうわけじゃねーよ。」
「あの、聞いてもいいですか?」
「別に構わねーよ。な、デイダラ。」
「おう、当たり前だ、うん。」
実際のところ、先輩たちが卒業したらどうなるのかずっと気になっていた。先輩たちは今年で卒業だしその後はどうするのかと考えていた。この前の二者面談で、将来の夢も具体的に考えられるといいね、とカカシ先生に言われたものだから、さらに自分の身にいろんな問題が降りかかってきた感じがした。
「じゃあ、まずはオイラからな。オイラは卒業と同時に親方んところに弟子入りするんだ、うん。」
「弟子入り…?」
「藍夏も旦那も知ってる通り、オイラ、花火作ってただろ?あそこに正式に入れさせてもらえるんだ、うん。」
「あぁ!そうだった!デイちゃん花火師になるの?」
「そうだな。オイラにとって芸術は爆発なんだ。儚く散り行く一瞬の美。如何にしてオイラの納得がいく芸術作品が創れるかやってみたいんだ、うん。」
「すごいなぁ…。進路と夢と両方揃ってるのか。」
「まぁ、実際はまだ少し迷ってるぞ。知り合いの先輩からは大学で爆発の研究をしないかって誘われてるからな。けど、先輩のほうは工業的爆発だからなぁ。オイラのもとめる芸術とはまた方向性が違うんだよなぁ。楽しそうなんだけど、うん。」
「そうなのかぁ…。」
「もう少しだけオイラも悩んでみるぞ、うん。そんで、旦那は?」
「あぁ、俺か。俺も卒業したらチヨバアのところに正式に弟子入りだな。」
「チヨバア?」
「あ、藍夏は知らねーか。チヨバアってのは旦那のおばあちゃんなんだよ。この国の人形制作において褒賞とか貰ってるすごい人なんだぞ。ほら、あるじゃねーか、確か伝統工芸とかそういうのだ!ただ、少しだけクセがあるけどな、うん。」
「デイダラ、人形じゃなくて傀儡な。俺はいつかあのババアを越えた作品を創る。デイダラの芸術が爆発なら、俺は永く後々まで残っていく永久の美だ。後世へと受け継がれる完璧なものを俺は求める。」
「2人ともすごいなぁ…。」
2人の夢を聞いて、自分の小ささを思い知らされた気がした。
「わたし、このままじゃだめだなぁ。」
そう言って下を向いていれば、お前はどうしたいんだ、とサソリ先輩が聞いてきた。
「わたしは今のところ、大学進学ってことしか考えてないです。何がしたいかって聞かれても特に何もないとしか答えられなかった。好きなことはたくさんあるけど、やりたいことってなるとこれって言うものがなくて……。」
「藍夏は確か、写真が好きなんじゃなかったけか、うん?」
「あ、はい。写真は好きです。」
「どこが好きなんだ?」
「えっと、先輩たちの芸術論的にいうなら、わたしの場合は、デイちゃんのいう一瞬の美と、サソリ先輩のいう永久の美を合わせたものなんです。写真は本当に一瞬のものを捉えて、ネガにして残したり、現像したりして永久のものにできる。そんなところが好きなんです。」
「「藍夏…。」」
「?」
「「お前、それ最高じゃねーか。」」
「え?」
「なんていうか、お前らしいぞ、うん。」
「あぁ。お前らしい。そして悪くねぇ。極めて行こうとは思わねぇのか?」
「いやいや、わたしよりすごい人なんて山程いますよ。そんな人たちと同じフィールドに行くなんて私には厳しいですよ。それに、わたしのは趣味で十分なんです。」
「オイラは…、オイラはそれでも藍夏の写真が好きだぞ、うん。」
「同感だな。お前の写真が賞取ってるのも知ってる。この前、あの雑誌に載ってたよな?偶然見つけたが、よかった。」
「……2人にそう言ってもらえて、それだけでわたしはもう十分なんですよ。誰かと競うなんて荷が重すぎる。」
「まぁ、別に今すぐ将来を決めなきゃならねーってことはないと思うぞ、うん。」
「そうだな。写真家だけじゃなくて、写真に携わった仕事なんてそれこそ山ほどあるんだ。大学行って好きなこと勉強してそれから見つけても遅くねーと思うぞ。」
「デイちゃん…、サソリ先輩…。」
さすが先輩たちだと思った。
優しい言葉をかけられて、しかも、的確なアドバイスまでもらって、嬉しさのあまり思わず涙が溢れてしまった。
「……?!おい、藍夏!何泣いてるんだよ?どこか痛いのか、大丈夫か、うん?」
「違うんですよ……、先輩たちが優しくて、優しくて、感動してるんですよ……。」
泣きながら答えれば、しょうがねーな、と呟いたサソリ先輩が自分の着ていた学ランを私の頭に被せて、優しく頭をポンポンと撫でた。
「藍夏、急がなくていいんだ。ゆっくりでいいから、自分の道を探せ。お前はそれでいいんだ。」
「…はい。本当にありがとうございます。」
「ほら、これやるから泣きやめ?な?」
そう言ってデイちゃんから渡されたのはチュッパチャップスのストロベリークリーム味だった。
刺が抜けた後の薬。
(デイちゃん、わたしラムレーズンがよかったです……。)
(な!そんなのねーぞ!うん!)
(通常運転だな。)
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